カテゴリ:🔴 【ウクライナ戦争・ロシア】
ウクライナに全てを賭けるプーチン大統領 英フィナンシャル・タイムズ前編集長 ライオネル・バーバー氏 Nikkei Asia ウクライナ侵攻 2022年2月25日 5:37 2019年夏、モスクワのクレムリン(ロシア大統領府)。 時計の針が午前0時を回ろうとしていたころ、私はロシアのプーチン大統領に「権力を握る期間が長くなるにつれて、リスクを取ることへの欲望も高まっているのではないか」と問うたことがある。 プーチン氏は「リスクへの欲望は増えるものでも、減るものでもない。リスクは常に正当化されるべきだ」と答えた。 一方で、ロシアにはリスクを取らない者はシャンパンを飲むことはできないということわざがあると語ったうえで、「ここはそのことわざを使う場面ではない」と締めくくった。 プーチン氏の発言は当時、答えをはぐらかした曖昧なものと受け止められた。だが、ウクライナ侵攻を決断したいま読み返すと、違った重みを感じざるを得ない。 権力を握ってから20年以上が経過し、プーチン氏はウクライナ侵攻という最大の賭けに出た。 過去のシリア内戦への介入やクリミア半島の併合、2016年の米大統領選への干渉とはその深刻さが異なる。 欧州大陸の真ん中で地上戦を仕掛け、ウクライナの主権を堂々と侵し、1994年にロシアがウクライナの主権を尊重することを米英に確約した「ブダペスト覚書」を破った。 ロシア政府はウクライナ侵攻を正当化するメッセージの発信に躍起だ。 一方で、西側諸国は問題が深刻化しないことを期待し続けている。 だが、どちらもウクライナ侵攻が欧州とアジアの国際秩序を根底から揺るがしているという事実を覆い隠すことはできない。 なぜ、プーチン氏はここまで大きな賭けに出たのだろうか。 多くの専門家はソ連崩壊後のロシアの不満に注目している。 すなわち、 (1)北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大、 (2)米国主導で行われたイラク戦争やリビアのカダフィ政権崩壊、 (3)将来的に隣国のジョージア(グルジア)やウクライナがNATOに加盟し、独裁国家のロシアが欧米型の民主主義に囲まれる ーーなどだ。 だが、もう一つ大事な視点が抜けている。 プーチン氏は「西側の衰退」という物語を信じているのだ。 プーチン氏は19年の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)とのインタビューで、大切なテーマとしてこの点を強調している。 準備に数カ月を要したインタビューは、クレムリンの「キャビネット・ルーム(閣僚の間)」で行われた。ニコライ1世、アレクサンドル2世、エカチェリーナ2世、ピョートル大帝という「4人のツァー(皇帝)」の彫刻が大統領の執務机を見下ろす場所だ。 我々は、小さな丸いテーブルに腰掛けた。新型コロナウイルス危機が起きる前のことだ。感染を恐れるプーチン氏が世界のリーダーをもてなすために使っている「ばかげたほど長いテーブル」はまだ登場していなかった。長いテーブルは自国のラブロフ外相との会合でも使われている。プーチン氏のウクライナに関する協議が一人でパントマイムを行っているような雰囲気を漂わせることに一役買っている。 インタビューで私は、プーチン氏に欧米諸国でポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭していることについて考えを聞いた。 英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレクジット)や米国でのトランプ大統領誕生だけでなく、フランスやドイツ、スペインやイタリアでもムーブメントが起きていた。 ロシアもこうした流れと無縁ではいられないのではないかと問うた。 プーチン氏は、少し落ち着きを失ったかのようにみえた後、次のように答えている。 権力を持つ人が忘れるべきではない政府の目的とは、「普通で安全で安定していて、かつ先の読める生活を一般の人たちがおくれる社会を作ることだ」。西側のエリート層はこの点を忘れたために、大衆と距離ができてしまったと指摘した。 そして、「リベラルな考え方は時代遅れになった。国民の大半と対立するようになった」と総括した。 プーチン氏の発言は正しくもあり、間違いでもある。 特に、リベラリズムが疲弊したアイデアになったという見立ては根本的に間違っている。 米国の深い分断についての分析は正しい。 現職大統領だったトランプ氏は自ら正式な選挙結果を覆そうとした。 昨夏のアフガニスタンからの米軍撤退を巡る混乱も、米国の影響力が中東を中心に弱まっていることを示した。 西側の民主主義陣営は自らの利益を損なうブレクジットのような行動にもでている。 