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図で読みとく!「消費増税」に関する大誤解 日本の借金は世界最悪と言うけれど……
東洋経済オンライン 2014/11/24 消費税は今すぐ上げないと大変なことになるのか?(写真:よっちゃん必撮仕事人 / Imasia)© 東洋経済オンライン 消費税は今すぐ上げないと大変なことになるのか?(写真:よっちゃん必撮仕事人 / Imasia) 膨らみ続ける社会保障費により、日本の債務残高の対GDP比は、ほかの先進国に比べて突出しています。そのことを根拠に、「日本は世界最悪の借金大国」「国債の信頼が失われ暴落する」といった危機をあおる論調が多く見られます。 今、議論されている消費増税も、財政破綻を防ぐためには、増税により国債の信用を確保することが必須だという理屈から出ています。しかし、今の日本の財政はそこまで逼迫しているのでしょうか? ビジネスマン向けの経済学入門書 『図解 使えるマクロ経済学』が好評を博している著者の菅原晃氏が、国債や財政破綻をめぐるさまざまな主張を分析。その誤解を図表でスッキリ解き明かします。 よく、最近の報道で日本の借金は世界最悪と言われます。本当に日本の財政は差し迫った危機を迎えているのでしょうか? 日本の借金(国債)の実態と、増税の必要性やタイミングについて考えてみたいと思います。 たとえば、日経新聞では次のように解説しています。 「日本は借金がGDPの2倍と、先進諸国の比率(0.6~1.5倍)に比べて突出して高い。財政危機が起きたギリシャやイタリアをも上回る。国が借金を返す能力を投資家に疑われると、貸し手がいなくなって、国の財政は破綻する(日経新聞「NIKKEIプラス1」2013年11月9日)」 これは事実としてそのまま受け取っていいものでしょうか。次の図を見てください。 以下は日本の借金を表す図ですが、分母がGDP成長率と、分子の国債残高の利子率となります。これらが同じであれば、借金の比率は高くはなりません。その場合、国債発行の持続性があると考えられます(これを、「ドーマー条件・ボーン条件」と呼びます)。 日本の場合、この借金の比率が高くなっていますが、これはGDP増加率よりも国債残高増加率が多いこと、つまり、新規国債の発行分、分子そのものが肥大化していることを示します。 日本は、歳入で国債発行をする一方、歳出で利払い・元本返済を行っています。両者の差額が、新規国債分として積み上がり、結果としてこの比率が上がり続けているのです(差額がないことを、プライマリー・バランスがゼロと言います)。 そうなると、「国が借金を返す能力を投資家に疑われると、貸し手がいなくなって国の財政は破綻する」と言われるのです。 しかし、この「日本の借金が世界最悪」というのは、同時に「資産は世界最高」を意味するのです。まったく逆のことを言っているように聞こえるかもしれませんが、「日本の借金」=「国民の財産」なのです。いったいなぜでしょうか? では、国民所得を生産・分配・支出の三面から表した「三面等価図」を見てみましょう。この図では、GDP(国民総生産)=GDI(国民総所得・分配)=GDE(国民総支出)と、3つすべてが等しくなります。誰かの儲けは、誰かが払った額で、誰かの所得なのです。 所得の総額(GDP)をYで表します。これは分配(所得GDI)とも等しくなります。その内訳は、消費(C)するか、税金を払うか(T:公的保険含む)、貯蓄(S)するかです。個人、企業、自治体に回っても、最後は同じです。 総所得のうちのSは、財布の中のカネ・民間保険・預貯金・株・債券投資など、消費しなかったカネすべてを示します。 支出の観点からも見てみましょう。GDP(Y)は、誰かが支出した総額(GDE)とも等しくなります。一人ひとりの消費者を示す家計(C)、企業(I)、政府(G)、海外との輸出入(EX-IM)が、それぞれ支出しています。 上の図で、G-T(政府支出-税金)に注目してみましょう。政府支出が税金より上回ると、財政赤字です。その原資は、一人ひとりの個人、1件1件の企業の貯蓄Sです。