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いとうまい子「アイドルだった私が遺伝子の研究者になるなんて」
婦人公論 https://fujinkoron.jp/articles/-/3292 この記事へのヤフコメ https://news.yahoo.co.jp/articles/c8ea66c096cc207b5e9f95e734d1fc2de2592f31?page=4 いとうさんが大学院で制作した介護予防ロボット「ロボット・ロコピョン」。 高齢化により足腰が弱って動けなくなる「ロコモティブシンドローム」の予防を目的として、定期的にスクワットを呼びかける仕組み 芸歴37年、女優・タレント活動を続けながら、大学院へ通う学生生活を送っている、いとうまい子さん。 45歳で大学進学を決意した経緯と、現在の日々について聞いてみると―― * * * * * * * ◆夫の言葉に背中を押されて 芸能生活25周年を迎えたころ、社会に対して何か恩返しがしたいと思うようになりました。18歳でデビューして以来、この世界で仕事を続けることができたのも、長年、私を支えてきてくれたスタッフや仕事関係者、ファンのおかげ。周囲の方々に、何らかの形でお返しをしたかったのです。 でも、高校を卒業してすぐに芸能界に入った私は、恩返しの術を何も持っていなかった。そこで、まずは大学に入ってさまざまな知識を身につけ、自分にできることは何かを考えてみたいなと思って。 とはいえ、ドラマやバラエティ番組の仕事をしながら大学に通うのは時間的にかなり厳しい……。なかなか踏ん切りがつかないまま過ごしていたところ、愛犬の散歩を通じて知り合った男性と44歳のときに結婚することになりました。 「実は大学に行ってみたいんだよね」と、何の気なしに相談したら、意外とあっさり「いいんじゃない。やりたいことをやったらいいと思うよ」と。その言葉に背中を押されて、ほんとうに気軽な気持ちで大学受験を決めたのです。 せっかく大学に行くなら予防医学の勉強をしたいと考えました。以前、文部科学省が行っていた医療関係のプロジェクトを推進するビデオに出演したことがあり、予防医学の大切さを知って興味を持っていたのです。 コロナ禍の今でこそ、手洗い、うがいなど予防を意識した生活をしていますけど、それまでは、「病気になったら、病院に行って治してもらえばいい」と考えている方のほうが多かったと思います。でも、日ごろからもっと「予防」を意識していれば、病院のお世話にならずに、健康で幸せな生活が送れるはず。 そんな予防医学の大切さを世の中に伝える勉強ができる大学はないだろうかと調べたところ、早稲田大学人間科学部の健康福祉科学科で学べるとわかり、eスクール(通信教育課程)を受験することにしたのです。パソコンを使いオンデマンドで授業が受けられるeスクールならば、毎日通学する必要もないので、仕事をしながらでも勉強ができますから。 ◆レポート提出と仕事のロケが重なったときは まず志望動機を書いた論文を提出し、その後、3人の教授による面接がありました。高校を卒業してからすでに25年以上。久しぶりの受験はやっぱり大変でしたね。論文を書くのも一苦労なら、「芸能人はすぐにやめるから入れたくない」と、面接官から散々言われて。それでも、「頑張ります!」とやる気をアピールして、なんとか合格できました。 入学後は……、めちゃくちゃ大変でしたね。ひとコマ1時間半の授業を、毎日数科目パソコンで聴講するのですが、すっかり記憶力が落ちていて、聴いたそばから内容を忘れてしまう(笑)。指の隙間から砂がこぼれ落ちていくような感じです。授業は動画を何度も繰り返し見ることができたのでよかったものの、課題のレポートの提出期限が決まっていて、毎週日曜日の夜11時59分になると、ネット上での提出が締め切られてしまう。 期末テストとレポートの締め切り、仕事のロケが重なって徹夜を余儀なくされ、過労で帯状疱疹になってしまったこともありました。仕事で新幹線を使って移動しているときに、必死で書き上げたレポートをクラウドに保存したと思ったら、トンネル内で電波が通じておらず、苦労の成果がすべて消えてしまうという悲惨な目にあったことも。(笑) あまりにつらいときは、「風邪をひいてレポートが間に合わない」と、教授にウソの連絡をしようと思ったこともありました。それでも、「途中でくじけてしまったら、社会に恩返しがしたいという自分のやりたかったことにたどり着けない!」と、自分自身を鼓舞して何とかやりきったものです。 面接のときに「絶対に、途中でやめませんから」と教授陣にタンカを切ったこともあり、どうしても4年間で卒業しなきゃ、という思いもありました。 ◆まさか大学院に進むなんて 4年間の大学生活は今振り返っても大変なことばかりでしたが、興味のあることを勉強できたのは楽しかったですよ。大学に入ってからは、それまで考えもしなかった方向に世界がどんどん広がっていったことも新鮮でした。 3年生でゼミを決めるとき、ロボット工学を選んだのも想定外。そもそも予防医学を学びたいと思って早稲田に入学したわけですが、希望していたゼミの教授が定年で退官し、予防医学を専攻できなくなってしまったのです。 その状況を知った20代の同級生から、「このゼミが人気だよ」と教えてもらったのがロボット工学のゼミです。そこで私が制作した正しいスクワットを検証するロボットにある企業の方が注目して、「この先、大学院に進むつもりなら、うちの会社と共同研究をしませんか」と声をかけてくださった。 大学院に進むなんて考えたこともなかったけれど、せっかく一緒に研究しようと言ってくださっているし、大学の4年間だけでは、たどり着きたかった境地に到達していないことにも気づいて、修士課程に進学することにしたのです。 修士課程の間に声をかけてくださった企業と一緒に開発したのが、高齢者の健康を支援する「ロボット・ロコピョン」です。