カテゴリ:V 【過去ログ 迫田さおり選手 その2】
<女子バレー>固定概念捨て挑む非常識な新戦術「Hybrid6」とは──眞鍋監督に聞く
8月19日(火)16時38分配信 ○ リスクはあるが、新しいことをやらなければ世界一にはなれない 眞鍋JAPANが新たに挑んでいる「新戦術」。昨シーズンの「MB1」の進化型、マイナスイメージを払拭し、「Hybrid6(ハイブリッド6)」という名称にしたという。6人誰もがどこからでも攻撃できるバレー、その新戦術を、ワールドグランプリ・決勝ラウンド(20日~24日・有明コロシアム)で公式戦で初めて日本で披露する。 <女子バレー>新戦術「Hybrid6」担うキーマンたちの決意──木村、迫田、長岡に聞く 新戦術は、言わば、“ポジションレス”なバレーだ。攻撃陣はポジションを固定せず、1人が複数のポジションをこなす。常識や固定概念を捨て、ローテーション(ローテ)ごとにそれぞれの選手が一番能力を発揮できるポジションにつく、最も得点できる6人で戦う、新フォーメーションだ。 「ノーマルなバレーをやっていては日本は勝てない」「相手より先に25点を取れば勝てるのだから、一番得点できる選手を同時に入れればいい」(眞鍋政義監督)。 ロンドン五輪で銅メダルを獲得、現在世界ランキング3位。2016年のリオ五輪で「世界一」になるために、世界のどのチームもやっていない「新戦術」を打ち出した。ワールドグランプリ予選、出だしはコンビが合わない場面が多かったが、徐々に新戦術が機能しはじめ、アジアのライバル韓国、中国を破るなど4勝5敗。 リスクもあるが、楽しみな新戦術。眞鍋JAPANの賭け、吉と出るか。 日本が金メダルを取った五輪には「新戦術」があった ──まず、「新戦術」をやろうと思われた理由を教えてください。 眞鍋監督 昨年、グラチャン(ワールドグランドチャンピオンズカップ)で「MB1」(ミドルブロッカーを2人から1人にし、ウイングスパイカーを1人増やす)を試しました。2016年のリオ・オリンピックを見据えてその試合を分析、反省、検証した結果、新しい戦術がなければ、2年後、日本は世界一にはなれない、何かやらないと勝てないという思いを強くしました。それで考え抜いて、今年は「MB1」の進化・変化バージョンに挑戦しようと。 歴史を振り返っても、1964年の東京オリンピックの東洋の魔女の「回転レシーブ」(大松博文監督)、1972年ミュンヘンの「時間差攻撃」(松平康隆監督)、そして1976年のモントリオールの「ひかり攻撃」(山田重雄監督)と、日本が金メダルを取った3大会には「新戦術」があった。世界でも、モントリオールで優勝したポーランドはボイトビッチがその大会で初めてバックからスパイクを打ち(バックアタック)、アメリカは2人サーブレシーブ、リードブロックを考案し、世界一になっています。男子も女子も2000年以降、あまり新しい戦術が出ていませんが、日本が勝つには、やはり「新戦術」が必要だと。 相手より先に25点を取れる6人で戦えばいい ○ ──「新戦術」のコンセプトは? 眞鍋監督 シンプルですよ。バレーボールという競技は、ルール上、相手より先に25点、3セットを取ればいいスポーツですよね。ならば、点数を取れる選手がより多くコートに入っていれば勝てるということです。そこで、ミドルブロッカー2人、ウイングスパイカー2人、オポジット(=セッター対角)1人という固定概念を僕自身も払拭して、相手より先に25点(あるいは15点)を取ることができる6人で戦えばいいと。セッター以外の5人のアタッカーをどのような組み合わせにしたら一番効果的なのか、いろいろと考えて試しているところです。 ──日本チームの中でエース揃いの布陣なら、25点を先に取れる……。 眞鍋監督 そう。で、たとえば今までやったら、江畑(幸子)、迫田(さおり)、長岡(望悠)が1つのポジションを争っていたんです。 ──ああ、もったいないと思っていました。悩みの一つでした。 眞鍋監督 単純にその3人かどうかわかりませんが、そのウイングスパイカーの3人が、日本で一番点を取れるメンバーが同時にコートにいる、そういうことも可能になるんです。 ──たしかに練習で木村(沙織)さん、迫田さん、江畑さん、長岡さんが同時にコートにいて、すごいなと思っていました。それで迫田さん、長岡さんがクイックに入ったり、長岡さんがレフトをこなすなど、ローテごとにポジションが違ったり……。つまりは固定のポジションがない、言わば、“ポジションレス”でやられるということですか。 眞鍋監督 そうです。日本選手は、もはや1人が1つのポジションでは厳しい、1人で2つ、3つやれるようにならないと勝てないと思っています。新しい発想で複合的やらないと。そう、松平さんが言われた「非常識を常識に」です。「非常識」なことをやらなければ、日本は勝てない。 たとえば、長岡は左利きだから、従来ならライト(オポジット)というポジションですが、僕も初めはそう思っていましたが、左利きだからライトの方が決まるというのは固定概念で、練習をして試合をすると、レフトの方が決まる可能性が高かったりする。 迫田という選手は、フロントからのスパイクよりもバックからの方がアタック決定率や効果率が高い。そんな選手は男女あわせて世界でもいないですよ。前からの方が当然決まりますから。でもそういう選手なら、前衛でも後ろに下がって後ろからまわって打てばいいと。「MB1」では、迫田の前衛だけど後ろから打つ攻撃に審判も混乱してミスジャッジしていましたね。前衛の選手はバックのラインを踏んでもOKなのに(笑) 小さい頃からミドルブロッカーだ、セッターだと決めてやってきていますけど、サーブレシーブをしない役割のミドルブロッカーの選手が実はサーブレシーブがうまいかもしれない。そんなこともあるかもしれません。僕はミドルブロッカーはミドル、サイドはサイドっていう固定概念を払拭して、長所をより活かせるポジションにつかせてあげたいと思っています。 全日本女子にはもう「ミドルブロッカー」というものは存在しないんです。全員スパイカーです。パスをきっちり上げる役割が「パスヒッター」、それ以外はポイントをとる「ポイントゲッター」です。そして攻撃の呼び方なども、ジェットやマッハみたいに“全日本女子オリジナル”です。 ○ 新戦術が機能しはじめ、予選で韓国、中国に勝利 勝利したワールドグランプリ予選の韓国戦。先発はセッターが宮下(遥)、その対角に江畑、さらには木村-新鍋(理沙)、山口(舞)-長岡。従来の呼び名なら、木村と新鍋がレフト対角のウイングスパイカーで、山口と長岡がミドルブロッカーというポジションだ。 相手スパイクをレシーブした後の切り返し。前衛レフトに長岡、ミドルに宮下、ライトに木村、そしてバックセンターに江畑、バックライトに新鍋。宮下はレフトの長岡へ速いトス。後ろから突如現れたかのような長岡に韓国ブロックはついてこれず、鮮やかに決まった。宮下にディグが入ったときのフォーメーション、長岡そして木村までもがかなり後ろまで下がっていた。前衛に誰もいないような、まるでバックから4人が攻撃しているかのようだった。 翌日の中国戦は布陣を一新。セッターに中道(瞳)、対角に石井(優希)、内瀬戸(真実)-高田(ありさ)、石田(瑞穂)-大野(果奈)で、石田と大野が従来で言うミドル。前から後ろからと石井が躍動、高田、内瀬戸もサイドからの速い攻撃で続き、予選第2週、0-3で敗れていた中国に3-1で快勝。このパターンも有効だ。 ○ 新戦術ではセッターが重要な役目 ──なるほど。ローテごとに、ポジションが変わっていくというか、一番選手の長所を活かすことができて点が取れるポジションにつくということですね。となると、操るセッターは大役ですね。中道さん、宮下さんの2人が軸ですか? 眞鍋監督 そうですね、今の段階では、中道、宮下でいく感じです。