つまり、われわれの民間保険・預貯金・株・債券投資(国民の財産)が、国債(政府の借金)に回っています。これが「政府の借金=国民の財産」といえるゆえんです。 個人で国債を購入する人は少ないのですが、私たちの預貯金・保険金を預かった金融機関が国債を購入しているのです。 日本の金融機関の、国債からの利子所得は15.7兆円(2012年度)、3大メガバンクは業務利益の3割を債券市場から得ています(13年度3月期決算)。 ですから、「政府の借金増=国民の財産増」であり、「国債は孫の世代の負担=孫の世代の財産」「1人当たり615万円の借金(財務省Web)≧1人当たり566万円(海外の8%を除く)の財産」となるのです。 近代経済学の父とも呼ばれているアメリカの経済学者ポール・サミュエルソンは、かつて次のように述べました。 「国債は負担を将来に転化するというのは、1000回繰り返して言うが、間違いだ」 国債(G-T)が発行される場合、貯蓄Sが原資です。つまり、投資分Iを、国債分(G-T)に回しているだけです。 逆に、国債(G-T)を発行せず増税すると、貯蓄S分(もしくは、消費Cが減)を税Tに回すことになります。 つまり、財政赤字(国債)に頼るということは、「貯蓄S(消費C)を税Tに回す」か、または、「民間投資Iを政府投資(G-T)に回すか」という選択です。あくまでも、今年のカネの配分問題で、将来のカネを今使えるわけではないのです。 サミュエルソンの例えにならうと、戦争をするために戦時国債を発行し、資金を調達しても、使えるのは「現時点の弾丸(原資)」で、「将来時点の弾丸(原資)を現在の敵に投げつけることはできない」のです。 国債償還(実際は金利償還)のために、将来時点で増税するということは、将来のGDPの中で「貯蓄S(C)を税Tに回す」かどうかの話であり、孫世代の中での所得の再配分の問題なのです。 この場合、国民所得は、税金→負債を持つ政府→国債利払い費→資産である国債保有者→国民所得と、回り回って国民所得に戻るだけです。 財務省は、消費税率を、予定通り来年10月から10%に引き上げるように求めています。財務省の言い分は、「国の財政が破綻する状態を避けるため」です。基礎的財政収支(プライマリー・バランス)をゼロにすれば、国債/GDP比が上がらず、信認されるというものです。政府は2020年までにプライマリー・バランスを黒字化するという目標を掲げました。 しかし、消費増税は、現実の経済にショックを与えます。今年4月の増税による駆け込み需要とその反動は、1997年の増税時をはるかに上回る大きなものでした(年度をトータルすると、プラスマイナスを相殺し、プラス成長にはなりそうです)。 ですが、せっかく、「失われた20年」というポンコツタクシーを、「アベノミクス」という新車に入れ替え、昨年は名目GDP1%・実質1.6%成長(速報)と加速し始めたのに、あえて、道路工事の段差(消費税ショック)を作って、突っ込まなくてもよさそうなものです。 将来的に、道路をきれいにするのは必要ですが、すでに当の政府が「工事の完成はムリ」と、分析しています(昨年8月の閣議)。社会保障費が、毎年1兆~1.5兆円の自然増で、2013~22年度の実質GDP成長率2.1%のケースでも、「2020年にプライマリー・バランスは12.4兆円不足する」というものです。 どのみち工事が完成しないのなら、今すぐに、クルマが壊れる(財政破綻する)わけではないので、十分に加速し、スピードが出た(経済が回復した)時点での増税で十分です。 タクシーの乗客(国民)も、運転手(安倍政権)のハンドルさばきに期待しています。今度の衆院選は、与党も野党もみな増税延期か廃止という立場なので、本当は、政治主導vs.官僚、安倍政権vs.財務省の戦いなのかもしれません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.11.24 10:59:29
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