カテゴリ:🔴 C【中国】 尖閣 台湾有事
記事 中国の空母「遼寧」は太平洋で戦える代物ではない 軍事情報戦略研究所朝鮮半島分析チーム 2019/07/01 06:00 中国が空母「遼寧(旧ワリヤーグ)」は、ウクライナから購入した当初、機関系統の配管が取り外されていて、設計図もない状態で再建することは困難と考えられていた。 しかしながら中国は、約10年の年月を費やし、2012年9月に空母「遼寧」として就役させた。 当初20ノット程度の速力しか出せないと見られていたが、今では30ノットの速力は出せるようだ。 今年6月に遼寧を中心とする水上戦闘グループ(以後、遼寧グループと呼称)が編成され、沖縄と宮古島間を通過し太平洋に出た。 その後、グアム島付近、南シナ海で行動後、台湾海峡を経由し帰投したようだ。 今回初めて、太平洋において1週間程度活動した。その構成は、遼寧を中心に、ルージョウ級駆逐艦1隻、ルーヤンⅢ級駆逐艦1隻、ジャンカイⅡ級フリゲート艦2隻およびフユ級高速戦闘支援艦の6隻からなっていた。 「遼寧」グループは、多くの重大な欠陥を内在させているものの、徐々にその能力を高めつつある。 では、このグループの実力について、米軍の空母および空母機動打撃群と比べてどうなのか。洋上機動能力、航空作戦能力、防空戦・水上戦能力について分析し評価する。 1. 空母の洋上機動能力は限定的である 遼寧グループが、沖縄と宮古島間を通過した際、解放軍報は「空母は、外洋で活動する戦闘艦艇であり、中国近海に常時所在させることは困難である」との記事を掲載した。 つまり、「空母が外洋に展開するのは当然であり、周辺諸国は大騒ぎするな」と強調したいのだろう。 遼寧は就役以来6年半を超えているが、活動期間は極めて短い。 各種報道から展開状況をみると、2013年南シナ海で1か月、2016~2017年沖縄~南シナ海で1か月、2017年香港訪問、2018年南シナ海で2週間、2018年南シナ海(観艦式)で1か月、今回の行動は約2週間であった。 米海軍空母の場合は、32か月の運用サイクル中、展開期間が19%、30日以内に展開できる期間が46%、90日以内が11%、修理期間が残りの24%となっている。 展開期間は概ね7か月であり、これが2年半おきにある計算となる。 遼寧の東シナ海以外での活動を「展開」と定義するならば、同空母の展開期間は就役以来6か月に満たない。船体または機関に不安を抱えている可能性がある。 水上艦艇が洋上を長期間行動するためには、洋上補給能力がカギとなる。米空母は原子力推進であり、主燃料補給の必要はない。 展開中同行する駆逐艦などへの補給が必要である。米海軍後方支援部隊であるMSC(Military Sea-lift Command)は15隻の4万トン級洋上補給艦を運用している。 空母展開時、これら洋上補給艦が行動を共にすることはなく、時間と場所を決めて、空母機動部隊と補給艦が会合し、補給を実施している。 今回の「遼寧」グループには、フユ級高速戦闘支援艦(4万トン)が同行している。 同艦は、空母に随伴するために高速が求められたことから、ガスタービン機関を採用し、フーチー級補給艦の2倍の大きさながら、25ノットの速力が出せる。 艦艇燃料補給能力は2万トンと推定されており、フーチー級7900トンの約2.5倍である。遼寧グループの展開能力拡大に大きく貢献するものと推定できる。 しかしながら、米海軍空母機動部隊のように半年以上もの展開を可能とするためには、随伴ではなく、米軍同様に複数隻の高速戦闘支援艦を運用し、必要なものを、必要な時期に、必要な量を提供する方が効率的である。 現在、中国海軍は同型の高速戦闘支援艦を2隻しか保有していない。遼寧グループが十分な洋上機動能力を発揮するためには、遼寧自身の能力に加え、それを支援する組織のさらなる充実が必要であろう。 2.艦載機の航空作戦能力はかなり低い 遼寧に搭載されている艦上戦闘機「J-15B(殲撃-15)」は、ロシアの戦闘機「SU-27」に中国が独自に改良を施し、かつ中国の国産戦闘機である「J-11B」の技術を加えた戦闘機だ。 遼寧にはJ-15Bが24機搭載されているようである。 空母の航空作戦能力は、作戦に必要な量の武器と燃料を搭載した航空機をいかに早く空中に展開できるかにかかっている。 遼寧の艦載機は、スキージャンプ方式により発艦し、アレスティングワイヤーにより着艦する。 遼寧の発艦スポットは、前部に2か所(滑走路:105メートル)、中部のアングルドデッキに1か所(同:195メートル)の計3か所である。 アングルドデッキのスポットを使用する場合は、構造上前部の2か所の発艦スポットは使用できない。 そのため、3機の艦載機を速やかに発艦させることができたとしても、それ以降の準備作業には時間を要すると考えられる。 さらには前部2か所の発艦スポットからの発艦は、J-15のエンジンの推力不足から燃料もしくは武器の搭載量を制限しなければならないと推定されている。 空中で武器の搭載は不可能であることから、武器をフル装備したならば、空中給油しなければ行動できない。 