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画《ゑ》の謝礼
寺崎広業、小堀|靹音《ともね》、川合玉堂、結城素明《ゆふきそめい》、鏑木清方、平福《ひらふく》百|穂《すい》などいふ東京の画家は、近頃呉服屋が画家《ゑかき》に対して、随分得手勝手な真似をするので、懲らしめの為に、高島屋の絵画展覧会には一切出品しない事に定《き》めたさうだ。 それには呉服屋が店の関係上、上方の栖鳳や春挙の作に比べると、東京側の作家のものを、幾らか値段を低くつける傾向《かたむき》があるにも依るらしいといふ事だ。 大分以前京都のある呉服屋が栖鳳、香矯、芳文、華香の四人に半截を一枚宛頼んだ事があつた。出来上つてから店の番頭が金子《きんす》一封を持つて華香氏の許《とこ》へお礼に往つたものだ。 猫のやうな京都画家のなかで、唯《たつた》一人|帆《ほ》える事を知つてゐる華香氏は、番頭の前でその封を押切つてみた。(むかしく大雅堂は謝礼を封の儘、畳の下へ投《ほ》り込んで置いたといふが、その頃には狡い呉服屋の封銀《ふうぎん》といふ物は無かつたらしい。)なかには五十円の小切手が一枚入つてゐた。 「五十円とは余りぢやないか。」 と華香氏は番頭の顔を見た。番頭は小鳥のやうにひよつくり頭を下げた。 「でも香矯先生にも、芳文先生にもそれで御辛抱願ひましたんやさかい。」 華香氏は鼻毛を一本引つこ抜いて爪先で番頭の方へ弾《はじ》き飛ばした。 「ぢや栖鳳君には幾ら払つたね。」 番頭はさも困つたらしく頸窩《ぼんのくぼ》を抱へた。 「栖鳳さんは店と特別の関係がおすもんやさかい…:.」 「ぢや百円も払つたかな。」 華香氏は坐禅をした人だけに、蛙のやうに水を見ると飛ぴ込む事を知つてゐた。 「へ、ゝ……まあ、そんなもので。」と番頭は一寸お辞儀をした。 「ぢや、竹内君をも怒らせないで、後《あと》の私達三人をも喜ばせる法を教へようかな。」 と華香氏は大真面目な顔をして胡坐《あぐら》を組んだ。 先刻《さつき》から大分痛めつけられた番頭は、「是非伺ひませう」と一膝前へ乗り出した。それを見て華香氏は静かに言つた。 「竹内君のを私達の並《なみ》に下げよとは言はないから、私達のを竹内君並に引き上げなさい。よしか、判つたね。」 呉服屋に教へる。東京画家のもこの秘伝で往つたら、大抵円く納まらうといふものだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年06月05日 23時06分28秒
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