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【米国政治】 トランプが敗北してもアメリカに残る「トランピズム」の正体 ニューズウィーク日本版 12/1(火) 19:01配信 渡辺由佳里(在米エッセイスト) ―― 私の意見 ―― 最近の米議事堂暴動により、トランプの評価は地に落ち 二度目の弾劾の可能性が生じてきた しかし、それとは別に、私は、トランプ政治という既成の政治に対する アンチテーゼは、それなりに意義があったと思うし 暴動示唆により、そのすべてが否定されるものでもないと思う 陰謀論になるが、いわゆる deep state なるものは 確固たる組織としては存在していないかもしれないものの 既得権益受益者の間の暗黙の了解として、存在するものだと思う その考察と評価が無ければ、今後の米国政治は、分断され荒れ狂う国内とは別に また既得権益の世界の予定調和に終わるのではないか? ―― 記事 ―― <支持者に対して「誰が何と言おうと自分は勝ち組だ」という 心地のいい「真実」を与えるトランプへの信奉が アメリカに蔓延してしまった> 2020年11月3日に行われた大統領選挙で、 民主党指名候補のジョー・バイデン元副大統領は 8000万を超えるアメリカ史上最高の票数を獲得し、 選挙人数でも306対232で現役大統領のドナルド・トランプに勝利した (これまでの最高得票数は2016年に敗北したヒラリー・クリントンで、6584万票だった)。 トランプは「不正選挙が行われた」と主張して数々の訴訟を起こしているが、 証拠を提供できないために裁判所から却下されている。 たとえトランプが敗北宣言をしなくても 2021年1月20日には大統領就任式が行われてバイデンが大統領になる。 選挙に負けたとはいえ、トランプは7392万票を獲得した。 6298万票を獲得した2016年の選挙の時より1000万票以上増やしたことになる。 この事実は軽視できない。 また、この4年間のトランプ大統領の支持率は低いなりに安定していた。大統領の支持率はその時の経済状況や外交問題などによって大きく変化し、上下の幅があるものだ。例えば、ジョージ・W・ブッシュ大統領の支持率は2001年9月の同時テロの直後には90%近くまで上がったが、イラク戦争が続いた任期の終わりには20%近くにまで下がった。バラク・オバマ大統領の場合は65%ほどでスタートして55%近くで任期を終えたが、途中には40%ほどまで支持率が下がったこともある。ところが、トランプの場合には50%を越えたことが一度もないかわりに40%より下がることもほとんどなかった。 得票数と継続的な世論調査の結果からわかるのは、アメリカの半数以上はトランプを嫌っているかもしれないが、何があってもトランプへの支持を変えないアメリカ人も半数近くいるということだ。トランプの人気は彼がホワイトハウスを去った後でも急速には冷めないだろうし、全米に蔓延した「Trumpism(トランピズム)」も簡単に消えないだろう。 「トランピズム」という言葉を、リベラルがトランプやその支持者を揶揄するために創作した単語だと思いこんでいる人がいるようだが、それは誤解だ。トランプの早期からの支持者で現在もアドバイザーをしているニュート・ギングリッチが2016年大統領選の前から使っていた表現だ。ギングリッチは1990年代に共和党下院議長を務めた人物で、大統領選の後、保守系シンクタンクのヘリテージ財団で、トランプ勝利の理由とトランピズムを保守の人々に説明した。 <「旧式の秩序を壊す改革」> ギングリッチのスピーチで最も印象的だったのは、共和党の予備選でトランプが対立候補に勝った状況を説明した部分だった。予備選のディベートでは、通常、トップを走る候補を他の候補が一致団結して攻撃する。ところが、2016年の共和党予備選ディベートでは、誰もトランプを攻撃しようとしなかった。ギングリッチはその理由を、「トランプは(映画)『レヴェナント: 蘇えりし者』のグリズリー熊」「(熊と目をあわせたら、熊は)そいつの顔を喰って、身体の上に座り込むから」と映画のシーンで説明して観衆を笑わせた。つまり、対立候補たちは、ディベートのときにトランプと目を合わせるのを避け、自分ではなく他の候補の顔を喰って身体の上に座り込むことを祈っていたというわけだ。 こういったトランプの態度は予備選だけでは終わらなかった。大統領になってからは、閣僚やアドバイザーが自分の言いなりにならない時には、彼らに辞任する機会など与えず、ツイッターでいきなり解雇して侮辱した。自分と同じ党である共和党の議員が苦言を呈したときも、ツイッターで執拗に攻撃し、何万人ものトランプのフォロワーがその攻撃に加わった。その結果、これまで党に逆らって自分が信じる票を投じてきた数人の共和党議員までもが、トランプを恐れて従うようになった。 「攻撃されたら、それ以上の反撃をして相手をやっつける」というのは、暴力をエスカレートさせる危険な発想だ。それに、暴力的な言動で他人を抑え込むのは卑劣だというのがまっとうな考え方だ。しかしながら、このような類の強さやカリスマ性に惹かれる者は少なくない。学校での虐めのリーダーや『ゴッドファーザー』のマフィアのボスに惹かれる者がいるように。「トランプは大胆でユニークなリーダーだ」と熱心に語るギングリッチも、そのひとりだ。 