新戦術ではセッターが重要になってくると思いますね。コンビ(ネーション)が複雑ですからね。それからトスの配分ですね。日本が勝つためには、5人のスパイカーにある程度均等にトスを上げないといけない。今までは、ロンドン五輪など、木村と江畑の打数が非常に多かった。それでは勝てない。新しい戦術では3人のパスヒッター以外の選手、ポイントゲッター5人の打数を均等にする。だいたい1人が4点、4×5で20点取ってくれたら、相手のミスもあるので間違いなく勝てる計算です。 ──均等になればなるほど、相手ブロッカーは的をしぼれない……。 眞鍋監督 そういうことですよ。反対に言えば、1人の選手、2人の選手に集中してしまうと負ける。そういうセットや試合は負けていることが多いです。 ──ただ、監督もセッター出身、ここってときセッターは当たっている人、一番コンビがあっている人を使いたくなるものでは? 眞鍋監督 そういうのはやっぱりありますが、数字は客観的に現状を正確に判断できる材料なので、それをもとに「トスの配分を考えて」と選手には伝えています。もちろんバレーボールという競技では、大きい大会になると、“ラッキーガール”が出ますから、その選手にいちはやく気づいてトスを上げるということも大事です。簡単なことですよ、決まらない選手に多く上げれば、負けるわけですから。だから、トスの配分と勝負どころを考えてやらないと。 ──「MB1」もそうでしたが、新戦術では攻撃面ばかりがクローズアップされますが、実はポジションレスはブロックでも面白いですね。ブロックのいい宮下さんがミドルだったり、木村さんもミドルに跳んだり……。 眞鍋監督 そうです。新戦術は複合的に、です。ブロックも“ミドルブロッカー“ではなく、“ミドルブロック”(真ん中をブロックする選手)です。宮下はリーグでもそうでしたが、ブロックがいいんですよ。なのでミドルにもっていったり、木村も真ん中跳んだり。ケースバイケースで。有効な形で。 ──「新戦術」のカギや課題は? 眞鍋監督 グラチャンでの「MB1」は、1カ月くらいしか準備期間がなかったので、サーブレシーブからの攻撃はある程度できたのですが、トランジションからの攻撃(ブロックでワンタッチを取ったあとの切り返し)は複合的になるので、コンビが合わないことがけっこうありました。それまで“ミドルブロック”をしたことがない選手(迫田、長岡)がやっていたので。そのあたり課題ですね。あとは、コート上、コート外でのコミュニケーション。日本はチームとして結束していかないと厳しいです。 ○ 「○○なら世界一」というものを持って ──新しいことには、リスクが伴いますね。 眞鍋監督 そうですね。当然リスクはあります。できることならノーマルにいきたいですよ。でも日本はいま世界ランク3位ですが、世界1位のブラジル、2位のアメリカ、あるいはロシアなどと比べるとフィジカル面、体格面で劣っているし、中国の19歳のシュ・テイのような絶対的エースもいない。リスクを受け入れて、新しいことをやらないと、上(世界のトップ)には行けないと思っています。 選手にも常々言っていますが、「平均値やとダメだぞ」と、人に勝てる部分が何かないと。レシーブだけなら世界一、サーブだけなら世界一とか、こいつを入れるとムードだけは世界一とか。全部を平均的にできるというよりは、一つが秀でているほうがチームになると強いかなと思います。 それは情報面でも。「情報戦略班」と呼んでいるんですが、アナリストでも世界一を目指してやる。日本独自のテクノロジーを駆使して、データを使って戦わないと勝てない。いろいろな人の力やアイデアを借りて。「総合力」で世界一を目指します。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[V 【過去ログ 迫田さおり選手 その2】] カテゴリの最新記事
|
|