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★ 記事 CAR やっぱり、軽自動車は危険なのか? モータージャーナリスト 御堀直嗣 2018年03月11日 08時55分 ーーー まとめ ーーー 75歳以上「軽」致死率1.6倍――。 75歳以上の高齢ドライバーが乗車中に事故に遭った際の致死率が、軽自動車では普通乗用車に比べ1.6倍にのぼることが明らかになった。軽自動車は小回りが利き、ちょっとした外出や買い物に重宝されるが、安全性に課題があるのだろうか。モータージャーナリストの御堀直嗣氏に解説してもらった。 正面衝突の割合が高い 警察庁によると、昨年1~11月の 75歳以上の軽乗用車の致死率は1.22%。 普通乗用車は0.77%だった。 75歳未満の場合、軽乗用車の致死率は0.59%で、半分以下の水準である。 普通乗用車は0.47%だった。 75歳以上の軽乗用車が突出して、致命傷を受ける割合が高いことになる。 日本自動車研究所の調査によると、事故死した75歳以上のドライバーは、胸に損傷を負ったケースが目立つという。 交通事故総合分析センターによれば、軽自動車の事故は、普通車よりも正面衝突の割合が高く、 大半は対向車線へのはみだしが原因であったとされる。 車線を逸脱すると警報が鳴る装置の普及など、軽自動車の正面衝突事故対策を強化すべきだと同センターは指摘する。 運転支援機能の差か? 国土交通省や経済産業省は、 ● 自動ブレーキを搭載した「セーフティ・サポートカー(通称サポカー)」及び、 ● 高齢者に多い踏み間違い事故防止をサポートする「セーフティ・サポートカーS(通称サポカーS)」 の普及推進を行っている。 こうした運転支援機能は、高級車など上級車種から搭載が始まっており、軽自動車に比べて普通車のほうが普及しているとみられる。 しかし、高齢者が乗る軽自動車の対向車線へのはみだしによる正面衝突事故が多いとのデータは、普通乗用車に比べ、運転支援機能の装着が進んでいないからという理由だけではなく、何か根本的に軽自動車と普通乗用車に違いがあるからではないかと考えている。 運転姿勢は適正か? 運転の基本となる「運転姿勢」は適正だろうか。 まず、正しい運転姿勢の調節の仕方を確認しておきたい。 <1>運転席に座り、右足でブレーキペダルを奥までいっぱいに踏み込む。 <2>そこまで確実に踏み込める位置に、座席の前後スライド調整を行う。 <3>次に、ハンドルの頂点を両手で握り、ひじの曲がりに少しゆとりがあるくらいに座席の背もたれの角度を調節する。 以上のような運転姿勢をとることにより、万一の際に急ブレーキをかけるとき、ブレーキペダルを奥まで踏み込めるし、同時に、障害物をよけるためのハンドル操作を確実に行える。 しかしながら、車体寸法に制約のある軽自動車の場合、これまで購買の中心とされてきた女性を想定し、比較的背の低い人でも上記の運転姿勢を正しくとれるような座席とハンドルの位置決めがなされてきた。 だから、たとえば身長が166センチの筆者が上記の方法で運転姿勢をとろうとすると、ペダル位置が近すぎて、膝の曲がりがきつく、ペダル操作がしにくい姿勢になる。これでは、ペダルの踏みそこないや、踏み間違いを起こしかねない。 座席を後ろへ下げ、背もたれを起こせば、なんとか正しい運転姿勢が取れそうだが、それでは背もたれの角度が立ちすぎて運転姿勢が落ち着かなくなる。運転姿勢は、ある程度、背もたれに寄りかかることで安定するからだ。 軽自動車にはアレがない 姿勢が落ち着く程度に背もたれの角度を調整し、ペダル踏み損ないを起こさない位置まで座席を後ろへ下げると、今度はハンドルが遠くなり過ぎてしまう。これでは、万一の際に障害物をよけようとハンドルを回す時、手が離れてしまう可能性がある。 体格の違いに左右されず、適切な運転姿勢をとるために、ハンドルにはチルトとテレスコピックとよばれる調節機能がある。チルトは、ハンドルの上下方向、テレスコピックはハンドルの前後方向の調整を行う。軽自動車およびコンパクトカーのほとんどにチルト機構は装備されているが、テレスコピック機構はまず装備されていない。 小型車や普通車には、チルトとテレスコピック両方の機構が採用されている例が多い。 つまり、普通車など比較的車体が大きなクルマは、正しい運転姿勢がとれるようになっているのに対し、軽自動車やコンパクトカーなどの小さなクルマは、正しい運転姿勢をとれないまま運転しているドライバーがいるのではないかと考えられるのだ。 正しい運転姿勢は、緊急時に速やかに対応できるだけでなく、長時間のドライブで疲労軽減が期待できる。不自然な運転姿勢では、疲労は増し、集中力の維持が難しくなる。その結果、車線はみだしやペダルの踏み間違えなどの事故を誘発していないか、気になるところだ。 車体設計を見直す 2017年4月、マツダが実施した安全取材会に参加した。