高齢化が進むと、足腰が弱って動けなくなる「ロコモティブシンドローム」で寝たきりのお年寄りが増えるという深刻な問題を知ったことが、このロボットを開発したきっかけです。また、当時、がんを患った父が病院で寝たきりの生活を送っていたことも少なからず影響しています。 当初、父は自分で車いすに乗れるほど元気だったのですが、入院生活が長引くにつれて全身の筋力が衰え、ベッドで寝たきりに。いったいどんな思いで過ごしているのだろうかと、あるとき、父が看護師さんに連れられてトイレに行った隙に、父のベッドに寝てみたんです。そうしたら、目に入ったのは無機質な天井だけ。一日中、父はこの天井を見つめて寝ているだけなのかと思ったら、たまらなく切なくなって……。 最後まで幸せな人生を過ごすためには、やっぱり自分の足で歩けなきゃいけない。そのためには健康なうちから足腰の筋肉を鍛えておく必要があると、高齢者の方にスクワットを習慣づけるためのロボットを作ったのです。 ◆もっと勉強したいと博士課程へ このロコピョンを開発しているうちに、修士課程の2年間はあっという間に過ぎ、もっと勉強したいという意欲が私の中に生まれてきました。そこで、もう一段階上の博士課程に進みたいと思ったのですが、あいにく、私が所属していたゼミの教授は博士課程を持っていなかったんです。どうしよう? と悩んだときに、修士課程の2年間、欠かさず授業に出ていた基礎老化学の教授が博士課程のゼミを持っていることを知りました。 大学4年間はオンデマンドで授業を受けていましたが、実は大学院に進んでからは、週に2回、埼玉県の所沢にあるキャンパスまで、都内から1時間半かけて通っていたんですよ。それはもう、めちゃくちゃ遠くて大変でした(笑)。電車にも乗り慣れていなかったので、乗り換えの駅で迷ったり。 でも、どうしてもこの基礎老化学の授業を取りたかったので、午前中に名古屋でレギュラー番組に出演した後、ダッシュで新幹線に飛び乗り、西武池袋線の最寄り駅から出る学バスの時間に間に合うように、東京駅から向かって。それが毎週です。 本来ならば、ロボット工学を専攻していた私が基礎老化学の博士課程に進むことは許されません。でも、この授業を2年間みっちり受けていたおかげで、面接で教授たちの厳しい質問にもすべて答えられ、博士課程に進むことができたのです。 ◆50代になった私が、毎日東大に通うとは 博士課程に在籍してもうすぐ5年。今は東京大学の研究室と共同で、俗に若返り遺伝子と言われるサーチュイン遺伝子の研究をしています。どんな食品がサーチュイン遺伝子を活性化するのか。そのスイッチをオンにする食品を探すため、仕事の合間に、ほぼ毎日、東大のラボに通って、20代の学生たちと一緒に、細胞培養の実験を行っています。 50代になった私が、毎日東大に通うことになるなんて! 自分でも本当に驚きですが、「これをやってみたい!」と思う心のままに新たな一歩を踏み出してきたからこそ、人とのつながりが生まれ、思いもよらなかったところまで自分の世界が広がったのだと思います。 何か新しいことに挑戦したいと思っても、人生も半ばを過ぎれば、なかなか最初の一歩が踏み出せないという方は私の周りにも大勢います。先ほども言いましたが、私自身、一大決心をして大学に入ったわけではありません。初めの一歩はほんとうに軽い気持ちでした。もし合わないと感じたり、自分には無理だと思ったりしたらやめればいい、くらいの感覚で大学に行ってみることにしたのです。 でも、今は毎日が本当に楽しい! 自分の子どものような年齢の東大生に、「すごい、ひとりで培養ができるようになってきたね」なんて褒められると、めちゃくちゃ嬉しくて。大学に入る前の私はまったく無趣味な人間だったのですが、今は壮大な趣味を手に入れたような感覚で、毎日ワクワクしています。フレッシュな感性を持っている若者と過ごすことで、自分の気持ちも自然と若返ると言いますか……。 学部時代のスクーリングの授業で、20歳前後の学生たちと一緒に1週間合宿したとき、授業後にご飯を食べに行ったり、居酒屋に行ったりしたのも楽しい思い出です。 ◆研究の成果を広く伝えていけたら 考えてみれば、私が大学でこれまで勉強してきた10年間は、女性としては更年期にあたる年齢です。でも、私はもともと、精神的に《おっさん》で(笑)、おまけに毎日、新しい刺激に触れていたせいか、ホットフラッシュを数回感じたくらいで、それ以外は更年期の不調も感じないまま現在に至っています。 仕事と家事、勉強も意外にやりくりできているんです。大学院に進んでからは、論文を読んでいる間に洗濯機を回し、勉強の合間に料理を作る。実は料理をするのが気分転換になったりして。 レポートの締め切りが迫って夕飯の支度が遅れても、「いくらでも待っているから大丈夫」と、夫がのんびり構えていてくれるのもありがたい。夫と夕食を済ませた後は、2人で海外ドラマを観る時間もありますから、工夫次第で時間ってどうにでもなるものなんですね。 目下行っている研究は、本業の仕事との接点はほとんどありません。でも、おかげさまでこうして取材していただける機会も増えてきたので、これからはテレビでも予防医学の大切さを伝えていけたらいいですね。毎日1分間片足立ちをするだけで、53分間ウォーキングしたのと同じ効果がありますし、トイレに行くたびに5回ずつスクワットをする習慣を身につければ、いくつになっても自分の足で歩ける筋力を維持することが可能です。 博士課程に在籍できるのはあと1年ほどですが、その後も研究生としてゼミに残って、みなさんに恩返しができるような研究を続けていけたら嬉しいですね。
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最終更新日
2021.03.01 02:54:09
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