ギングリッチはさらに「トランピズムとは、旧式の秩序を壊す改革であり、全米規模のムーブメントなのだ」と強調した。彼が言う「旧式の秩序(old order)」の例が国務省の専門家だ。ギングリッチは「国務省の80%は、知識がある愚か者(intellectual idiots)」「彼らはテストを受けるのはうまいだけで、タイヤの交換なんかできない」とこき下ろした。この「反知性主義」は、トランプ支持者の間で非常に人気がある思想だが、かつての共和党にはなかったものだ。少なくとも、ジョージ・H・W・ブッシュ(父)の時代までは、共和党は教育でも年収でも「エリートの党」だと自負していたからだ。伝統的な共和党で下院議長の座にまで這い上がったギングリッチが、反知性主義、反エリート主義の布教者になったことに驚いたが、それがトランピズムの威力だとも言えるだろう。 <トランプ支持の「心地良さ」> この時のギングリッチのスピーチにはトランピズムを理解するヒントが多く含まれていた。しかし、トランピズムはトランプのドクトリン(政治・外交・軍事などの基本原則)と言えるのだろうか? 外交政策の専門誌フォーリン・ポリシーの2019年4月の記事「An insider explains the president's foreign policy」は、2年間のトランプ政権の動向から「トランプの外交政策には、広く受け入れられている名前がまだない」と書いている。それは、「(これまでの大統領とは異なり)トランプがネオコン(新保守主義)でも旧保守主義でもなく、伝統的現実主義者でもリベラル国際主義者でもないことが、絶え間ない混乱を引き起こしている。彼には孤立主義や介入主義への先天的な傾向はなく、シンプルにハト派でもタカ派でもない事実も同様だ。彼の外交政策は、これらのカテゴリーのすべてから引き出されているが、いずれにも簡単に当てはまらない」からだ。 トランプのドクトリンを簡単に説明するとしたら、「America First(アメリカ第一主義)」である。上述の記事にもあるが、トランプは世界中で「愛国主義」や「国粋主義」が再び台頭してきていることを察知していただけなく、それを肯定的に捉えていた。アメリカだけでなく、大国のこれまでの外交態度は「自分の国が最も大切なのは当然だが、もっと高尚な目標のために他国を助けることもしなければならない」というものだった。それゆえに難民の受け入れなどもしてきたのだ。しかし、この記事にもあるように、自己中心的になるのが人間の本質的な性質である。知性に基づいた理念でそれを追いやっても、必ず本質的な性質は戻ってくる。それが自然の性(さが)だからだ。ポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)というのは、その性を抑制するためのものなのだ。 ギングリッチは、ヒラリー・クリントンのポリティカル・コレクトネスを「みんなでグレイトになろう」という幼稚なものとして嘲笑いし、トランプの「アメリカを再びグレイトにしよう」というスローガンの壮麗さを賛美した。このスローガンは、白人男性がポリティカル・コレクトネスを気にせずに自由に振る舞うことができた時代の「アメリカ第一主義」に戻ることをわかりやすく伝えている。そして、トランプはメディアから批判されたら「リベラル・メディアは嘘ニュースばかり伝える」と反撃し、自分を批判する者がいたら、たとえ共和党員であってもツイッターや政治集会を介して名指しで徹底的に叩く。政策においても、著名な大学で教育を受けた専門家の意見には耳を貸さずに自分の意見を押し通す。 <スポーツのファンの心理とも共通する> トランプの最も大きな支持層は「地方に住む、大学教育を受けていない白人男性」だということが出口調査でわかっている。ギングリッチが語ったように「エリートはテストの点を取るのがうまいだけで、実際は愚か者だ」と考えている層でもある。彼らにとって、トランプ大統領は、ポリティカル・コレクトネスに攻撃されて自分がしぶしぶ隠してきた本音や人間性を堂々と肯定してくれた強いリーダーなのだ。 同じように考える者が、トランプのスローガンがついた赤い帽子をかぶって集まり、トラックやモーターバイクに巨大なアメリカの旗を飾ってトランプ支持のデモをした。初期のものを見かけたが、そこからはスポーツチームのファンのような心踊る連帯感があることを感じた。特にパンデミックで「マスク着用」「ソーシャルディスタンス」といった規制をされるようになってからは、反逆の高揚感も与えてくれたことだろう。「革命に加わる高揚感」と「仲間意識」については、バーニー・サンダースを支持する左寄りリベラルの若者たちとも共通するものがあった。だが、トランプ支持者は、ポリティカル・コレクトネスを否定するトランプと自分たちのほうが、左寄りのリベラルよりも正直であり、ポジティブだと信じていた。陰謀説を信じやすいのは、極右と極左どちらにもよくある傾向だが、トランプ支持者は特にトランプの嘘や陰謀説に対して脆弱だ。トランプがつくわかりきった嘘を支持者が受け入れるのは、そのほうが彼らにとって心地が良い「真実」だからだ。 この「心地良さ」は、トランプ人気を支える非常に重要な部分だ。 