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2009.07.08
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   『秀吉と利休』野上弥生子(新潮文庫)

 時代小説について、ここ2.3年、私は司馬遼太郎を中心に読んできました。

 司馬氏については、高校時代に『龍馬が行く』で「ケツ割り」してしまいましたが、その後、何年も経ってからでありますが、若かりし日の自らの愚考を大いに反省し、斎戒沐浴、改めて司馬氏に挑ませていただきました。

 『坂の上の雲』が確か、その最初だったと思います。
 バルチック艦隊のギャグのような運行ぶりに、大声でぎゃははと笑いながら読んだのを覚えています(他の所は覚えてないんかい)。
 その後『空海の風景』『人々の跫音』等を読み、大いに感心致しまして今日に至っております。

 が、上述のように、昔、『龍馬が行く』全8巻をたしか2巻ぐらい読んだ所で「ケツ割り」したんですが、そのとき、高校生のナマイキだった少年Aは、自らが「ケツ割り」した原因について、

 「文体が砂のように味気ない」

と、文句をつけたような覚えがあります。

 うーん、あの頃の私は、司馬遼太郎の文体について、大いに不満を感じていたんですね(多分こう言うのを「酸っぱいブドウ」って言うんじゃないでしょうかね)。

 しかしそのうち私も年を取り角を取り、その一方で、感受性は失うわ頭の作りはますますアバウトになるわで、すっかり腑抜けになってしまいました。
 そしていつしか、文体の芸術性なんてどこ吹く風になっておりました。

 えー、ちょっと困った展開になりつつある予感がしているんですけどね。
 司馬氏については、現在の私にとってもちろんすばらしい崇拝の対象なんですけどね。

 ただ、最近司馬氏の歴史小説を結構読んできて、そして司馬文体が、「ノーマル」みたいに感じていたことについて、その一点だけについて、今回の読書で改めて感じたことがあると、それが言いたいわけですがー。

 さてこの度、野上弥生子の上記本を読んで、うーーーん、思わず思い出してしまいました。(なにを? 高校時代の私を、であります。)

 これはなかなかに立派な文章であります。
 まるでブルックナーの交響曲のように、きわめて重厚であります。長さもまたそれくらい長い。いえ、文庫本で430ページほどですから、司馬氏の諸作品に比べると全然短いのですが、そのぶん密度は濃いです。
 あえて比べるならば『夜明け前』がこんな感じじゃなかったかと思います。

 また登場人物が複雑怪奇ですわ。
 司馬作品登場人物の如く、「明るさ」一本槍ではありません。しかしその分人物に陰翳が出るんですねー。これが作品の厚みなんですねー。
 そしてそれに比例する如く、秀吉も利休も「悪人」なんですねー。「悪人」が少し言い過ぎならば、「イヤなヤツ」なんですねー。

 でも人間なんて、深く掘り下げれば、普通は「僕ならつきあいは拒む」になるものでありましょう。それが「人間が描かれている」ということでもありましょうか。(これ、いいすぎ?)

 というわけで、とても読みづらくも、しかしこれは間違いなく「力作」であります。
 野上弥生子、漱石の弟子筋ですが、いゃー、立派なものです。感心しました。

 というところで、今回は、ここまで。

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Last updated  2023.07.16 17:50:04
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