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2009.08.06
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カテゴリ:昭和期・後半男性

  『アフターダーク』村上春樹(講談社)

 村上春樹氏の新作の売り上げが落ちませんね。
 『ノルウェイの森』に並ぶくらいのペースで売れているんですかね。あれはものすごく売れましたものね。なんでも四百万部くらい売れたそうですね。
 あの本は、僕もすぐに買いました。あれほど売れる前でありますが。

 確かその後、村上氏は、百万なんてレベルで本が売れるということの戸惑いをエッセイで書いていましたが、今回はどうお考えでしょうね。また聞いてみたいものです。

 さて、その話題の新作は、私はまだ読んでいません。
 かつては村上春樹の新作といったら、発行と同時くらいに買っていたものですが、いつくらいでしょうか、たぶん『ねじまき鳥~』あたりから、一定、いろんな書評なんかを見てから買っています。

 でも今回はそんな書評さえ、ほとんど読んでいません。
 評判いいんでしょうか? きっと、いいんでしょうね。

 僕が書評さえも読まなくなったきっかけは、ずばり『海辺のカフカ』です。
 あの時は、何種類かの書評を読んでみたんですが、要するに、書評子もよく分かっていないんだなと言うことだけが分かりました。
 どの書評も、あれこれ言いながら結局、戸惑っているとしか書いてなかったですね。

 「あ、これは、書評なんて読んでも仕方がないんだ」と、その時思いました。
 以降、村上氏の新作の書評は読まないようにしています。

 えー、結局これは、村上氏の作品が近年、一作ごとに、いわゆる普通の「理解」というレベルでいうと、どんどん難しくなっているということですかね。
 ただ、おもしろさについては、ちっとも減じていません。

 それはつまり、「わかる」という現象の捉え直しが、僕たちに要求されているということですね。
 それがスムーズにできさえすれば、村上氏の新作はどれも分かりやすく、そして面白い。

 というわけで、村上氏の新作は、そのうち読むとは思いますが、もう少し落ち着いてからにしようと考えています。

 そこで、旧作です。
 もう一つ、人気のなかった『アフターダーク』です。
 「自閉症小説」なんて言われたりもしましたね(うまいネーミングですね)。

 ついでに、この本の新刊時も、書評があまり見あたらなかったような記憶があります。
 やはり、誰も自信を持って批評できなかったんでしょうね。

 このたび読み終えて、その理由が少し分かったように思いました。
 一言で言うと、きわめて、シンプルに作られたお話になっていたからです。

 村上春樹の作品といえばイメージと隠喩の洪水、そして謎とほのめかしといった感じの作品が、ここしばらく続いていたような気がしますが、今回は、文体も含めて(なんだか同人雑誌の文章みたいです)きわめてシンプル、タイト、いや、無防備という感じに思いました。
 こんな、「世間知らず」のような展開でいいのだろうか、と。

 おそらくは、そんなおとぎ話のような作品に、たぶん(僕も含めて)少しとまどったというところじゃないでしょうか(あるいは、さらなる「深読み」を求めて、結局、見つけだせなかった)。

 ただ本作は、全体にちょっとキックが足りないんじゃないかという気がします。
 それは、新刊時のオビ文に「村上春樹作家デビュー25周年記念」なんていう、よくわかんない宣伝文句が書かれていることからも逆に(そしてオビ文の思わせぶりな本文引用からも)、何となく分かりますね。
 はっきり言って出版社も、内容については戸惑っていたんじゃないですかね。

 『カフカ』なんかに比べたら、遙かに読みやすい本にはなっていますが(もっとも村上春樹の小説は、どれもこれもきわめてリーダビリティが高く、まさに「ワンシッティング」(一息に)という感じであります。かつて蓮見重彦も『ねじまき鳥』について、そんなことを書いていた記憶があります)、全体にやや「貧相」な感じして、それで、少し「華」に欠ける気がしてしまいますね。

 清水良典氏の評論(『村上春樹はくせになる』朝日選書)に、村上春樹の作品群は、短編集と大長編とそして長めの中編が、ぐるぐるとローテーションしながら発表されていると書かれてありましたが、それによると、中編はちょっと「気が抜けている」らしいです。
 『国境の南、太陽の西』『スプートニクの恋人』そしてこの『アフターダーク』が、その範疇にはいるそうです。

 なるほどね。
 作品を次々と世に問うて行かねばならない、生きている小説家というのは、やはり大変ですよねー。

 では、今回はここまで。


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Last updated  2009.08.06 05:59:31
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