カテゴリ:L 【人生】【死生観】
記事 人生70年 人生100年 かんべえさんより <7月15日>(月) ○昔、よく使ったネタであるが、フジテレビの『サザエさん』に出てくる磯野波平は54歳という設定である。今のワシよりも若い。1972年に宰相となった田中角栄はやはり54歳で、今太閤と呼ばれて人気を博したが、今見ると70歳くらいの貫録に見えてしまう。でも50年前の50代はあんな感じだったのである。 ○それもそのはず、磯野波平さんはあと1~2年で定年になって、当時の平均年齢だと後10年くらいでお迎えが来るはずである。カツオくんやワカメちゃんの大学卒業には間に合わないかもしれないが、当時の大学進学率は2割くらいなので、あまり気にする必要はないのだろう。と聞くとギョッとするかもしれないが、1970年前後の日本はそんな感じだった。 ○昭和の常識というものは、だいたいが「人生70年」くらいの前提でできている。つまり余生があんまり長くはない。特に男性は早死にだった。そこで年金制度も甘く設計してしまったという問題があるのだが、まさか半世紀後に「人生100年時代」が来るとは思わなかったから、それは責められないだろう。 ○そんなことよりも、これだけ急速な寿命の伸長があると、だんだん昔の常識が分からなくなってくる。例えば昭和の歌謡曲の中には、「あなたと別れても、思い出とともに生きていく~」みたいな歌詞がめずらしくないが、今聞くととっても異和感がある。これは、平均寿命が短い時代の発想だと考えれば納得がゆく。自分が90歳まで生きると考えていたら、こんな歌詞は出てこない。つまり男女の情愛さえ、だんだん昔の感覚がわからなくなっていく。 ○同様に、「この会社に命をささげよう」という発想も、昭和には普通のことであった。だって人生70年のうち、20歳から55歳くらいまでの大部分を会社が面倒を見てくれたわけだから。ところが今では、会社を離れてからの人生が数十年もある。こうなると「一社懸命」は不合理な選択となってしまう。そりゃあ転職もアリだし、若いうちから副業もやっといたほうがいいですよね。長寿社会は、「個」が強くないと生きていけません。 ○人生の時間が長くなると、離婚や再婚が増えることも自然な流れでしょう。だって生きてる時間が長くなるのだから、死別する確率だってそれだけ上がります。既に日本は3組に1組が離婚する時代。「ただ一人の人とだけ添い遂げることが美徳」という考え方は、やはり人生が短かった時期の特色とみることができましょう。 ○家族関係も、以前より「長期志向」になるはずだ。つまり親子だけじゃなくて、祖父母と孫みたいな3世代、場合によっては4世代の関係も増えていく。人生が短かった時代には、親や兄弟と喧嘩してもわりと平気だった。今はお互いに老後が長いので、なるべく喧嘩はしない方がいい、ということになりそうだ。ゼロ金利、マイナス金利時代においては、「相続」の問題も重くなっていきますしね。 ○長寿化は、政治的には「保守化」につながるだろう。というか、人生100年時代に誰が革命家になろうとするのか。「高齢者が多くなるから社会が保守化する」というのは、あまり当たっていないと思う。今の日本では、高齢者ほど反政府の比率が高くなる。老い先短い者は、無責任になれるのだ。逆にこれから何十年も生きなければならない世代は、政治で下手なギャンブルはできないと考える。このメカニズム、大人はあんまり気づいていないんじゃないだろうか。 ○今日のように選挙戦が終盤に差し掛かってくると、案の定、与党の優勢が伝えられてくる。するとリベラル派の媒体が、焦ったかのように「若者よ、投票に行け」などという論陣を張る。でも、若者が投票すると、ますます安倍政権や自民党を利することになると思う。彼らは保守的だから。余生が長い世代にとっては、「あれもこれも全部、政府が面倒を見るべきだ~」などと言っている野党は、とってもお気楽で無責任に見えていると思うぞ。 ○変な言い方になるが、「人生100年時代」は始まったばかりである。それに沿って新しい常識が誕生し、過去の常識がどんどん忘れられていく。だから「昭和の時代」をうまく忘れることが必要ですな。メディアの皆さんも含めて。 <7月16日>(火) ○以下は微妙に昨日の続きのようなネタ。 ○たまたま今日、出版社の人たちとランチしていたら、「いま、孤独が売れてます」とのこと。ほれ、下重さんとか五木さんとかの本、あたしゃ読んでないのですけれども。当たり前の話ですが、平均寿命が長くなるとそれだけ孤独な老人が増える。そういう人たちは、健康から預貯金の額、離れて暮らしている家族との関係まで、さまざまな不安を抱えながら生きているわけでありまして。 ○ところがこの手の本を読むと、「孤独は素晴らしい」というメッセージが込められていて、勇気づけられるんだそうです。なるほど、そういう需要があったのか。でも、「孤独は寂しくない」というのは、幼子が「腹は減っても、ひもじゅうない」と言っているようで、むしろ痛いような気もする。 ○何しろ今や単身世帯が全体の35%を占めていて、これが2040年には4割になるらしい。「夫と妻、子供2人」なんて昔の「モデル世帯」は、今じゃ石を投げてもなかなか当たらない。編集者曰く、「少し前までは、『死ぬまでセックス』で読者を掴めたのですが、今じゃ『夫と顔を合わさずに暮らす間取り術』ですから」。ううむ、身につまされるのう。イギリスには「孤独問題担当大臣」があるというではありませぬか。 ○そういえばたまたま昨日、柏シアターに中島みゆきの『夜会工場Vol2』を見に行って、ものすごーくガッカリして帰ってきたのである。貴重な休日の午後の2時間と、2500円が惜しまれる。でも、こういう名曲もあったよね。ほら、「1人で生まれて来たのだから」。孤独を応援することにかけて、彼女に勝る者はたぶん居ないのであります。 ○するとその後に、図ったかのように冠婚葬祭総合研究所の関係者が来訪。今度はどうやってお葬式やお墓を守っていくか、という話に。神社とお寺はそれぞれ全国に7000軒程度だが、神社は年間を通じてイベントがあるから集客できるけど、お寺は檀家が居なくなったらどうするんだろう、などと。人類の予想を超えた長寿化は、いろんなドラマを生みつつある。それはもちろん商機をももたらす、というお話であります。
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