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2009.07.16
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カテゴリ:大正期・白樺派

  『愛と死』『幸福者』武者小路実篤(新潮文庫)

  「恥の多い人生を送ってまいりました」

とは太宰治の殺し文句の一つでありますが、私も、あれこれ考えますれば、本当に恥の多い人生を送ってまいりましたし、現在も「堂々」進行中であります。

 ちょっと脇にそれますが(いつもそうなんですがー)、近年「コピーライターとしての太宰治」という視点が流行のような、そうじゃないような…。
 コピーライターという表現が相応しいのかどうかは、僕にはよく分かりませんが、しかし確かに「言葉の軽業師」という感じが太宰治には致しますね。
 実に心憎いまでの言葉の芸です。

 上記の表現もよく見ますれば、太宰を遡る600年ほども前に、吉田兼好がほとんど同じ事を言っています。

 「命長ければ恥多し」

 この人生上の普遍のテーマを、太宰は自ら固有の弱点と引き受けることで(引き受ける姿勢を見せることで)、逆に「普遍的」的シンパシーを獲得するっちゅう「荒技」ですね。
 兼好の表現がいかにも坊主のいいそうな「説教」調であるのに比べると、惚れ惚れするような「反射神経」の「芸」であります。

 えー、閑話休題。
 私に恥が多いのはこれからもずっと続くでしょうが、「恥」もさることながら、それに負けず劣らず、まみれていますのが、私の場合「偏見」であります。

 実はこの「偏見」について、告白をさせていただこうというのが、今回のテーマであります。

 はい。武者小路実篤という小説家に、私なんとなく偏見を持っていたんです。
 でもこれって僕だけなんでしょうか。
 国文出身のやつってきっと武者について偏見があるような気がするんですが、そんなことないでしょうかねー。

 その偏見の理由は、と言うと、ううーむ、実に返答に困ってしまいます。
 まー、まっとうな理由なんてないから偏見なのだと居直ってしまうのが、私にとっては都合がいい。
 でもあえて言いますと(はじめに謝っておきます。すみません。愚かなのは私です)、

 「なんか、武者ってバカっぽいよなー。」

です。うう。恥の多い人生を送っております。

 さて、まず、この私の偏見を大きく覆す本に出会ったというのが、今回の読書の発端であります。この本です。

  『白樺たちの大正』関川夏央(文春文庫)

 この本はなかなかの力作であります。
 文庫本で460ページほどですが、内容的にもかなり筆者入魂の一作といえるように感じました。

 内容は文藝評論ではありません。
 芸術集団「白樺派」の領主・武者小路実篤の、文学作品ならぬ「新しい村」運動を中心に据えながら、単なる文学史的記述に留まらず、大正時代の社会風俗全般を描ききろうとする試みであります。

 この論述方法は、関川夏央氏の自家薬籠の物ですが(この作家も僕は好きなんですねー)、何よりまずその量的側面において重量級であります。

 私はこの本を読んで、自らの不明を大いに恥じたのでありますが、以下、次回。

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Last updated  2009.07.16 06:26:26
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