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ーーー 記事 ーーー がんを1秒以内に見分けるAI登場 その驚くべき実力とは? 週刊朝日 2019年10月11日号より抜粋 (本誌・池田正史) 2019/10/05 08:00 人工知能(AI)は遠い未来の存在ではない。いまやいろんなところで活躍しており、中でも注目されているのが医療分野。内視鏡などの画像から、がんを瞬時に見つけられる。その能力はベテラン医師に匹敵し、患者の負担減も期待されている。
「ベテラン医師並みの高い精度の内視鏡医療を、いつでもどこでも提供できるようになりました」 昭和大学特任教授の工藤進英医師は、こう胸を張る。 昭和大学は、名古屋大学やソフトウェア開発会社のサイバネットシステムなどと共同で、AIを活用した大腸がんの診断支援システムを開発した。内視鏡分野では国内で初めてAIを使ったものとして国から承認され、オリンパスが3月に発売した。 内視鏡で撮影した大腸のポリープが、がんに進行する可能性を見分ける。正確さは長年経験を積んだ専門医に劣らない。精度は9割を超え、一般医師の約7割を大きく上回る。 評価にかかる時間はわずか0.3~0.4秒で、ほぼリアルタイム。従来はベテラン医師がその場で判断したり、組織の一部を切り取って精密検査(生検)をしたりする必要があった。診断結果がわかるまで1~2週間かかることも。 ポリープはがんに進行する可能性が高ければ切り取るが、非腫瘍(しゅよう)性なら手術の必要はない。正確に評価できれば必要のない手術が避けられ、検査のリスクも減らせる。 「医師からは、疲れなどによるミスを減らせるといった感想が届いています。患者からも、診察や検査のために何度も病院に行く必要がなくなったと好評です。システムを導入した病院には、患者の予約が増えているところもあります」(工藤さん) AIの活躍の場はどんどん広がっている。囲碁や将棋で人間を打ち負かしたり、小説を書いたりするものも登場。おすすめのファッションを提案したり、天気を予測したりするなど、身近なところでも活用されている。企業では、顧客への電話対応や事務作業などで導入されている。 総務省が2017年にまとめた試算によると、AIや、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」の活用で、今後十数年間で経済規模が132兆円押し上げられる。 ここで仕組みをおさらいしておこう。 AIは、物事を学び、推論し、判断するといった脳の動きをコンピューターで再現する技術だ。言葉自体は1950年代と古くからあるが、ここにきて実用化が進んでいる。 コンピューターが大量のデータを分析し一定の法則を見つけだす「機械学習」や、神経回路の仕組みをまねたプログラムで自動的に賢くなっていく「深層学習(ディープラーニング)」という技術が後押ししている。大量のデータを読み込み、どんな点に注目し判断すればいいのかを、勝手に学んでいくのだ。 この勝手に賢くなるAIが、医師を手助けしている。効率的な治療ができるようになり、医療費の抑制も期待される。 実用化が最も進んでいるのが、冒頭で紹介したような画像診断の分野だ。大量の画像データをもとに、病気であるかどうかを判断する。AIの性能は、学習させるデータの量や質が決め手だ。 昭和大などのシステムが高い精度を実現できたのも、膨大な診断結果を学ばせたことが大きい。昭和大をはじめ、国立がん研究センター中央病院や東京医科歯科大学病院など5病院の専門医が協力。腫瘍性のポリープかどうかを判断した、約6万枚の画像を読み込ませた。 「AIに学ばせる画像は一枚一枚すべて、医師が病理診断との整合性を確認しました。さらに2人以上の内視鏡専門医が改めてダブルチェックを行いました。学習作業には約7年もかかりました」(同) 大腸がんは増加傾向で、17年にがんで亡くなった人のうち、部位別では肺がんに次いで2番目に多かった。16年に新たに見つかったがんの中では最も多い。患者が増えた理由は、食生活の変化など様々な要因が挙げられている。 従来の検査は大変だった。病変を見つけるには、内視鏡を肛門から差し込み、腹の中で複雑に折りたたまれた腸の中を探らなければならない。