一方で、プーチン氏が一番恐れているのはウクライナにNATOが拡大することでないことも確かだ。この説は説得力に欠ける。 本当に恐れているのは、民主主義が自国の玄関先にまで迫ることだ。 だから、ウクライナが独立国家として自らの意志で選ぶ権利を否定したいと考えている。 これこそが、プーチン氏がウクライナの征服を命じた理由だ。 何がなされるべきなのだろうか? ロシアによる土地収奪はナチスドイツによるオーストリア、チェコスロバキア、ポーランドへの段階的な侵略をほうふつとさせる。 西側の指導者たちはこれに対応しなければならないことを痛感している。 中国政府は本土から100マイル離れた台湾に対して歴史的な権利を主張してきた。 西側による強い意志の欠如は、罪を問われないとして中国による台湾掌握などの行為も助長することになりかねない。 米国のある高官は「同盟国ではなく、パートナーが心配だ」と語っている。 最初のステップは、ロシアに対する経済・金融制裁の調整だ。 権力をもつロシアの個人は西側への旅行を禁じられ、西側の銀行にある資産も凍結される。 ロシアは半導体のような高度な西側の技術にアクセスできなくなる。 ロシアの株式と通貨ルーブルは予想されていた通りに急落した。 一方で、ロシアのエネルギー資源に依存してきた欧州の国々も高い対価を支払うことになる。 プーチン氏は、西側の民主主義諸国が長期間の対峙に備えた胆力を持ち合わせていないことに賭けている。 彼はクリミア半島を占領した後に受けた非難を乗り切った。 外貨準備を数千億ドル規模に積み増し、原油価格高騰の恩恵も受けている。 そして習近平・国家主席が率いる中国にも近づき、米国に対して二正面作戦の再考を促している。 皮肉なことに、今週は(米中が対立関係に終止符を打った1972年の共同声明)上海コミュニケの50周年の節目だった。 中国とソビエト連邦を引き離そうとした(米国の)ニクソン大統領とキッシンジャー国務長官による試みだ。 (alex99注) しかし、ニクソンは晩年、「私はフランケンシュタイン(覇権国家・中国)を作ってしまった」と述懐したという もし米国が中国とより深い外交関係を築いていたならば、不安定化に対する北京の懸念に影響を及ぼし、プーチン氏に抑制のメッセージを送ることができたかもしれない。 現時点でプーチン氏は批判や理性には動じないようにみえる。 彼はカメラの前で、自身の国家安全保障チームにウクライナに関する質問を投げかけて、忠誠を求めることで恥をかかせた。 大写しになると身も凍るようなプーチン氏の目は、ロシアの歴史によって訓練されてきた。 彼は19世紀の古い帝国時代の領土の一部と「偉大さ」を復元した21世紀の皇帝になりたいと願っている。 過去の多くの侵略者のように、彼が致命的に行き過ぎたことを我々は願うのみだ。 ―――― アタターの意見 ―――― 高島宏平のアバター 高島宏平 オイシックス・ラ・大地 代表取締役社長 別の視点プーチン大統領は、民主主義国家のリーダーでありながら何をするかわからないトランプ前大統領の退陣を待っていたのではないかと感じます。 (alex99注) 私もまったく同意見で、昨日、ある人にこのことを私の意見として話した ドイツのメルケル前大統領もかもしれません。 自身より遥かに任期が短く、かつ意思決定の自由度が少ない民主主義国家のリーダー達に対して、勝てると踏んでリスクを取ったように見えます。 多くの方が本件を対岸の火事と捉えてないと思いますが、有事の際の国の意思決定について真剣に準備するべきではないでしょうか。 コロナという有事以上にスピーディーかつ大胆な意思決定が求められると思いますが、国のガバナンスを変えないと、リーダーの資質に関わらず意思決定スピードが間に合わないと危惧します。 2022年2月25日 8:35 (2022年2月25日 8:53更新) (alex99注) グズで、決断力に全く欠けた岸田に、この有事のさなか、日本のかじ取りは不可能 新井紀子のアバター 新井紀子 国立情報学研究所 教授 分析・考察AIとデータの時代には、中国のような強権的国家の方が民主主義国家よりも迅速かつ正確に政策判断ができる「可能性」がある。 そのような国家の「アキレスの腱」は、頂点に立つ者が機械ではなく、年齢とともに劣化し自らの失脚に怯える人間だという点だろう。 ロシアでは、まさにそれが仇となった。 プーチン大統領にとって「良い」ことが、世界にとって、SDGsにとって、そしてロシア国民にとって最悪の選択だったといえるだろう。
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最終更新日
2022.02.25 12:24:40
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