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【株式市場】
SNSが変える市場 レディット問題、ルール整備急務 日経 編集委員 川崎健 2021年2月2日 米個人がSNSのレディットで呼びかけ合ってゲームストップ株などを買い上げた =ロイター SNS(交流サイト)の普及が伝統的な株式市場の構造を変えている。米SNSのレディットを起点に繰り広げられた米個別株の乱高下は、個人が集団で動けば機関投資家であるヘッジファンドも打ち負かせることを示した。意図的な株価のつり上げを禁じる規制はこうした事態を想定しておらず、SNS時代の新たなルールづくりが急務だ。 レディットを舞台に米国市場で起きた「ショート・スクイーズ(空売りの締め上げ)」は、株式市場では古くから存在する古典的な手法だ。 株を空売りした投資家は意図に反して株価が大きく上がると、空売り用に借りた株を返すために損失覚悟の買い戻しを迫られる。空売りで被る損失は理論上は無限大だから、空売り勢は株価上昇に過敏に反応する。それを狙い、資金力を武器に空売りの多い銘柄を力ずくで買い上げる手法だ。 これまでこの古典的な手法が活用されてきたのは、プロ対プロの機関投資家の世界だ。今回はアマチュアの個人投資家らが、機関投資家のヘッジファンドを締め上げて買い戻しに追い込んだという点で極めて新しい。 個人にヘッジファンドを打ち負かす力を与えたのは、株式市場に最近訪れた2つの変革だ。 1つ目はスマートフォンを使って低コストで手軽に株式取引を手掛けられるインフラの登場だ。 株取引アプリのロビンフッドはスマホの簡単な操作で売買できるうえ売買手数料は無料。コロナ下のロックダウン(都市封鎖)も追い風となり、若いミレニアル世代を中心に爆発的に広がった。 スマホ経由で株を売買する個人の多くが、少ない元手でも取引額を増やすことができる証拠金取引(信用取引)や、デリバティブ(金融派生商品)の一種の個別株オプション取引を多用する。実際、米国では個人のコールオプション(買う権利)の取引が急増している。 個人はレバレッジ(テコ)効果で取引額を膨らませることができる証拠金取引やオプション取引を多用し、資金力で勝るはずのヘッジファンドの締め上げに成功した。 2つ目は、SNSを使った集団行動だ。今回のレディット上で協力して動いた個人投資家の間では「富裕層のヘッジファンドを懲らしめて、株式市場を民主化しよう」という呼びかけに同調する声が相次いだ。 過去にもツイッターなどSNS上で他の投資家に買いを呼びかける「買いあおり」の行動は頻繁にみられた。ただ需給だけで不自然に上がった株にはすぐに利益確定の売りが出るため、株価は上がっても短期間にとどまることが多かった。 今回は2008年の世界金融危機後に起きた「ウォール街を占拠せよ」のデモに似た格差拡大に抗議する社会運動の様相もみせている。それだけにすぐに売却しない個人も多く、過剰な株価高騰につながった。 SNSを舞台にした個人の集団行動には規制の必要がないのか。米証券取引委員会(SEC)は1月29日に「不正行為を注意深く監視していく」との声明を発表した。 「共謀してショート・スクイーズをねらう行動は違法な相場操縦とみなされる可能性がある。特定の取引やSNSの発言を当局が捜査することも考えられる」。SMBC日興証券の村木正雄グローバル金融ストラテジストはいう。 米証券取引法で「相場操縦的、または詐欺的な取引行為」は従来から禁止されているからだ。 もっともSNSの掲示板というネット上で誰もがみられる公開の場で個人が「ゲームストップ株を全員で買え」「ヘッジファンドを締め上げろ」と呼びかける行動が、違法な相場操縦にあたるのかの判断は難しい。 専門家からも、SNSで虚偽の情報を意図的に流しているわけでもなく、明らかに共謀して株価をつり上げているわけでもない場合、取り締まるのは難しいとの指摘が出ている。 レディット騒動は株式市場以外にも波及しており、衰える勢いを見せていない。ニューヨーク銀先物が急に動意づいて約8年ぶりの高値をつけたのは、レディット上の呼びかけで銀先物が個人投資家の新たな標的になったからだ。 野村総合研究所の木内登英主席研究員は「規制当局にとってSNSは未知の分野だが、新たな規制を早急に整備する必要がある」と指摘する。 SNSの普及は投資家層を広げるのに寄与したが、悪用される危うさも持つ。ルール整備に向けて当局を含めた市場関係者が知恵を絞る必要がある。
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最終更新日
2021.02.03 17:29:22
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