早期のものほど病変が小さく見つけにくい。見つかっても、転移リスクなど危険性を判断する必要がある。何カ所も組織を切り取るケースもあり、患者にとって負担だった。 「内視鏡をうまく挿入できるようになるまでに、半年から1年はかかります。AIの助けで、早期発見・治療が期待できます。大腸がんは肺や肝臓などに転移するリスクが大きく、死亡率が高い。一方で、早期に見つかれば十分治せます。AIに学ばせるデータを10万枚に増やすなど、性能をさらにブラッシュアップしていきます」(同) 医療ベンチャー、AIメディカルサービスは、胃の検診で撮影した画像から、がんを見分ける技術を開発している。最高経営責任者(CEO)の多田智裕医師は、熟練していなくてもベテラン並みの診断が可能になると言う。 「たくさんの画像を学んだAIの支援で、肉眼では見分けにくいがんの見落としを防げます。医師とAIがダブルチェックするので、診断が高精度になります」 胃が荒れている状態でがんを見つけるのは簡単ではない。早期の胃がんの1~2割は、検査で見逃されているとされる。この技術では、内視鏡の画像を分析させると、がんが疑われる部分を約0.02秒で特定。がんかどうかの確率を、「早期胃がん 97.03%」といった数値で示す。 全国の30以上の大手病院やがん専門施設と連携して、40万枚以上の画像を学ばせた。6ミリ以上の胃がんの検出率は静止画で98%、動画で94%まで高まっている。 多田さんが開発を始めたきっかけは、現場の人手不足だ。診断機器のデジタル化や高性能化によって、撮影枚数が飛躍的に増えた。X線よりもがんを見つけやすい内視鏡検査を希望する人も増えたが、医師の人数は限られている。診察が終わっても病院に残り、数千枚の画像をチェックしなければならないこともあるという。 「AIのサポートで医師の負担が減れば、患者に寄り添って診療する時間を増やすことができます」(多田さん) AIメディカルサービスはこの技術について、治験をして、数年後の発売を目指す。将来的には、胃がんだけでなく、大腸や食道などほかのがんの分野でも実用化したい考えだ。 AIの活用が期待される分野はいろいろある。誤った手術や治療を防ぐほか、医薬品の開発、生活習慣病予防などにも役立つ。実用化されれば医療水準が一気に高まり、寿命が延びそうだ。患者側からも、AIによる安全な医療を要望する声が出ている。 数少ない成長分野とあって、大手電機メーカーなどは開発を強化している。内視鏡の分野ではオリンパスのほか、富士フイルムやNECなどがAIを使ったプログラムに取り組む。日立製作所やキヤノンメディカルシステムズは、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴断層撮影装置)の分野に力を入れる。 ベンチャー企業も負けていない。東大発ベンチャーのエルピクセルは、脳のMRI画像からくも膜下出血の原因になる脳動脈瘤を検出するソフトを開発する。 AIを巡る国際競争は、すでに激しい。米グーグルなどは医療用の開発に注力している。自動運転技術で脚光を浴びる米半導体大手エヌビディアも、医療機器大手と共同研究している。 昭和大の工藤さんは、日本に強みがある分野だけに、開発にさらに力を入れるべきだと訴える。 「例えば内視鏡はオリンパスだけで世界シェアの約7割を占めます。日本の医師の診断能力も世界的にみて優秀。AIの能力を高めることができるのは、こうした蓄積があるからです。日本が世界で勝てる分野が少なくなっている中で、競争力のある大事な技術と言えます。うまく開発できれば、診断を受けに来る外国人も増えるはずです」 政府はAIやビッグデータを活用した、「AIホスピタルシステム」の構築を目指す。遠隔医療や検査ができるようになるもので、22年度末までに約10のモデル病院を指定し、運用を始める計画だ。 他の国も黙ってはいない。米国やドイツ、中国などもAIを経済成長の柱に据え、開発を急ぐ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.10.05 13:53:26
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