野球害毒論、攻玉社講師広田金吾
(「野球と其害毒」東京朝日新聞より) の続き。■1911年(明治44年)8月29日から連載を開始した「野球と其害毒」。その第5回目(9月2日)は「攻玉社講師広田金吾氏」。見出しは「地方中学における弊害」「衛生上極めて有害の例証」。広田金吾氏、曰く、自分は長い間地方の中学校に奉職していたがその間に一番困らせられたのは野球だ。第一この野球は非常に広い運動場を要し、秋田の中学校の如きは約1万5千坪からの地所をほとんどこれに使っている。しかもわづかに9人か10人の連中で専用されている。・・・また野球が一番に目立つという点から、校長の人気取の策に利用されて有望の青年を煽動するようなことがあるので実に困る。いったん学校で奨励するとなると生徒はどこまでも増長してヤレ練習のために学課を休みたいとかヤレ試合の準備のために休校したいとかいうのでたびたび公然欠席する。そして少しでもそれが学業の方に善影響を及ぼせばいいが、ことごとく反対の結果を見る。もっとも中には学業の成績のよいのもあるがこれらの選手は皆神経衰弱にかかってしまう。実際野球は人の知るごとく非常に頭を使うもので、一般の選手ですら長い練習に要する労働と頭を使い過ぎるために神経衰弱におちいるのに、更に学業まで熱心にやるというのは不可能のことで自然に不成績になるのは必然の結果である。ヤジにも弊害がある。今日の野次なるものはすでに味方の意気を鼓舞するという意味を脱してほとんど敵の意気をくぢき罵倒をこととする等じつに学生としてあるまじき非礼をおこなって得々としているのは慨すべきことである。団体運動として非常に面白い遊戯であるがこれらの弊害を考えると学校の運動として不適当であるといわなければならぬ。◇関連記事「1911年、「野球害毒論」論争勃発」■連載の1~4回目までは「野球というスポーツがもつペテン・俗悪性(第1回)」「学校の広告に過ぎない野球選手の存在(第2回」「学生野球の興業化・選手の学業不振(第3回)」「驕奢華美な虚飾(第4回)」について書かれていたが、今回(第5回)はグラウンドの無駄な広さとともに、ヤジについて言及していたのが興味深い。話は変わるけど、ヤジといえばボクは初めて大阪球場に行った時のことを思い出す。たしか南海vs阪急戦だったと思うが、選手がいるベンチの屋根に座り込みヤジを飛ばすオジサンがいた。そのヤジはとても絶妙なもので、聞いている方が思わずクスッと笑ってしまうほど当意即妙。ボクはこんなヤジならしょっちゅう聞いてみたいと思ったものだった。今日も1クリックお願いします