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2009.07.07
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カテゴリ:明治期・明治末期

  『土』長塚節(中公文庫)

 この本も、以前より何となく気になっていた本です。
 いつか読んでみたいなと思っていた本です。

 その理由は幾つかあります。
 まずひとつ目。
 漱石が推薦していたせいですね(漱石は「『土』に就て」という序文を、本書に書いています)。下記に触れていますが、一種の宣伝文とはいえ、かなり「真面目」に「真剣に」漱石は薦めています。漱石ファンの私としては、気になるところでありました。

 二つ目の理由は、たまたま読んでいた小説に、この本が出ていました。
 不治の病で入院している青年(高校生くらいでしたか)が、ベッドの中でこの本を読んでいるという設定で、小説の主人公(アルコール依存症)は大いに感心し、自らを反省するというお話です。確か、中島らもの小説です。

 ついでに三つ目を挙げると、もうほとんどうろ覚えなんですが、確か丸谷才一がこの小説について触れていたのじゃなかったか、と。
 新幹線でビールを飲みながら読み出したが、悲しい話でとても読んでいられず、ビールだけに専念した、と。違っているかしら。

 というわけで、いかにも「誠実」そうな小説という先入観を勝手に抱いて、私は読み始めたのでありました。

 ところがこのたび読みながら、結構長いもので(文庫本420ページ)ちょっと休憩を挿みまして、この小説の評価について、ぱらぱらと別の本なんかを読んでいました。
 すると、臼井よしみが、漱石の『土』評は誤っていると書いてある文章に出会いました。

 なるほど漱石は「序文」で、こんな薦め方をしているんですね。

 娘が年頃になって、音楽会がどうだとか、舞踏会に行きたいとか言い出したらこの本を読ませたいと思っている。面白いから読ませるのではない、苦しいから読めと忠告するのだと。

 うーん、確かにちょっと変ですね。
 またこんな言い回しがあります。

 「土」の中に出てくる人物は、最も貧しい百姓である。教育もなければ品格もなければ、ただ土の上に生み付けられて、土と共に生長した蛆同様に哀れな百姓の生活である。

 確かにこれって、ちょっとひどいですよね。
 実はこんな所に漱石のねじれがあるのであります。

 漱石は、21世紀の今に至るも、日本人の「師」のごとき評価を受けております。
 そしてそれに見合う実績も確かにあるのですが、やはり神様ではないわけで、プロレタリアートに対する認識については充分な深みを持っていません(ただし、漱石がもう少し長生きをしたならば、かなり深い認識を持った可能性はあります。絶筆『明暗』中の「小林」という人物の造型にその端緒が見えそうです)。

 一方、この中公文庫の解説者山本健吉が、正岡子規が長塚節に送った手紙を紹介していますが、子規の節理解は、漱石よりも遙かに大地に根を張ったしっかりしたものとなっています。

 この違いは、漱石と子規の、江戸生まれと田舎者の差でしょうね、おそらく。

 というわけで、この小説は「暗い重い長い」の三重苦のような小説です。
 朝日新聞連載中も読者に不評だったそうですが、たしかに漱石の言うとおり「苦しい」小説であります。

 最後にもう一つ。
 漱石も少し触れていますが、作品中に書かれている茨城県の方言が、僕にもあまり分かりませんでした。地の文が重くって、セリフが理解不能なんだから、とっても大変でありました。

 でも、読後感は悪くないです。そんな本でした。

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Last updated  2009.07.07 06:52:32
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