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<11月17日>(月)
○QEというと、今は量的緩和政策(Quantitative Easing)のことになるのですが、その昔は今朝のようなGDP速報値(Quick Estimation)のことを指したものです。少なくともエコノミスト業界では。その他の世界でいえば、クイーンエリザベスのことを言ったりしたわけですが。 ○で、そのQEというのが曲者で、本日のように民間エコノミストのコンセンサスが「年率2%を越えれば消費増税もOK、それ以下だったら延期かも」と言っているさなかに、「すいません、▲1.6%でしたっ!」ということも昔からよくあるパターンです。それくらい、内閣府の経済社会総合研究所国民経済計算部がやっていることは、民間エコノミストから見てブラックボックスなのであります。 ○では、この数字をどう評価すべきかなのですが、ブレイクダウンを見ると在庫投資の減少の寄与度が大きく、これを取り除いてみると最終需要の寄与度は+1.0%になります。つまり在庫調整が非常に早く進んだということですから、足元の10-12月期はそんなに悪くはないのだろうな、全体としてさほど大騒ぎするほどのことはないんだろうな、というのがとりあえずの感想です。たぶん「緩やかな景気回復」の評価を変えなくてもいいんじゃないか、と思います。 ○もっとも、世間的には「これで2四半期連続のマイナス成長だ!」「テクニカル的には不況入りしたことになる」「アベノミクスは失敗だった!」ということになるので、今日は株価も盛大に下げました。いわゆるネガティブサプライズというやつです。とはいえ、このデータが何度か改訂されるうちに、似ても似つかぬ数字に化けていくのもよくある話です。QEの数字とは、所詮そういうものであります。 ○QEの数字は、そもそも企業部門の統計を仮置きにしています。そこを確定するためには、12月1日に出る法人企業統計季報を見る必要があり、それを合わせた改定値(2次速報)は12月8日に発表されます。気休めに聞こえるかもしれませんが、機械受注の最近の動きを見ていると、ここでは若干の上方修正があるのではないかなとも思います。 ○それとは別に、消費税の再増税の時期を延期するのはやはり正しい決断なのだろうと思います。筆者がそのように考えるのは、主に海外経済の不穏な雰囲気を重視してのことで、向こう1年くらいは何があってもおかしくない嫌な感じだと思うのですよね。ユーロとか中国経済とか石油価格とかエボラとか。 ○日本国内のことで言えば、7-9月期の数字というのは既に終わった過去の話です。その数字次第で消費税の再増税の可否を決めるというのも変な話で、大事なことは将来の日本経済を見通すことであります。向こう1年から2年くらい先の日本経済がそんなに悲惨な姿かというと、石油価格下落の恩恵もあるし、企業業績の上振れもあるし、かなりタイトな雇用情勢といったプラス面もある。 ○もちろん人口減少やら、社会保障費の増大やらといった中長期の課題がありますから、全体としての未来が明るいとまでは言いにくいところです。それでも少なくとも近い範囲で言うならば、「山よりでっかいイノシシは出ない」といういつものセリフで締めくくりたいところです。 <11月18日>(火) ○消費税の増税について、いつも問題になるのは景気対策です。これはもうはっきりしていて、これだけ労働力不足が鮮明になってしまうと、公共投資の積み増しという従来の手法は使いにくくなります。だって消化できないんだもの。最悪の場合、公共投資は消化できたけど、その分、民間投資が回らなくなりました、みたいな変なことになる。景気対策は、なるべく低所得者に対する所得補償という形が望ましいと思います。 ○そういう意味では、たぶん世間的な評判は悪いのでしょうけれども、「商品券の配布」はそんなに悪くないと思います。全員に配ると「バラマキ」と言われてしまいますけど、低所得者を見極めるためにはコストがかかってしまいますから、あんまりおすすめではありません。それからエコポイント制みたいな手法も、需要の先食いをやってしまうという弊害があります。そもそも昨今、家電商品が売れていないのは、リーマンショック後の景気対策でエコポイント制を使ったことが一因になっているようです。 ○ところで消費増税の時期を2017年4月にしたということは、マイナンバー制度が間に合うかもしれません。2015年10月だと完全に無理ですけどね。つまり所得の補足がやりやすくなるので、低所得者限定で所得補償をする、といった政策が実現できるかもしれない。もっとも補足できるのはせいぜい所得までで、資産までは技術的に無理でしょう。