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~スタンと言う国名の「スタン」とSTATEの関係は?
トイモイさんのブログで会話をしていたら ―――― コピペ ―――― げたにれの “日日是言語学” 「~スタン」 の正体は? 〓昨日、ペルシャ語 (イランの言語) の گرم gjærm [ ギャルム ] 暑い という単語が、英語の warm 「暖かい」 と同源だと知って、アタクシ自身、驚いております。 〓イランで話されているペルシャ語という言語は、アラビア文字を使って書きますが、系統としては、インド=ヨーロッパ語族に属します。つまり、英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、ヒンディー語などと起源が同じ言語、ということです。 〓しかし、ペルシャ語はヨーロッパ方面から、直接、現在のイランの地に持ち込まれたのではありません。 中央アジア → インド → ペルシャ (イラン) というぐあいに “巨大なUターン” をしながら現在のイランの地に、いわゆる、アーリア人が侵入し、土着民と混血して、言語的には “印欧語” が残ったものです。 〓つまり、地理的に言うと、ヨーロッパからもっとも遠いのはインドですが、実際の移動距離から言うと、もっとも遠いのはイランである、ということになります。 〓それだけに、英語やフランス語などと同源の単語を見つけるのは、なかなか、むずかしいのです。 〓親族名や身近な動物の名前には、共通のものが残っています。 cow 「牛」。英語 گاو gāv [ ガーヴ ] ペルシャ語 mouse 「ネズミ」。英語 موش mūsh [ ムーシュ ] ペルシャ語 name 「名前」。英語 نام nām [ ナーム ] ペルシャ語 lip 「くちびる」。英語 لب lab [ らブ ] ペルシャ語 father 「父親」。英語 پدر pedar [ ペダル ] ペルシャ語 mother 「母親」。英語 مادر mādar [ マーダル ] ペルシャ語 brother 「兄弟」。英語 برادر barādar [ バラーダル ] ペルシャ語 daughter 「娘」。英語 دختر dokhtar [ ドふタル ] ペルシャ語 〓ただし、次の単語のように “他人の空似” の場合もあるので、注意が必要です。 bad 「悪い」。英語 بد bad [ バッド ] ペルシャ語 【 「~スタン」 という地名 】 〓中央アジア~インド~イラン高原という広大な地域に、 「~スタン」 という地名がたくさんあるのはご存じでしょう。これは、実は、ペルシャ語なのです。 〓ペルシャ語は、今でこそ、イランの言語ですが、もとは、「中央アジア~インド~イラン高原」 の全域で使われていた、ヨーロッパで言うと “ラテン語” のような言語でした。 〓16世紀から19世紀にかけてのインドは、イスラーム国家であり、公用語はアラビア文字で綴るペルシャ語で、行政・司法はすべてペルシャ語で行われていました。だから、インドにペルシャ語の地名が残っていても少しもおかしくないのです。 〓だいたい、“インド” India という地名じたいがペルシャ語です。 Síndhu- [ スィンどゥ ] 「インダス川」。サンスクリット ↓ Hindu [ ヒンドゥ ] 古ペルシャ語 ↓ ’Ινδός Indos [ イン ' ドス ] 「インダス川」。古典ギリシャ語 ↓ ’ινδός indos [ イン ' ドス ] 「インド人」。 ↓ ’Ινδία indiā [ イン ' ディアー ] 「インド人の土地」→「インド」 ↓ India [ ' インディア ] 「インド」。ラテン語 ↓ 西欧諸語 〓さらに、「ヒンドゥー」、「ヒンディー」 もペルシャ語起源です。 〓「アフガニスタン」、「バルーチスタン」、「シースタン」、「パキスタン」、「ヒンドゥースタン」、「ウズベキスタン」、「カザフスタン」、「タジキスタン」、「キルギスタン」、「トゥルクメニスタン」、「バシコルトスタン」 (もとバシキール)、「ダゲスタン」、「クルディスタン」、「タタールスタン」、「トルキスタン」 など、「~スタン」 の付く地名はたくさんあります。 〓この 「~スタン」、実は、ペルシャ語では、普通に使われる 「場所や施設をあらわす接尾辞」 です。 گل gol [ ゴる ] 「バラ」。