カテゴリ:🔴 【ウクライナ戦争・ロシア】
「ベトナム化」するウクライナは日本経済の脅威 池田 信夫 ウクライナでは、停戦の話し合いが続けられている。ロシアにとっては、ここまで戦争が長期化するのは予想外だったと思われる。当初は電撃戦で短期間にキエフを占領し、傀儡政権を樹立して既成事実をつくるクリミアのような展開を考えていたようだ。 ところがウクライナ軍の抵抗が強く、キエフはまだ陥落しない。ロシアはウクライナの「中立化」やクリミアの主権承認を求めているが、武装は認めるなど、軟化の兆候がみられるという。 そう簡単に停戦はできないだろうが、ロシアの作戦が失敗したことは明らかだ。 どこに誤算があったのだろうか。 本当の戦いは停戦から始まる ロシア軍の侵略は、いつも冬に行われる。クリミアで非常事態宣言が出されたのは2014年2月19日、プーチンがロシア軍の派遣を決めたのは3月1日だった。3月16日には「住民投票」でロシア編入が決まった。 今回も2月24日にプーチン大統領が「特殊な軍事作戦を行う」と発表したときは、同じぐらいのスケジュールで傀儡政権の樹立を予定していたと思われる。 当初は彼も「コメディアンのゼレンスキー大統領に何ができる」と高をくくっていたのだろうが、ウクライナ軍は予想外に善戦した。 キエフはロシアとの国境から約200キロメートル。戦車なら1日で到達できる距離だ。ロシア軍が3週間たっても占領できないとは、西側でもほとんどの人が予想できなかった。その原因は、ウクライナ人の愛国心が強いからだけではない。アメリカなどNATO(北大西洋条約機構)が軍事支援を続けているからだ。 ロシア軍に残された時間は少ない。ロシア軍の軍備は冬に最適化されており、戦車は凍土の上を進軍するようにできている。春になって凍土が溶けると、戦車がぬかるみで動けなくなるので、3月いっぱいが勝負である。それがロシアが譲歩している理由だろう。 ウクライナ戦争は「ベトナム型」 しかし本当の戦いは、停戦から始まる。20世紀以降の歴史が教えるのは、占領統治は戦争よりはるかに困難だという事実である。その困難さは、国家の大きさと関係ない。 日本のような大国でも、その政権基盤がすでに空洞化していた場合には、占領統治はあっけないほど簡単だった。アメリカの占領軍が日本に上陸したとき、国民の決死の抵抗を恐れていたが、日本人は星条旗を振ってマッカーサーを歓迎した。 冷戦の終焉で誰もが驚いたのは、70年以上にわたって続いた社会主義が、数カ月で崩壊したことだ。恐れられていた軍事衝突は、旧ソ連の内戦などを除いて、ほとんど起こらなかった。戦前の天皇制が日本人の支持を失っていたように、社会主義は国民の支持を失っていたのだ。 他方ベトナムのような小国では、アメリカの軍事力をもってすれば傀儡政権の維持は容易だと思われたが、1955年にゴ・ジン・ジェム政権ができてからもベトコンのゲリラ戦が続き、アメリカが撤退したのは1975年だった。アフガニスタンも2001年に9・11のあと、アメリカがタリバン政権を倒したが、それから20年たってバイデン政権は撤退した。 2003年にイラク戦争が始まる前、ブッシュ政権のボルトン国務次官は「米軍がバグダッドを占領すれば、イラク国民は1945年の日本人のように星条旗を振って迎えるだろう」といったが、そうはいかなかった。国民の支持を得ていない傀儡政権や外国統治に対してはゲリラの抵抗が続き、彼らが撤退するまで内戦は終わらないのだ。 このように占領統治に日本型とベトナム型があるとすると、ウクライナは明らかにベトナム型である。 プーチン大統領は、ロシア軍がキエフを占領して住民投票を行えば、クリミアのように圧倒的多数がロシアの統治を望むと思っていたのかもしれないが、ゼレンスキー大統領はSNSを活用して国民を団結させた。 ベトナムと似ているのは、アメリカが軍事支援をしたことだ。 ベトナムのときもベトコンだけでは勝てなかったが、北ベトナムが「ホーチミン・ルート」で軍事支援を続けたことが大きかった。 