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カテゴリ:大正期・大正期全般
『江戸川乱歩短篇集』千葉俊二篇(岩波文庫) こんな本を読んでいると、つくづく僕は何を求めていわゆる「純文学」というジャンルの小説を読んでいるのか、と考えてしまいますね。 いえ、僕なりの答えがまるでないわけではありません。 つまり、僕は結局のところ、人間とは何か、人生とは何か、生きるとは何かなどといった(このように言葉にしてみるといかにも大上段に構えているようで、とても「恥ずかしい」のですが)、一種、「倫理的」あるいは「宗教的」な概念を、小説に求めているような気がします。 (うーん、うまく書けていませんね。僕が小説に求めているものは、決してこれだけではありません。もしこれだけなら、小説なんていうまどろっこしいものを読まず、倫理・哲学の本とか、宗教書、さらには何かの宗教に強く「帰依」すればいいのですから。) それに、小説の場合には「面白さ」「美しさ」というものが、作品の価値判断の中に加わってきます。 いえ、もう少し厳密にいうと、「面白さ」と「美しさ」は、かなり違いますね。 「美しさ」の専売は、言語芸術の場合、「詩」がそれを専らしているような気がします。 散文芸術は、その「お下がり」をもらっているにすぎないように思います。 そのかわり「面白さ」の四番バッターは、まさしく「小説」ですね。このフィールドは間違いなく、小説のフランチャイズです。 そして、この「面白さ」のみに特化した小説があるとすると……、というのが、さて、今回の乱歩の諸作品であります。 乱歩の短篇集については、以前にも一度報告をしました。今回は二度目ですが、特にこの度取り上げた短篇集は、乱歩の全短篇からの選りすぐりという感じで、実に「偏差値」の高い短篇ばかりであります。 全部で十二編が入っていますが、そのうちの幾つかのタイトルを並べてみます。 『心理試験』・『屋根裏の散歩者』・『人間椅子』・『鏡地獄』・『押絵と旅する男』 こうして並べてみると、上記に「『面白さ』に特化した」と書きましたが、これらの作品群に書かれているのは、やはり「人間存在の多様性」であり、そしてこれらの小説は、「『人間図鑑』としての小説」に他ならないと、つくづく思います。 上記五作は、本短篇集の中でもベストだと思いますが、その中でも特に一つとなると、それは多くの人の評価も一致しているそうですが、やはり『押絵と旅する男』になるでしょう。 そして、この作品をベスト1に挙げる理由は、僕としては、次の二つの視点です。 (1)「妄想力」の奔流 (2)乱歩は切ない恋を描く (1)については、もはや多くを語る必要を認めません。屋根裏を散歩する……、椅子の中に潜む人間……、立体画である押絵になる夢……などなど、このように作品に語られると、誰もが、そういえば私も幼かった頃にそんなことを考えていたような気がする、と感じざるを得ない実に懐かしい思いばかりであります。 そして、実際にそれを一つの作品にし遂げてしまう乱歩の小説家的力量は、万感胸に迫るごとき讃美の念を込めて「妄想力」としかいいようがありません。 そして(2)の「切ない恋」ですが、これが実際に作品の表象に現れていようといまいと(かなり描かれていますが)、乱歩はいつも切ない恋心を描いているのだな、と考えるのがいかにもしっくりとするということに、この度僕は気がつきました。 「恋というものは、不思議なものでございますね。」とは、『押絵と旅する男』のなかのフレーズでありますが、どうでしょう。 「乱歩は切ない恋を描く」というのは、僕の勝手な思いこみでしょうか。 この二つが、一つに重なって、最も高密度な世界を作り上げているのが、『押絵と旅する男』だと僕は思います。 この作品は極めて完成度が高く、間然とするところを持ちません。 (『人間椅子』も、「妄想度」については双璧ですが、作品世界を作り上げていくディテールの書き込みの丁寧さで、一歩譲るように僕は思いました。) というわけで、今に至るも圧倒的なオリジナリティを誇る江戸川乱歩ですが、僕はやはりこの優れた「大衆小説」に、「普遍性を追求した人間研究の素晴らしい結実」を強く感じるのでありました。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 /font> にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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