ペルシャ語 ↓ گلستان golestān [ ゴれスターン ] 「バラ園」 بيمار bīmār [ ビーマール ] 「病人、患者」。ペルシャ語 ↓ بيمارستان bīmārestān [ ビーマーレスターン ] 「病院」 〓この ستان -estān [ エスターン ] という接尾辞は、現代語では、独立した単語として存在しません。古い時代には、-istān [ イスターン ] でした。なので、地名では、「~イスタン」 となるんですね。 〓しかし、古ペルシャ語では、これは、 ستان stāna [ スターナ ] 居場所、滞在場所、場所 という名詞でした。そして、この名詞は、印欧祖語の *stā- [ スター ] 立つ、立っている にさかのぼります。 〓同じく、この語基にさかのぼるのが、 stand 「立つ、立っている」。英語 stay 「滞在する」。英語 (←フランス語 ←ラテン語) です。 〓また、同じく *stā- にさかのぼるラテン語の動詞、 stō [ ストー ] 立つ、立っている ※ただし、語根は sta からは、過去分詞 status がつくられ、それが名詞化されました。 status [ ス ' タトゥス ] 立っていること、位置、状態 〓近代西欧語で、この status は、「国家」 という意味を獲得します。 state [ ス ' テイト ] 「国家」。英語。1538年 〓つまり、同じインド=ヨーロッパ語族に属する、西の果ての英語と、東の果てのペルシャ語で、同じ *stā 「立っている」 という動詞から、それぞれ、 -stān 「~スターン」 ペルシャ語 state 「ステート」 英語 という、用途のよく似た単語が生まれたわけです。 0 11 ツイート << 前の日記(「ガル曽根」 さん、とセロは呼) 次の日記(「ママ」 と 「マンモグラフィ) >> コメント mixiユーザー mixiユーザー2007年07月26日 16:35「スタン」と英語の「ステイト」「ステイツ」は同じ語源だったのですか。 前から疑問だったのが「イラン、イラク」を「イラニスタン、イラキスタン」と呼ばないのかな~と。 mixiユーザー mixiユーザー2007年07月26日 16:58〓 ujinao さん、ちょっとむずかしいですけど、「~スタン」 というのは、 ペルシャ語圏、もしくは、 かつてペルシャ語を公用語としていた国のあった地域 で、昔から使われてきた地名です。多くは、 民族名 + -istan 「~族の土地」 という命名です。 〓イラクは、太古は、シュメール語という、なぞの言語を話す民族が、メソポタミア文明を築いた土地ですが、その後、ペルシャ語勢力とアラビア語勢力の支配下におかれ、けっきょく、7世紀からは、アラブ化されてしまいました。だから、土地の名前は、アラビア語です。 〓イランというのは民族の名前ではないんです。だから、ペルシャ語圏でも -istan が付きません。 Iran [ イーラーン ] というのは、「アーリア」 Arya という民族名を、おそらく、形容詞化して、「アーリア人の土地」 という地名を名乗ったものだと思います。すでに、「アーリア人の土地」 という意味なので、-istan は付かないんですね。 mixiユーザー mixiユーザー2007年07月26日 22:24インターホンを鳴らしたときに、「キーエ?(誰や)」と声が返ってくる。ペルシャ語とイタリア語でまったく同じになる、とペルシャ語の先生が仰ってました。 ううむ、「スターン」とstateが同根とは気づきませんでした。 よくわからないのが、季節の「夏」「冬」をそれぞれ「ターベスターン」「ゼメスターン」と呼ぶことです。zemestanのzem-はロシア語のzima、ギリシャ語のkheimon、ラテン語のhiemsと同起源ですが、なぜこのばあいにもstanが付いたのか不思議に思っています。 mixiユーザー mixiユーザー2007年07月27日 08:43〓 rjuka さん、なるほど、不思議ですね。手許のペルシャ語辞典を引くと、 -(i)staan 何かが豊富にある場所を示す接尾辞 となっています。 〓現代ペルシャ語の زمستان zemestaan のもとになった語形は、 *gheimn。 (。は n の下に) と推定されているそうです。これは印欧祖語の *gheim- 雪、寒気、冬 雪 に由来するらしい。 〓-istaan の 「豊富にある場所」 という用法が、「豊富にある時期」 にも援用されたとすると、「雪のたくさんある時期」、「寒気がしきりに訪れる時期」 というような思考法ではないでしょうか。 