今回はアメリカが戦争の前からウクライナ政府を支援した。 対戦車ミサイル「ジャベリン」2600発など、総額20億ドルの武器支援を行っており、今回さらに追加で8億ドルの支援を決めた。 物量においては、ウクライナ軍は装備の古いロシア軍より優勢だったのだ。 このような物量の差は、短期決戦で勝負がつく場合にはあまり問題にならないが、戦線が膠着すると、ロシア軍には補給がきかなくなる。 そこに経済制裁で物資が足りなくなり、国債のデフォルトで財政が破綻し、海外の資産凍結で外貨準備がなくなると、海外から調達できなくなる。 それでもプーチン大統領がやっているように、国内の他の地域に配備した部隊をウクライナに移すなどして頑張れば、キエフの占領統治を続けることぐらいはできるだろうが、西部ではゲリラ戦が続くと予想される。 ベトナムのように民間人と区別のつかないゲリラがロシア軍に抵抗すると、世界最強の米軍でも、20年戦った末に撤退した。 GDP(国内総生産)がアメリカの7%しかないロシア経済は、1年ともたないだろう。 そのとき社会主義が崩壊したように、プーチン政権も崩壊するだろう。 あるいはそこまでに軍のクーデターや暗殺などで政権が倒れるかもしれないが、最悪のシナリオはプーチンがウクライナを占領したまま粘ることだ。 グローバル化が逆転して円安が加速する 停戦交渉では、ロシアはクリミアやウクライナ東部の「共和国」の主権承認を求めているので、東部を支配下に置いてウクライナを分割し、「フィンランド化」する可能性もあるが、それはここまで戦ったウクライナ政府が許さないだろう。 ウクライナ全土がどっちに支配されているかわからないベトナム的な状況が続き、プーチン政権が倒れるまで経済制裁が続くのではないか。 それは日本にとって最悪の状況である。 日本の輸入する原油のうちロシアからの輸入は6%、天然ガスは9%を占めているが、経済制裁でそれを止めると、1次エネルギーが6%ぐらい供給不足になり、電気料金が数倍に上がる。 そういう時期に「脱炭素化」などといって石炭火力を廃止したため、日本のエネルギー脆弱性はドイツ並みに上がった。 それが1ドル=119円を超える円安になった原因である。 これは今までにない現象である。 1990年代に社会主義の崩壊で東欧経済が破綻したときも、2008年にリーマン危機が起こったときも、円は「安全な通貨」として買われ、1ドル=80円台まで上がったが、今回は日本経済の脆弱性が円売りの原因になっている。 これは序幕である。 1990年代から続いてきた世界経済のグローバル化は、大量の安い労働力を抱える中国と、大量の天然資源をもつロシアが世界経済に入ってきたことで急速に進んだが、それがが逆転し、中露とそれ以外にブロック化し始めたのだ。 今のところ中国は、経済制裁に協力しないが反対するわけでもない曖昧な態度をとっている。 ロシア・中国・インドを除く世界のすべての大国がロシア制裁に賛成する展開は予想できなかったからだろう。 中国がロシアに協力すると、経済制裁はロシアよりはるかに困難だ。 経済小国ロシアとは違い、中国のGDPは世界第2位。 いまロシアに対してやっているように日系企業が中国から撤退すると、日本の製造業は壊滅する。 だからこの戦争は対岸の火事ではない。 日本が経済制裁に強くコミットすることは、中国が台湾にロシアのような軍事介入をすると世界から孤立するというシグナルを送って、日本の安全を守ることになる。 それは日本経済にとって大きなコスト負担になるが、 これを機に脱炭素化を見直し、原子力を再稼動してエネルギー自給率を高め、ブロック化する世界経済に対応する強靱な日本経済を構築する必要がある。
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最終更新日
2022.03.25 21:08:48
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