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伊方原発3号機の運転停止の仮処分: 司法判断の意味とマグマ学者からの懸念
12/15(金) 7:00 巨大カルデラ噴火の切迫性 これまでこの場でも幾度となく火山災害の危険性について述べてきた しかし、もし自らの子々孫々の暮らしや日本という国家の存続を少しでも考えるのであるならば、巨大カルデラ噴火の危険値(=想定被害者数×発生確率)が交通事故のそれと同程度であることを認識しておくべきである(「日本喪失を防げるか? ギャンブルの還元率から巨大カルデラ噴火を考える」)。 巨大カルデラ噴火が起きた場合の甚大な被害の認識を テレビで放映された映像を見ていると、原告団は「歴史的判決」と意気揚々である。ヒロシマという悲劇の地に暮らす人々の原発への思いは十分に理解できるものがある。一方で、火山の息遣いやマグマの動きに注目するマグマ学者としては、この高揚感に一抹の懸念がある。 巨大カルデラ噴火の危険性を根拠に原発再稼働に反対すること自体は正当であると思うが、それ以前に(少なくとも同時に)巨大カルデラ噴火そのものの試練に対する覚悟を持つべきであろう。もちろん、覚悟は諦念ではない。いかにこの火山大国で暮らしていくかを考えることこそ覚悟である。 巨大カルデラ火山に対する本格的観測の開始を 3・11以降の原発の再稼働に向けた原子力規制委員会の審査基準「火山影響評価ガイド」について、日本火山学会は2014年11月に噴火予測の限界や曖昧さを踏まえて見直しを求める提言を行った。この提言自体は、現在の日本の火山学の現状を踏まえた冷静な(やや希望的な)提言と言えよう。また同時に、各種メディアやネット上には火山学の専門家(及び専門家もどき)のコメントも数多く見られた。それぞれの意見のほとんどはほぼ正論であり決して反対するものではない。しかし、ではなぜこの現状を踏まえて「専門家」は噴火予測やそれにつながるモニタリングに自ら本気で挑戦しないのだろうか? 荒ぶる火山の地下には「マグマ溜り」が存在することは容易に想像できるが、その大きさや位置を正確に捉えた観測は未だに存在しない。今後の火山噴火の規模を推定するために必要不可欠なこのようなデータすら存在しないのが現状なのだ。技術的、そして何より金銭的にこのような観測が困難なことは事実であるが、だからといって一歩を踏み出すことなく、「評論家・文化人」にとどまっているのは科学者として残念ではないだろうか。神戸大学では昨年から、今から7300年前に巨大カルデラ噴火を起こした鬼界海底カルデラでこの挑戦を始めている(「鬼界海底カルデラに巨大溶岩ドームが存在: 超巨大噴火との関係は?」)。 私たちは世界一の火山大国に暮らしている。火山から多くの恩恵を享受しながらも(詳しくは「和食はなぜ美味しい ー日本列島の贈り物」を)、大きな試練に直面している事実を今一度認識すべきであろう。 巽好幸 1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学大学院理学研究科教授などを経て2016年から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.09.08 10:39:38
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