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2021.05.17
【過去ログ】 赴任の夜、初めて歩いた戒厳令のサイゴンの夜 ベトナムの想い出 ＃２ ―――― ◇ ―――― 一昨日の日記で、南ベトナムの首府･サイゴン (現在のホーチミン市）に赴任したことを書いた。 当時のベトナムはベトナム戦争の戦火が燃えさかってた。 ベトナム戦争とは サイゴン（現在のホーチミン）を中心とする南ベトナムと ハノイを首府とする共産主義国家の北ベトナムが いわば北朝鮮と韓国の様な形で戦争をしていたのだ こういう、当時はみなが知っていた事も 現在では私が説明しないといけない時代になった ベトナム戦争はこの２国だけの戦争だけではない。 南ベトナムの中では北ベトナムと連携したゲリラ組織 いわゆるベトコン (正式には,南ベトナム解放戦線） （米兵達は略して「VC」と呼んでいた） が暗躍していたし 南ベトナム側には 数十万人の米兵が派遣されて北ベトナムと戦っていた。 ベトコンの南への浸透ぶりはすごくて特に夜間には活躍。 南ベトナムは 「昼間は南ベトナム政府が、夜はベトコンが支配している」 と言われていた。 ーーーー 赴任した日、夜、食事を追えてから、一人で、宿舎から出て散歩をしてみた。 いまから思えば無謀な行動だったとは思うのだが 到着したばかりの私には、サイゴンの実態がわかっていなかたのだ べとナムはフランスの旧植民地だからサイゴンに限らず大都市は フランス式の並木道のある瀟洒な街並みである。 ただし街灯があまり無いので、夜の街は大部分、漆黒の闇。 その漆黒の闇の中、遥か遠方では、米軍が夜陰に乗じて侵入してこよう する郊外に拠点を置くベトコンを威嚇するために 絶えず打ち続けている大砲の威嚇砲撃の響きが 「ズドーン ズドーン」と、断続的にこだまし、腹に響いている。 そうした砲撃の瞬間には、夜の底がピンク色に輝く。 しばらく街路を歩いていると、暗闇の中に完全武装の南ベトナム軍の兵隊が目についた。 近づいてみるとヘルメットに防弾チョッキ、迷彩服、軍靴・・・、 それに弾帯を身体に、たすき掛けに巻き付けてている。 手にはM-16ライフルを握っていて、私が近づくと警戒しながらライフルを握り直している。 その背後にはトーチカと呼ぶべきなのか？ コンクリート製の円筒形の交番のような防御施設が作られていて さらにその周りには緑色の砂袋が、トーチカの窓口近くまで積み上げられている それほどの警戒ぶりなのだ。 まさにここは戦地なのだという実感が迫った それもそのはず、サイゴンはその前の年の旧暦の正月 （ヴィエトナム語では「テット」と呼ばれる）には 北ベトナムとベトコンの大規模合同部隊が一気に攻勢に出て ベトナム全土、サイゴンでは主に中国人街や米国大使館など等を奇襲 激しい市街戦となり、大使館内にも侵入、多数の死者が出た 当時は血まみれの死体が転がる大使館敷地の情景の写真が新聞に掲載されていた これは,、後に「テト攻勢」とよばれている。 ーーーー ベトコンと言っても、民族的には同じヴィエトナム人だから 一見して敵味方の区別はつかない、今のイラクよりわからない。 今のイラクならシーア派の街とスンニ派の街が分かれているが ベトコンは田舎や郊外に密かに陣営を構えるものが大部分 しかし一部は、市内で昼間は一般人の生活をしていて 夜には武装してゲリラ化するのだから、余計に見分けが付かないし極めて厄介 それが夜間に暗躍して時限爆弾・プラスティック爆弾をしかけたりする。 その他に田んぼにセットした時限装置付きのロケット弾を市内に打ち込む だから、このような厳しい警戒になっている。 ーーーー この完全武装のチェック・ポイントの前を恐る恐る通っていると、 自分でも気が付かないうちに、自分がまさに戦場のただなかにいる そういう実感と恐怖感に突如、襲われ、 膝がガクガクして，宙を歩くような感覚になった。 これは、私が予想もしなかった感覚･心理状態だった あらためてここは戦場だという事を強く実感した。 ーーーー 私たちの宿舎は、元米軍の空軍将校の宿舎だったという 白亜の大きな洋館で、ある大通りの交差点に立っているのだが その交差点には、チェッキング・ポイント・検問所がある。 チェッキング・ポイント・検問所とは、 行き交う車両や通行人をチェックするポイントである 検問は、警察である場合もあり、憲兵の場合もあり、兵隊たちの場合もある 彼らが常駐していて、銃器を手に目を光らせていて 「怪しい」というものが通りかかると尋問する。 通りかかるといっても、この交差点を通る人間はほとんどがホンダに乗っている。 「ホンダ」というのは、ここベトナムにおいては、ミニバイク全体の代名詞だ だから、ヤマハのホンダ、スズキのホンダ、カワサキのホンダもあるわけだ（笑） 検問されてもたまたま止まらないホンダがあると まず「ピーッ！」と警笛が鋭く吹かれる。 それでも止まらないと （意図的であろうと、気がつかなかったとしても） 問答無用で「バン バン バン」と拳銃またはM-16ライフルの警告射撃である はじめは警告であり威嚇射撃だが、それでも止まらなかったら本当に狙って打つ。 宿舎の自室にいても、この威嚇射撃が一時間に一度ぐらいは行われる。 私の部屋の窓の鎧戸越しに、そういう射撃音が鳴り響く これもそのうちに慣れてしまうのだから、人間というものは恐ろしい。 この検問態勢も、夜の12時まで それから、翌朝の6時までは、夜間外出完全禁止のカーフュ 戒厳令の世界である 動くものは、影でも撃たれる ーーーー 赴任してしばらくした頃 ある朝、日本人医師を訪ねてサイゴン病院に行ったら ちょうと、戒厳令で機銃掃射を受けた男が担ぎ込まれていて 医師の話では、腹部に数十発の銃弾が撃ち込まれていたという 問答無用の世界である ーーーー この宿舎の交差点の向こう側にはパゴダを持つ仏教寺院があった 小乗仏教特有の柿色の衣を羽織った僧侶が出入りしていた。 当時の南ベトナムでは、仏教徒は、南ベトナム政府と敵対的な関係にあった。 そのせいもあってだろうか？ ある夜、完全武装の部隊がこの寺院を囲んでパゴダに向かって 何時間も機銃掃射を行った。 その機銃掃射も夜間になると数発に一発入っている曳光弾が 赤いアイスキャンデーのように輝きながら寺院の中にす吸い込まれる この曳光弾は、夜間射撃の弾道を確認修正の機能をもっている。 これほど長時間機銃掃射を受けてはたまらないだろう 私が、宿舎の前に出てこの戦闘をのんきに見物していると それが気にくわなかったのか？ 兵隊が、寺院に、では無く、こちらに向かって撃ってきて その銃弾が私の足元に着弾してパッとコンクリートから砂煙が出て その銃弾は、宿舎の厚い鉄の門扉に当たって、カ・カ～～ンという鋭い音を立てた。 私たちは、あわてで扉の中に隠れて その後は、鉄の扉にある覗き穴から観戦？した。 この戦闘で死者が出たのかどうかは新聞を読んでも何も載っていなくて 私たちにはわからないままだった。
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最終更新日
2021.05.17 21:10:48
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