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2009.07.13
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  『それから』夏目漱石(角川文庫)

 さて今回は、上記作にストレートに入っていきます。
 この作品を読んだのは、多分4、5回目だと思いますが、実はどうも今回は、今ひとつ主人公に感情移入ができませんでした。
 理論的なものはともかく、主人公代助に対して、微妙な「違和感」を感じ続けました。

 「理論的な」というのは、読み終わってから気がついて、一応の納得はできたということですが、それはつまり、

 「漱石は、次作『門』を射程距離内において『それから』を描いたのだ。」

という、そんなの当たり前じゃないか、といわれそうなことの「発見」ゆえであります。

 もう少し、順を追って書いていきたいと思います。

 『それから』の前半部に、何度か主人公代助が「仕事」についてあれこれと考える場面が出てきます。資産家の息子代助は、30才前で、大学を出た後定職もつかず、今で言うと完全に「パラサイト・シングル」になっています。

 こういった無能の文化人が、実は明治時代の文化の管理者であったというのは、確か丸谷才一も説いていたし(あれ? 司馬遼太郎だったかな?)、今までは何となく分かったつもりでいたのですが、今回読んでみて、ちょっと「違和感」を感じましたねー。
 漱石作品にはこのタイプの登場人物が結構多いです。

 この「違和感」は何なのでしょうか。「こいつやっぱり気楽なもんやで」という思いなんでしょうかねえ。そんな気もします。

 これは、僕が年を取ってきて現実的になっちゃって、想像力とかロマンティシズムとかがなくなりつつあるからでしょうか。うーん、ちょっと考えてしまいましたが、やはり全編を通して気になり続けました。

 さて作品後半、代助は、友人平岡の妻三千代に対して改めて自らの愛情を告白します。代助は三千代を、若かった頃友人平岡に譲るわけですが、これはいわば『こころ』の裏返しですね。

 しかしよく読んでいると、その若かった頃の二人はほとんど結婚まで後一歩のところにいたように書いてあるんですね。
 にもかかわらず、代助はあっさり三千代を平岡に譲ります。そしてその理由は、極めて曖昧なんですね。

 僕はそこに、なんて言うか、代助の心の中に、一般論として「結婚」に怯んだというだけじゃない、何かもっと現実的・即物的な三千代に対する「生臭い」ような嫌悪の感情、三千代に関して、密かにささくれるような出来事があったに違いないと思うんですが、どうでしょうか。

 観念論・一般論だけで、最愛の女性を、そう簡単に友人に譲る事ができるものでしょうか。
 つまり、代助は三千代に対して(それが一時的なものであったかどうかはともかく)「あの女のここが、おれは生理的に耐えられない」といった嫌悪感を持ったんじゃないかということです。
 これって、僕のゲスの勘ぐりでしょうか。

 この辺の曖昧な部分を指摘して、代助にホモセクシュアルを見るなんていう解釈もあったりしましたね。

 というわけで、今回の『それから』読後感は、「違和感」でした。
 ただ、この後『門』が書かれますね。
 そんなの当たり前じゃないかと思われるかも知れませんが、漱石は、当然『門』のテーマや展開について、すでに充分頭の中にあった上で『それから』を書いたんですよねぇ。
 『門』の存在を「前提」にしつつ『それから』を読むと、私の持った「違和感」はかなり薄れるような気がします。
 あの『門』の「暗さ」は、代助の「仕事」に対する、あるいは「三千代との結婚」に対する、一種の「気楽さ・浅はかさ」を償って(?)余りある圧倒的「暗さ」であります。

 ということで、次回は「暗さ」の総本山『門』です。
 うーん、暗い。

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Last updated  2009.07.13 06:00:45
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