同社統合制御システム開発本部の池田利文電子開発部長は、 「75歳以上の高齢ドライバーの事故原因の一番がペダルの踏み間違いにある」と説明。 そして、同じことが、高齢者だけでなく、29歳以下の運転初心者にも当てはまると、 交通事故総合分析センターの資料からの試算を解説していた。 ペダルの踏み間違いを解消するには、正しい運転姿勢をとり、 体を曲げなくても右足できちんとペダル操作できることが重要となる。 正しい姿勢で運転ができるように、マツダは2012年発売の新車からペダルの位置を見直した車体設計を採用している。その結果、従来に比べ86%におよぶペダル踏み間違いの予防効果を得ているという。 実際にその会場で、最新の車種と、その以前のタイプでペダルの踏みやすさの違いを体験した。アクセルペダルとブレーキペダルの段差は両方とも同じにもかかわらず、最新車種はペダルの段差が小さいと感じ、アクセルペダルからブレーキペダルへの移行を容易に行えた。 ペダルの配置が左寄り 横置きエンジンと駆動輪が車体前方にある、いわゆる前輪駆動(FF)車では、 変速機(トランスミッション)や作動装置(デファレンシャル)なども一緒に配置され、エンジンルームに部品が集中する。 そのため、前輪の位置が客室寄りになって足元に迫り、ペダルを配置する足元の空間が狭くなる。 運転席のペダル配置が全体的に左寄りになりがちだ。 それによって運転姿勢も若干左へよじれた格好になる。 それが、ペダルの踏み間違いを誘発している。 ことに軽自動車ではその傾向が強まり、 マツダの場合も軽自動車メーカーからのOEM(相手先ブランドによる生産)であるため、小型車より上の新世代商品群と同じペダル配置にはなっていない。 運転の基本であり、交通事故の抑止にもつながるはずの運転姿勢が、なぜいつまでも改善されないのか。 なぜ正しい姿勢で運転できないのか? 軽自動車は、規格内に収めるために車体寸法の制約があるとはいえ、そのサイズは、1960年代の初代トヨタ「カローラ」や日産「サニー」といった当時の小型車とほぼ同等で、かつてのスバル「360」やホンダ「N360」などといった軽自動車ほど小さくはない。 なおかつ、現在の軽自動車規格の車体寸法は、安全性の確保を目的に、20年も前の1998年10月に大型化された経緯もある。安全のために正しい運転姿勢が重要だという認識をなおざりにしてきたのは、自動車業界全体の姿勢に問題があるということにならないだろうか。 もちろん、自動車メーカー各社は、新車の設計段階で、ドライバーの「標準」とされるモデルを使い、コンピューターシミュレーションで座席やペダル配置などの確認をしていると言うだろう。 だが、その標準とは最大公約数であり、実際には身長や体重、あるいは、ほぼ同じような体格であっても、実際は腕や脚の長さの違う人がハンドルを握るはずだ。 そうした様々な体格に合わせるためのテレスコピックが、価格競争の厳しい軽自動車やコンパクトカーで、省かれてきた経緯があるのではないか。 車台(プラットフォーム)には億単位の開発費がかかり、それを正しい運転姿勢のために作り直すとしたら、さらに莫大ばくだいな投資が必要となる。それよりも、「ぶつからないクルマ」をうたう電子装置を“後付け”する方が安価に済むという計算があるとしたら、それは場当たり的な処方でしかない。 本当の安全とは何か? 日本自動車工業会の2017年の調査によれば、
高齢者が所有する自動車のうち、 軽自動車の比率は3割におよび、 これにコンパクトカーを加えればもっと大きな数字になるだろう。 使用年数も長期化する傾向にあり、身近な生活の足として重宝されていることがうかがえる。安全運転支援システムなどの電子装備が装着される以前の軽自動車が、今後も継続して利用される可能性は高い。 正しい運転姿勢の確保という基本は自動車メーカーの責任でもある。 電子装備の原価低減だけでなく、次のプラットフォームの開発段階で、正しい運転姿勢を多くの人が採れる人間中心の設計を徹底することが望まれる。 また、改めて、マニュアル(MT)の採用を考える必要があるかもしれない。 クラッチ操作を伴うマニュアルシフトは、クラッチ接続に細心の注意を払わなければエンストを起こし、走れなくなる。逆にそのことが、ペダル踏み間違いや誤発進を抑制することにつながる。 最新のバイワイヤ(電気通信で制御するシステム)技術を用いれば、より簡便に操作できるマニュアルシフトが作れるはずだ。 本当の安全とは何か。生活に役立つ経済的なクルマとは何か。軽自動車こそ、この点を真剣に問い直し、ユーザーへ万全の安心を提案すべきだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.09.14 04:35:29
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