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私は現在、目が悪くて読書はほとんど出来ないのだが この解説文を読んだだけでワクワクする この作家は、居住者的にも、意識・思考的にも 「越境者」なのだと思う 私も今までの人生において越境者である 越境者にしか見えない世界というものがあり 越境者しか感じることの出来ない意識というものがある 母語の外の言語世界、思考世界というものがある 母国以外の異国の様相というものがある そういうものは、ホモジーニアスな日本に 一番欠けているものでは無いだろうか? ーーー 記事 ーーー 祝・全米図書賞受賞! いま読むべき作家、多和田葉子の魅力とは? By GQ JAPAN編集部 2018年12月29日 2018年11月15日(現地14日)、 作家の多和田葉子が 米国において最も権威のある文学賞の1つとされる「全米図書賞」を受賞 したことが発表された。世界的に評価が高く、「村上春樹よりノーベル賞に近い」とも言われる多和田作品の魅力はどこにあるのか。多和田葉子作品の研究を続ける岩川ありさがすすめる、いま読むべき3作品とは。 文・岩川ありさ 言葉のきらめきをいとおしむ 作家・多和田葉子が米国において最も権威のある文学賞のひとつとされる「全米図書賞」の第69回翻訳書部門を受賞した。彼女はドイツ語と日本語の2言語で執筆する作家だ。1982年からドイツで暮らし、1991年には日本語で書いた小説「かかとを失くして」で群像新人文学賞を受賞、1993年には「犬婿入り」で芥川賞を受賞し、2016年には優れたドイツ語で書かれた文学に贈られるクライスト賞を受賞するなど活躍を続けている。今回紹介するのは、現代社会が抱える様々な問題を浮き彫りにする3冊だ。 効率よく情報をやりとりすることが求められる時代において、 文学を読むという営みは私たちになにを与えてくれるのだろうか。 声を上げられない誰かの叫び声をすくいあげるような文学作品は、私たちが「当たり前」だと思っていることを問う視座をくれる。 多和田の言葉遊びや詩的な表現は、凝り固まった言葉の使い方を解きほぐし、新しい響きを教えてくれる。 ~~~~~ 『雪の練習生』(新潮社) ホッキョクグマ三代の物語 2011年に発表された『雪の練習生』(2013年に新潮文庫で文庫化)は、ホッキョクグマが自伝を書くという設定が面白い長編小説。東西冷戦から環境危機の時代まで、物言わぬ動物が語りはじめたら、なにが見えてくるのか。読み進めるうちに、人間は、地球という星で、ホッキョクグマを含む多くの動物たちの生存に大きな影響を与え、責任を負っていたことに気づかされる。戦争や温暖化といった問題は、人間にのみ関係があるのではなく、この地球に生きるすべての生物に関わる。 物語は、ソビエト連邦時代、サーカスの花形だった語り手のホッキョクグマの「わたし」を描いた第一部「祖母の退化論」からはじまる。怪我をして引退を余儀なくされた「わたし」だったが、たぐいまれな事務能力があったため生き延び、やがて、「自伝」を書いて作家になる。しかし、西側諸国で出版されたため、トラブルが起こり、亡命することになる。東ドイツの国営サーカスが舞台の第二部「死の接吻」では、動物調教師のウルズラが舌の上に乗せた角砂糖をホッキョクグマのトスカが舌でからめとる「死の接吻」が印象的だ。東から西へ、西から東へ、めまぐるしく変化する冷戦時代を生きる白熊たちの物語に惹きつけられる。ベルリンの動物園で人気者となったクヌートが主人公の第三部「北極を想う日」は、大切に育ててくれた飼育係のマティアスを失い、孤独の底に沈みこむ場面の寂しさが身に染みる。命を世話するとはどういうことか、血の繋がりや種すら超えたケアの問題が浮かびあがるところも魅力だ。 ~~~~~ 『献灯使』(講談社) 震災後の不気味な未来図 次に紹介する『献灯使』(2014年に発表され、2017年に講談社文庫で文庫化)は、東日本大震災と福島の原子力発電所の事故の影響が色濃い小説。鎖国され、「外来語」を使えなくなった「東京の西域」を舞台に、百歳を超えても老人は元気だが、子どもたちはもろい体になり、ケアが必要な世界が描かれている。曾祖父の義郎(よしろう)と曾孫の無名(むめい)を中心にしながら、旧世代の常識が通じなくなった世界で、「カルシウムを摂取する能力が足り」ず、「微熱を伴侶にして生きて」いる無名たち世代の子どもたちと共に生きる姿が切実だ。 広島と長崎に原子力爆弾が投下され、多くの人々が犠牲になったのが1945年。冷戦時代の核開発競争は続き、原子力発電所の事故は起こり、20世紀は紛れもなく原子力の脅威に晒された時代だった。無名とともに生きてゆくことを決意した義郎の、「百年以上も正しいと信じていたことをも疑えるような勇気を持たなければいけない」という言葉が印象的だ。「献灯使」として旅立つ無名の前には深く暗い海峡が待ち構えている。果たして、無名が見たのはどのような景色なのか。2018年には、満谷マーガレットが、The Emissaryというタイトルで英語に翻訳し、全米図書賞を受賞した。 ~~~~~ 『地球にちりばめられて』(講談社) 言語をめぐる旅 最後に紹介するのは、『地球にちりばめられて』(講談社、2018年)だ。コペンハーゲン大学で言語学を専攻する大学院生のクヌートは、「自分が生まれ育った国がすでに存在しない人たちばかりを集めて話を聞く」というテレビ番組に出演していたHiruko, J.という女性に会いにゆく。ヨーロッパに留学している間に、生まれ育った国が消えてしまった彼女は、帰る場所をなくした「故郷喪失者」だが、スカンジナビアの人ならば、大抵意味が理解できる「パンスカ」という人工語を作り出す。 「異文化」の中で生きるとはどういうことなのか。「母語」とはなにか。作者が書き続けてきた主題が詰まった小説であると同時に、移民を受け入れず、他者を排斥する時代を浮き彫りにする小説でもある。自分を包み、縛るものである「母語」の外に出てみるとどんな響きが聴こえてくるのか。地球にちりばめられた響きの中で、「並んで歩く人たち」の息づかいが鮮やかな一冊だ。文学の言葉は、人を立ち止まらせ、つまずかせることもある。けれども、そのときに、はじめて見える景色があり、聴こえる響きがある。伝えるための言葉から、伝わらなさや伝えられないことを表現する言葉へ。この機会に、ぜひとも、多和田葉子の文学の世界を旅してほしい。 岩川ありさ(いわかわ ありさ) PROFILE 1980年生まれ。現代日本文学研究、クィア・スタディーズ。法政大学国際文化学部専任講師。主な論文に、「変わり身せよ、無名のもの―多和田葉子『献灯使』論」『すばる』2018年4月号、「どこを見ても記憶がある―多和田葉子『百年の散歩』論」『新潮』2017年5月号、「境界の乗り越え方—多和田葉子『容疑者の夜行列車』をめぐって」『論叢クィア』第5号、2012年9月など。
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最終更新日
2019.10.06 05:28:50
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