一方、米空母ニミッツ級は、4本のカタパルトを保有し、フル装備約20トンの航空機をわずか2秒で時速約260キロの速度で打ち出す。 艦載機の発艦間隔は1分程度であり、15機の戦闘機をわずか15分程度で発艦させることができる。 カタパルトを装備する空母と、そうではない空母との能力差は極めて大きい。 今回、遼寧はグアム周辺まで行動したものとみられるが、同島周辺にて航空優勢を確保できるほどの航空機を空中に展開させることはほぼ不可能とみてよい。 それでは、遼寧の現有能力から最適展開海域はどこであろうか。 中国が十分な哨戒能力を持ち、一定程度の航空優勢を確保できる海域は、現時点では、東シナ海および南シナ海しかない。 従って、太平洋およびインド洋方面を活動する場合は、その戦闘力の全力発揮が求められない限られた時期のみとなる。 3.水上戦闘グループとしての水上戦・防空闘能力 遼寧グループの水上戦能力は、艦載機と長距離対艦ミサイル(C-802:射程約120キロ、YJ-18:射程200キロ以上)により構成される。 対艦攻撃能力を効果的に発揮するためには、攻撃目標となる敵艦艇の位置を決定する(ターゲティング能力)ことが不可欠である。 遠距離ターゲッティングは、通常哨戒機や哨戒ヘリで行われる。これらは自己防御能力を保有していないことから味方の航空優勢圏下で使用される。 前述したように遼寧の航空優勢維持能力は限定的であり、必然的に遠距離ターゲティング能力も限られてくる。 ルージョウ級およびルーヤンⅢ級が保有する長距離対空ミサイル(HQ-9:射程約120キロ)は、グループのための防空の傘を提供する。 艦載機による防空戦闘には、防空レーダーでは捕えられない遠方の防空情報を入手するため、早期警戒管制機の存在が必須である。 早期警戒管制機は長時間の運用が必要であり、滞空時間の長いプロペラ機が使用される。 米海軍空母は、「E-2C/D」により早期警戒を行っている。遼寧のようにカタパルトを保有しない空母からは、固定翼プロペラ機の発艦は困難である。 代わりに、AEW(早期警戒管制)ヘリコプターを使用するのが一般的であり、英国、ロシア海軍が運用している。 中国海軍も「Ka-31AEW」機を保有しているが、遼寧からの実運用は確認されていない。 各艦艇が衛星通信装置およびデータリンクの関連装備を保有していることから、戦闘グループ内において対空目標情報を共有することは、ある程度できるが、近代戦に必須の各艦への目標割り当てができているかどうかは不明である。 水上戦、防空戦能力に共通する能力として電子戦能力がある。 米海軍空母は、「EA-18Gグラウラー」を保有しているが、現時点で遼寧には電子戦機が搭載されていない。 現在「J-15D電子戦機」を開発中と伝えられているが、その戦力化には長期間を要するであろう。 おわりに 遼寧の空母としての能力は現在、限定的であると見られるが、中国海軍が空母運用に関するノウハウを積み上げており、その活動状況に注目する必要がある。 特に今回は、本格的な太平洋方面行動であり、その活動期間、訓練内容などを把握することは、今後中国が空母をどのように運用しようとしているかを図る指標となるであろう。 遼寧が就役した直後の2012年11月28日、中国網日本語版は「1950年代から現在に至るまで、空母艦載機テストで、米国は1000機以上の戦闘機を破損させ、数百人もの犠牲者を出した」との記事を配信した。 遼寧就役後の発着艦訓練開始に伴い、事故が頻発することを想定し、「米海軍でもそうであった」と伝える意図があったものと考えられる。 しかしながら、遼寧に関連する航空機の事故は、今まで2件公開されているのみである。 事故の発生を公表していない可能性も考えられるが、遼寧の活動状況を考慮すると、訓練頻度が少なく、そのレベルも低いため、事故につながっていないということも言える。 米研究所のリポートでは、艦載機パイロットの経験不足が指摘されており、これも遼寧の能力が低く評価される理由となっている。 外洋を航行する空母にとって脅威の一つは潜水艦である。 米空母も対潜能力を持つ航空機やヘリコプターを搭載するとともに、任務によっては攻撃型原子力潜水艦が空母のサポートについている。 中国海軍は対潜能力が課題とされている。今回、遼寧グループに中国海軍原子力潜水艦が随伴しているかどうかは不明であるが、将来的には原子力潜水艦の随伴または中国潜水艦が行動している海域での運用が見積もられる。 遼寧の能力把握やその存在位置確認のため、日米は積極的に情報収集を実施している。 台湾国防省は、遼寧グループが南シナ海に入った6月18日に、在シンガポールの米海軍「P-8Aポセイドン哨戒機」がこれを追尾、その後に台湾を周回、沖縄嘉手納基地に着陸したと公表している。 太平洋においても同様の活動が日米で行われたと考えるのが自然である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.07.01 13:19:42
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