だから「資産1億円だけど年収200万円」みたいな人が救済対象になることもあり得る。まあ、そんなのは極めて少ないケースなんで、無視しちゃえばいいと思いますけれども。 ○とにかく軽減税率だけは止めた方がいい。あれは金持ちの方が得をする仕組みだし、品目を選ぶところでゆがみが生じますから。「米・味噌・醤油、ついでに新聞」みたいな論議をするのは、できれば避けたいものだと思います。 ○マイナンバー制度は、それ自体が巨大なITに関する公共投資のようなものですから、今の人手不足状態でちゃんと予定通りに稼働するかどうかは怪しいところです。それでも、これが実現すればいろんな部分の合理化が進む。進捗状況がどうなっているのか、誰か専門家に聞いてみたいところです。 <11月19日>(水) ○一昨日の「GDPショック」なんですが、寄与度でみた数値は以下のようになります。 7-9月期 国内総生産 ▲0.4% 個人消費 +0.2% 住宅投資 ▲0.2% 設備投資 ▲0.0% 在庫投資 ▲0.6% 公的需要 +0.2% 純輸出 +0.1% ○国内総生産(GDP)の▲0.4%を年率換算する(4倍する)と▲1.6%となって、こりゃ大変だという騒ぎになったわけですが、よくよく見ると在庫投資の▲0.6%さえなければ、トータルはプラスだった事が分かります。つまり+0.2%となるので、年間だと1%弱ということになる。これくらいの数値であれば、そんなに驚かなくて済んだはずである。 ○では在庫投資とは何か。民間企業が有する在庫の増減を指すわけだが、長い目で見れば在庫は必ずトータルではゼロになる。だからこの数値が大きかった時は喜んではならず、逆にマイナスだったときは慌ててはならない。では、この7-9月期に急に調整が進んだ在庫の正体って何よ、ということが気になるわけであります。 ○ここで思い出してほしいのは、当欄の11月10日に書いたのと同じような話。すなわち、「最近の日本経済で??ということがあれば、だいたい自動車産業が鍵を握っている」の法則である。とまあ、それくらい昨今は日本経済に占める自動車産業のプレゼンスが大きくなっているし、さらに言うならばワシらはあんまり彼らのことが分かっていないのだ。 ○つまりですな、自動車の消費税駆け込み需要は昨年秋から既に始まっていた。今年1~3月期の書入れどきには、「プリウスは3カ月待ち」みたいな話が飛び交っていたものです。その結果がどうなったかというと、3月末に納車が間に合わないケースが続出した。仕方がないから、4月以降にディーラーさんが「納車が遅れてすいません。消費税分はオマケしますから」などと言いつつ、原価から3%を引いたうえで、8%の税金を乗っけて売った。とまあ、これもあっちこっちで聞いた話である。 ○するとどうなったか。自動車会社は在庫の積み増しが1-3月期には間に合わず、4-6月期になってやっと増えることになった。GDP統計を見ると、4-6月期の在庫投資は実に1.2%も増えていることが確認できる。もちろん、その分は注文通りにさばけていくわけだし、7-9月期にはクルマはあんまり売れないだろうと生産を絞るので、かくして7-9月期に在庫調整が一気に進んだというストーリーが見えてくる。 ○鉱工業生産統計を見ても、今年の在庫率は4月の103.7から、8月には118.5まで急上昇している。これは震災直後であった2011年4月の116.6を上回る途方もない水準である。ちなみに最新データの9月では、在庫率は111.7まで改善しています。たぶん10月にはもっと減っていることでしょうね。 ○この見方が正しいとすれば、「2四半期連続マイナス成長」=「テクニカルには不況入り」だと大騒ぎする必要はないことになる。在庫投資は正常化に向かっているわけだし、設備投資は上方修正の余地があるし、雇用者報酬が増えている点からいって、所得も今後は伸びるはずである。さらに石油価格の下落という追い風も吹いている。 ○強いて言えば、今後の景気にマイナスになりかねないのは選挙でありますな。経験則として、選挙が始まると飲食業などの商店街の売り上げが落ちる。これは、「選挙違反にならないように」という警戒感とか、「選挙期間中なのに、飲み歩いていちゃ申し訳ない」という義理人情など、日本社会においては古式ゆかしい(奥ゆかしい?)いくつもの配慮が交錯してしまうからであろう。まあ、選挙には公共事業としての役割もあると思いますけれども・・・。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.11.20 08:00:09
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