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『記事』 はたしてトランプ大統領は弾劾されるのか? 特別検察官任命までの流れを詳しく解説 ドナルド・トランプ米国大統領の"自壊"が始まった。大統領就任以来、トランプ大統領は強引な態度や傲慢な発言、ツイッターを通しての虚偽情報の発信を繰り返してきた。メディアの批判も無視し、唯我独尊ぶりを誇示していた。だが、ジェームズ・コミーFBI(米国連邦捜査局)長官の解任を契機に、トランプ大統領を取り巻く情勢は一気に変わった。 司法省が独立性の高い特別検察官を「ロシアゲート」の調査のために任命したのだ。 厳しい批判の中でもトランプ大統領を守り続けていた与党共和党の中にも、トランプ大統領を批判する動きが顕在化している。民主党議員は言うまでもなく、共和党議員の中からもトランプ大統領の弾劾を求めるべきだという声が聞かれ始めている。リベラル系のメディアにとどまらず、保守系のメディアも「弾劾」という言葉を使い始めている。 トランプ大統領に何が起こったのか。経過を追ってみよう。 コミー前FBI長官の不可解な解任 発端は5月9日。トランプ大統領は突如、コミーFBI長官の解任を発表した。大統領は、解任の理由としてジェフ・セッションズ司法長官とロッド・ローゼンスタイン司法副長官からコミー長官の解任を勧める書簡を受け取ったからだと説明した。3枚の勧告書は、大統領選挙中、ヒラリー・クリントン民主党候補の私的メールアドレス使用事件に関してコミー長官が行った調査の仕方が不適切であったことを指摘し、「コミー長官はFBI長官の職にふさわしくない」と述べていた。トランプ大統領は「解任理由は単純である。コミー長官がよい仕事をしてこなかったからだ」と説明した。 だが、これは誰の目から見ても納得できる理由ではなかった。選挙直前にコミー前長官は、決着がついていると思われていたクリントン候補の私的メール事件の再捜査を行うと発表し、それがトランプ候補の勝利の要因の1つになった。当時、民主党はコミー前長官の行動は政治的であり、選挙干渉であるとして、その解任をバラク・オバマ大統領に要求したが、解任されることはなかった。大統領就任直後、トランプ大統領は大統領執務室にコミー前長官を呼び、感謝の意を表した。コミー前長官は、間違いなくトランプ候補勝利の陰の立役者であった。 こうした状況で、誰も長官の解任を予想していなかった。コミー前長官は、解任を大統領から伝えられるのではなく、テレビ報道で知ったほどである。コミー前長官にとって、それは忠誠を示したトランプ大統領の裏切りであった。FBI長官は大統領が指名し、議会で承認されなければならない。しかし、政治的中立を維持するために任期は10年と長く設定されている。大統領がFBI長官を解任できるかどうかの法的な規定は存在しない。 過去に解任されたFBI長官は1人いる。1993年にビル・クリントン大統領によって解任されたウィリアム・セッションズ元長官である。同氏は公私混同が激しく、大統領は何度も辞任を求めたが、拒否し続けていた。そのためクリントン大統領はジャネット・レノ司法長官に指示し、倫理的に職務にふさわしくないという辞任勧告の書簡を送らせるという手続きを取ってセッションズ元長官の解任に踏み切った。今回、トランプ大統領はコミー前長官の解任に際して、クリントン大統領の前例に倣って司法長官と司法副長官の署名を準備した。 だが、トランプ大統領が指摘したコミー前長官解任の理由を信じる者はいなかった。セッションズ司法長官はアンドリュー・マッケイブFBI副長官をFBI長官代行に任命した。だが、マッケイブ長官代行自身もクリントン候補の私的メール問題にかかわり司法省の捜査対象であった。このことは、コミー前長官解任の理由が極めて作為的であることを示している。 コミー前長官はフリン氏とロシアとの関係を調査 ケリーアン・コンウェイ大統領顧問は、CNNの番組に出演して「コミー長官解任の決定は6カ月前の選挙とは関係ない」と語っている。ホワイトハウスのサラ・ハッカビー・サンダース副報道官は「トランプ大統領は大統領に就任したときから、コミー前長官の解任を考えていた」と説明していた。 しかし、コミー前長官解任の伏線は8日の議会の公聴会にあった。公聴会でサリー・イエーツ前司法長官代行が、マイケル・フリン前安全保障担当大統領補佐官はロシアと密接な関係にあり、ロシア政府から脅迫を受けていたと、証言したことだ。FBIはフリン前補佐官とロシアの関係を調査しており、この証言が捜査を促進させる可能性があった。さらにコミー前長官は、その捜査のための予算の増額を求めていた。加えて、オバマ政権がトランプ陣営の盗聴を行っていたというトランプ大統領の主張は偽りである、とコミー氏が議会で証言したこともトランプ大統領の怒りを買っており、解任に結び付いたと思われる。 解任発表前日の月曜にトランプ大統領はセッションズ司法長官、ローゼンスタイン副長官と会談し、コミー長官解任の理由を協議している。さらにトランプ大統領は11日に行われたNBCニュースによるインタビューの中で「私は司法長官と副長官の勧告がなくてもコミー氏を解任するつもりだった」と語っている。 とすると、どんな理由でコミー前長官が解任されたのかという疑惑が浮かんでくる。トランプ大統領はコミー氏の下でFBIは混乱してきたと指摘し、コミー氏は「目立ちたがり屋(showboat)」で、「スタンドプレーをする人物(grandstander)」であると酷評した。だが、この発言を受け、マッケイブFBI長官代行は「トランプ大統領の発言は正しくない。FBIの職員の大多数はコミー氏と良好な関係を享受していたし、長官はFBI内で大きな支持を得ていた」と反論している。辞任に当たってコミー前長官は職員宛てに書簡を発表し、職員から惜しまれながら職場を去った。 さらにトランプ大統領はコミー前長官をおとしめる発言をしている。1つは、トランプ大統領は個人的な捜査対象になっていないとコミー前長官が3度語ったというもの、もう1つはコミー前長官が3月に自分の地位を維持するために会食の機会を求めてきたというものである。すなわちコミー前長官はその地位にとどまりたいがゆえに大統領に媚びを売ったと言いたかったのであろう。 これに対してコミー前長官のスタッフは、トランプ大統領はウソをついていると反論。嫌がるコミー氏を夕食に誘ったのはトランプ大統領であったという。さらに彼らは、トランプ大統領が会食の際に、個人的な忠誠(personal loyalty)を誓うよう、コミー氏に求めたことを明らかにした。この要求に対してコミー氏は、個人的な忠誠は誓わないが、正直(honesty)ではあると答えている。 トランプ大統領、録音の存在を自ら認める コミー長官解任をきっかけに、民主党はかねて疑惑が取りざたされていたロシア政府の大統領選挙への干渉を調査する特別検察官の任命を主張した。共和党議員の中にも、解任には反対しないものの、タイミングが悪すぎるとの印象を漏らす議員がいた。 解任発表の翌朝、下院監視委員会のジェイソン・チェイフェッツ委員長(共和党)は、トランプ大統領によるコミー前長官解任の理由を調査することを司法省監察長官に要求している。下院司法委員会の17名の民主党委員はコミー前長官解任に関する公聴会の開催を要求し、司法委員長に宛てた書簡の中で「コミー氏解任の明確な説明が必要である。現在まで政府は何の理由も提示していない」と指摘している。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.05.20 14:54:50
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