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カテゴリ:平成期・平成期作家
『少年H・上下』妹尾河童(新潮文庫) この小説を取り上げるについても(以前にも同種の迷いがありましたように)、私事ながら、少し迷いました。 この筆者は小説家ではありませんよね。 小説らしいものも、現在のところこの一作しか書いていらっしゃらないようですし、ちょっと迷うところでありました。 もう、10年以上前、だいぶ前になりますが、ベストセラーになった本です。 今回読んでみて、僕は、この本がベストセラーになった事自体に、とても「感心・感動」しました。 迷いつつも本作を取り上げたのは、その辺のあたりを、少し書いてみたいと思ったからであります。 私の読んだ新潮文庫は、活字が大きくて、沢山の漢字にふりがなが付けてあって、とても読みやすかったです。 本文に入る前に、「小さい人にも読んで貰いたくてこうした」と書かれてありましたが、読み終わってみて、その配慮にはとても好感を覚えました。 ところが、この本は上下巻で、合わせて970ページほどあります。 これはどうなんでしょうかね。 長すぎはしませんかね、あるいはそんなことないのでしょうか、僕にはよくわかりません。 ただ、ストーリーとして有機的・構造的に動き出すのは、明らかに後半になってからであります。 あたかも『源氏物語』が、ほぼ真ん中、「若菜」の巻以降になって初めて構造的に進んでいくようになり、前半はいわば、光源氏のラブ・アフェア・エピソードの積み重ねのようになっているのと同様であります。 では本書において、なぜ後半からストーリーが動き出すのかというと、それも明かですね。 「戦争」が始まるからであります。あるいはそのもう少し手前の時期、日本国中がとてもきな臭い匂いを発しはじめるからであります。 およそ国家というものが、一人の人間の生殺与奪権を持ち始めるのは、日本の場合は明治以降であるということを、私は以前司馬遼太郎の文章で読みました。 もちろんこれは、江戸時代までが「よい」社会であったなどという単純なものではなくて、世界史規模の歴史の「発達」の一段階と捉えるべきでありましょう。 (これは少し言葉を選びつつ書くのですが、「お国」などという観念的なもののために死ぬことを要求する社会は、歴史的に見ると極めて近年の「新参者」であります。) しかしそのような状況が、本書において、小説として、具体的・日常的にかつ丁寧に描かれているのを読むと、そこに「国家」とか「国体」とかいうものの、いかんともしがたい胡散臭い構造があぶり出されていることを感じずにはいられません。 司馬氏や先人の言を待つまでもなく、もとより国家とは、厳然として「利己的」な存在であります。 そしてそういったことを読者に自然に感じさせる本書は、実はなかなかによくできた本だと言うことができます。 もうすでに私の子供は成人してしまいましたので、現在どのような形になっているのかよく知らないのですが、私が子供の宿題を見ていた頃に、子供と一緒に読んだ小学校の国語の教科書には、かなり多くの反戦教材があったように覚えています。 そしてそのことに、私はわりと感心したのでありました。 さて、冒頭にも述べましたが、この本はベストセラーになりました。 そのことを考えますと、なかなか世間も棄てたものではないと思うのですが、奥付を見ると、平成9年刊行とあります。 その時からすでに12年。 混迷の度を年々濃くする世界情勢の中で、今でも日本の世相の中に、この「反権力性」ははたして残っているのでありましょうか。 少々戸惑い、そして不安とするところであります。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 /font> にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.09.10 06:25:42
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