〓夏 تابستان taabestaan のほうは、どうやら、印欧祖語の *tep- 暖める (to warm) に由来するようですよ。現代語として、一般的な単語かどうか、わからないんですが、 taab 熱、暖かさ、光、光線 晴れ という単語があったか、今でもあると思うんですが、それに、-estaan が付いてできた単語ではないでしょうか。 〓こちらも、「光、暖かさがいっぱいの時期」 ですよね。なんか、「太陽がいっぱい」 を思い出します。 〓上の *tep- を見て、ロシア語の тепло tjeplo チプロー 「あったかいね!」 を思い出しました。(-l- は萌芽音です) 〓ペルシャ語は、サンスクリットは別にすると、スラヴ語、バルト語、ギリシャ語と語形がよく一致しますね。彼らが、どこから来たか、想像ができて、面白いです。 〓 rjuka さん、面白い疑問を出してくださって、ありがとうございました。なかなか、勉強になりましたうまい! mixiユーザー mixiユーザー2007年07月27日 12:12なるほど、そういうことでしたか。「豊富にある場所」という用法。・・・taabでさえ、印欧祖語に遡れるんですね。 そういえば、aftaab「日光」、mahtaab「月光」という単語があるのを思い出しました。 ペルシャ語はとくにバルト・スラヴ諸語あたりと音韻が一致しますよね。ロシア語と比較してみると *gh- (PIE) 「冬」 zim- : zima 「女」 zan : zena(妻) 「地」 zamin : zemlja と、きれいに対応しています。 mixiユーザー mixiユーザー2007年07月27日 12:19〓ペルシャ人が、スラヴ人に近いとすると、大いに面白いですね。だとすると、インド人やペルシャ人になったのが、スラヴ人の分派ということになったりしてウッシッシ 〓ロシア語の場合、*gh- が з や ж になったのは、口蓋化の結果です。ж は、今でこそ ш, ж は硬子音ですが、もとは軟子音でした。二人称の人称語尾 -шь に、その名残がのこってます。 〓現代ペルシャ語には、taab という単語じたいは残っていないんでしょうか? mixiユーザー mixiユーザー2007年07月27日 14:09taabが残っているかどうかはわかりません。今ペルシャ語の辞書がないもので・・・ そういえばイラン語派が南へ去ったあとも、スキタイ、サルマタイなどのイラン語系遊牧民がロシアにいましたね。今でもオセチア人がいます。スラヴ語派とイラン語派は、意外と長期にわたって交流があったのでしょうね。 mixiユーザー mixiユーザー2007年07月27日 19:40文字化けしてて、読めません・・・ mixiユーザー mixiユーザー2007年07月27日 20:09〓ふらふら何がどうしたんだろう…… 〓いやはや、スキタイなどのロシア南部のイラン系民族というのは、 そこに残った民族なのか 中央アジアからUターンして来たのか はたまた、ペルシャから北上したのか どのパターンなんだろう、ということを書きたかったのです。 〓現代ペルシャ語とサンスクリットとロシア南部のイラン系民族の言語を比べると、距離がわかると思うんですが、いかんせん、ロシア南部のイラン系民族の言語的資料というのは、手にはいるのかしら? mixiユーザー mixiユーザー2007年07月27日 20:44オセット語の資料なら、ネット上に落ちてると思います。スキタイ語とかサルマタイ語とかどうなのでしょう。そもそも記録に残されているのかどうか。。。 南ロシアの遊牧勢力の主役は、ある時期以降イラン語系からチュルク語系に、すっかり入れ替わってしまった感じですね。 mixiユーザー mixiユーザー2007年07月28日 07:31〓そういえば、オセート語=ロシア語辞典なんてのが、昔、ロシア語専門店の棚に並んでましたよ。当時は何の価値があるのか、なんてわからなかったな。 〓スキタイ、サルマタイは、言語資料を残していないんですよね。なんで、イラン系だと特定できたんだろうexclamation & question お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.01.25 04:27:45
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