たとえその人が現実でどのような困難に接していても、トランプを支持することで力強いトランプのチームに加わることができ、したがって自分もパワフルになれるという錯覚を与えてくれる。ツイッターで、支持者が筋肉隆々のボクサーの身体にトランプの頭を乗せた写真を使っているのをよく見かけたが、支持者にとってはトランプのイメージはそれだった。パンデミックでのマスク着用義務を拒否するのは、アメリカ国民の権利であり、勇敢さだと信じさせてくれたトランプは、すべての面で「自分を肯定するパワー」を与えてくれたチャンピオンであり、スーパーヒーローなのだ。この魅力がトランピズムのムーブメントが広まった理由であり、2020年大統領選挙でトランプが2016年より票数を伸ばした理由だと筆者は考える。 これは、スポーツチームを応援するファンの心理とも共通している。いったん熱狂的なファンになると、そのチームが負けても認めたくないし、審判が相手チームを不正に贔屓にしたと思いたくなる。だから、証拠もないのに「不正選挙があった」「自分は実際には勝った」と言い続けるトランプを信じる支持者がいるのだ。 人種マイノリティにトランプ支持者がいるのは不思議ではない。自分と同じ人種の人々に対して「自分は文句ばかり言う負け組の彼らとは違う」と距離を置きたがり、マジョリティに感情移入する者は以前からいた。「自分は特別だ」と信じたい人々にとっても、トランプはそれを可能にしてくれる強いリーダーなのだ。 <バイデンは右からも左からも攻撃される> むろん、このようなリーダーは危険である。アメリカは、大統領が二大政党のどちらに属していても、外交において「民主主義」と「人権重視」の立場は変わらなかった。しかし、トランプ政権はその伝統的な規範を無視して、独裁政権のように振る舞うようになった。議会はそれを止めるべき立場にあるのだが、共和党がマジョリティの上院はトランプに徹底的に従った。民主主義国と欧米諸国がトランプ政権と同様の振る舞いをするようになったら、敵対する国々に同様の行動を取る言い訳を与えることになる。いったん民主主義や人権を軽視する態度を取ってしまったら、これまで「世界の警察官」のように振る舞ってきたアメリカは、もはや他国に対して人権に関する苦言を呈することはできなくなる。 こういったトランピズムを案じていたのは、リベラルだけではない。ダン・クエール元副大統領の首席補佐官を務めた著名なネオコンのビル・クリストルは、初期からトランプとトランピズムに否定的で、「民主主義を守るため」にという非営利団体を創始し、2020年の大統領選挙では民主党候補であるジョー・バイデンを支持した。他にも、トランピズムによる民主主義の崩壊を案じた著名な共和党員らが行動を起こした。トランプの元大統領顧問ケリーアン・コンウェイの夫であるジョージ・コンウェイ、ジョージ・W・ブッシュ元大統領や元大統領候補ジョン・マケインの側近だったスティーブ・シュミット、かつてニューハンプシャー州共和党の委員長だったジェニファー・ホーンなど長年の共和党員らがスーパーPAC(特別政治行動委員会=候補者から独立した政治団体)である「リンカーンプロジェクト」を結成して、トランプを批判するPR活動を行った。 こういったアンチ・トランプの保守の支援もあってバイデンは選挙に勝つことができたが、トランプは不正の証拠などないのに「不正選挙だ」とツイートし、毎日メールやテキストメッセージで支持者に裁判の費用のための資金提供を呼びかけている。そのために、不正が行われたと信じるアメリカ国民が増えてきた。 トランプが選挙に対するアメリカ国民の信頼を傷つけたのは、深刻な問題である。選挙と選挙への信頼は、健全な民主主義を維持するために不可欠だ。アメリカの大統領は民主主義の旗振り役であるべきなのに、トランプは、自ら率先してアメリカの民主主義を破壊しようとしているのだ。ミット・ロムニー上院議員など、共和党の中からもトランプの行動を批判する者は出てきているが、まだ少数派だ。上院を牛耳る多数党院内総務のミッチ・マコーネルは、共和党の権力を維持するためにトランプとトランピズムを利用し続けている。 トランプがホワイトハウスを去った後にもアメリカに残るのが、このトランピズムだ。 ジョー・バイデン次期大統領が、COVID-19とトランピズムが蔓延するアメリカを導くのは、非常に難しいことだろう。オバマ大統領の時のように、期待しすぎた支持者が、すぐに結果を得られないことに業を煮やして「失望した」と言い出すことも予想できる。 しかし、バイデンの強みは、その未来をオバマ大統領の傍らで副大統領として体験していることだ。右からも左からも攻撃されることはすでに計算に入れているだろうし、自分だけでなく、周囲にも過剰な期待はかけていないだろう。だから、叩かれても、驚かず、動揺もせず、淡々と仕事を片付けていくことだろう。 この静かなリーダーシップを、バイデンが「強いリーダー」のイメージとして売り込むことができたら、トランピズムが静まっていく希望が持てる。しかし、極右と極左の強いアクションに惹かれる者が多い現在のアメリカでは、それは淡い希望でしかない。
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最終更新日
2021.01.11 00:49:14
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