決死の捜索(上)ー緑のバイクを追跡せよ
とあるレコード店で働き始めた頃の話。ボクは買ったばかりのバイクで通勤していた。早番だったボクは、夕方に仕事が終わった。帰り支度を済ませ、店の前に置いておいたバイクにギーをさした。その時、電話が掛かってきたと店の子が教えてくれ、あわてて店に戻った。ほんの2,3分の事だった。バイクがない!しまった!鍵をさしたままだった。直ぐ側の道ばたで、靴修理の店を出しているおじさんに尋ねた。「ここにあった緑色のバイク見ませんでした?」「おぉ、見たぞ、若い兄ちゃんが押して行ったぞ」「どっちに行きましたか?」「あっちだ」「ありがと!」おじさんが指さした方に全速力で走った。ビルの間を抜け大通りに出た。舗道上の人通りをかき分け、車道に飛び出した。しかし、そこにそれらしいバイクの姿は見えなかった。とりあえず、近くの交番に被害届を出しに行った。「被害額はいくらぐらいですか?」「○○円です」「それは新車の値段ですよね、今の実売価格でお願いします」「その値段で買ったんです、まだローンも全然払ってないし」「すぐ探して貰えるんですか?」「まずは書類を送ってからですね」「いつですか?」「それは分からないな」そんなやり取りをしているうちに、だんだん苛立ってきた。こんなことしている間に、バイクは転倒して潰れているかも知れない、部品を取られているかも知れない、、、と頭の中に良くない想像が渦巻いた。結局書類を書くのに1時間以上掛かった。居ても立っても居られず、友達に電話して原付を貸してもらう事にした。何処を探そう? 借りたバイクにまたがり目をつぶって考えた。探すあてなど、はなからないのだ。バイク乗って行きそうなところを想像してみた。近くの山にバイク好きが集まる峠がある。まずはそこだ!そう思ってその峠を目指して原付を走らせた。とろとろと走り大きな交差点の信号で止まった。その時バリバリバリ!と目の前をボクのバイクが走り去っていった。ーやった! 見つけたぞ。やっぱりあの峠に行く気だ。国道から峠の方に入っていった。馬力のない原付で峠を登った。走って上った方が速いような気がした。峠坂を上る間、バイクや車には一台も出くわすことはなかった。展望台の駐車場には、たくさんのバイクが止めてあった。暗くなった駐車場は、確認しづらく、近くに寄って一台ずつチェックして回った。「あいつ何してるんや」そんな声が聞こえたがが、こちらはそれどころじゃない!全部のバイクを調べたが、その駐車場で見つけることは出来なかった。考えに考えた。もしココに上ってきたのだったら、後を追いかけても追いつくはずはない。この先の道は、ぐるっと回って街の方に繋がっている。逆戻りして待ち伏せするのもひとつの手だ。全ては仮定だった。その道を通ったと言う保障はない。しかし、そうとしか考えられない。来た道を逆戻りして、先ほどバイクを見かけた交差点を曲がり、大通りをとろとろと走った。ーここにやってこい! 絶対に自分で捕まえてやる!そう思いながら、まるでレーダーで周りを探査しているような緊張感でゆっくり走った。その時!向こうからバイクがやって来た、目の前でUターンをしたのだ。ボクのバイクだ! 第一発売されたばかりのバイクなので、同車種のバイク自体まだ少ないはずだ。ナンバーも確認した。 間違いない!つづく、、、。