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近代日本文学史メジャーのマイナー

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2009.07.11
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  『三四郎』夏目漱石(新潮文庫)
 
 えー、この作品の三回目です。
 とはいえ、実はまだ、直接『三四郎』まで行っていません。
 『三四郎』へ辿り着くお話として挙がっているのが、これでした。

  『漱石と三人の読者』石原千秋(講談社現代新書)

 この本の作者、石原氏の導きの元に、『三四郎』中とっても面白い場面の報告をさせていただいております。前回と重なりますが、こんな場面でした。

 三四郎は、東大キャンパス内の、後に「三四郎池」とよばれる池端で、団扇を持った美禰子と看護婦に初めて出会います。
 最初やや離れていた両者でしたが、そぞろ歩きの如く美禰子が三四郎の方に近づいてきて、そして三四郎の前を通り過ぎていきます。その時、美禰子が二つの動作をします。

 まず一つ目の動作。
 三四郎のすぐ側まで来たとき、頭上に茂っていた木の名前を看護婦に尋ね、実は成っていないのかと感想を述べ、仰向いた顔を戻すときに三四郎を一目見たこと。
 その目がかなり印象的に書かれます。

 次に二つ目の動作。
 通り過ぎるときに美禰子が今まで嗅いでいた白い花を、三四郎の前に落として行ったこと。二人が行った後三四郎はその花を拾い嗅いでみますが、花に匂いなどなかったと書いてあります。

 暗示的でしょ。
 なかなか、ほのめかしよりますねぇ。

 この二つの動作の意味するものは何なのか。
 普通に読むと、美禰子が三四郎の気を引こうとしたのだとしか読めませんわね。事実、長い間この場面はそう読まれてきました。また漱石はそう読まれるように、ここに至るまでの個所でいろいろ仕掛けを施してきています。(例えば冒頭の汽車の中の女など)

 しかしよく考えると、二人は初めて会ったのですよ。ここでいきなり美禰子が三四郎の気を引いたとすれば、それでは美禰子は、全く見も知らぬ男を理由もなく挑発する「娼婦」の類の女になってしまうではないですか。
 吾々は、永くそのことに気がつかなかった、いや気づいていてもそんなに「変」だと思わなかった。美禰子とは、そんな女なんだと何となく思ってしまっていた。でもこれは実は、漱石の「芸」の力なんですねー。うーん、見事なものですねー。

 でも冷静に考えると、やはりそんな読みはおかしいですわね。
 では、「美禰子はいったい誰を挑発したのか」ということであります。
 石原氏が解説してくれているのは、これについての、新解釈です。

 なかなか、面白そうでしょ。
 うーん。後は自分で読んでください。
 って、意地悪じゃなくて、ここで簡単にまとめる自信がないんです。すみません。
 
 というわけです。ただ、この本の中には、どうもしっくり来ない個所も結構あったりします。

 例えば『こころ』について触れている個所ですが。
 取り上げている個所はなかなか面白いところですが、『こころ』の作品冒頭、「私」(第一部第二部の語り手である青年)は、なぜその人を「先生」と呼ぶかについて、「余所余所しい頭文字などは使う気にならない」とありますが、その「先生」は死んだ親友を「K」と書いているんですね。
 石原氏はここに着目して、第一部第二部の語り手である青年は、少なくともこの手記を書き出した時点においては、実は「先生」のことをそれほど尊敬していないと解釈しています。これって、結構面白いとは思うんですが、しかしそんな解釈が本当に引き出せるのでしょうかね。
 うーん、私にはよくわかりません。
 失礼ながら、ちょっと玉石混淆といった部分もありましたね。

 以下、次回に。

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Last updated  2009.07.11 06:26:25
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