【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

近代日本文学史メジャーのマイナー

近代日本文学史メジャーのマイナー

Calendar

Archives

Recent Posts

Freepage List

Category

Profile

analog純文

analog純文

全て | カテゴリ未分類 | 明治期・反自然漱石 | 大正期・白樺派 | 明治期・写実主義 | 昭和期・歴史小説 | 平成期・平成期作家 | 昭和期・後半男性 | 昭和期・一次戦後派 | 昭和期・三十年男性 | 昭和期・プロ文学 | 大正期・私小説 | 明治期・耽美主義 | 明治期・明治末期 | 昭和期・内向の世代 | 昭和期・昭和十年代 | 明治期・浪漫主義 | 昭和期・第三の新人 | 大正期・大正期全般 | 昭和期・新感覚派 | 昭和~・評論家 | 昭和期・新戯作派 | 昭和期・二次戦後派 | 昭和期・三十年女性 | 昭和期・後半女性 | 昭和期・中間小説 | 昭和期・新興芸術派 | 昭和期・新心理主義 | 明治期・自然主義 | 昭和期・転向文学 | 昭和期・他の芸術派 | 明治~・詩歌俳人 | 明治期・反自然鴎外 | 明治~・劇作家 | 大正期・新現実主義 | 明治期・開化過渡期 | 令和期・令和期作家
2009.12.31
XML
カテゴリ:昭和~・評論家

  『文章読本さん江』斉藤美奈子(筑摩書房)

 上記「文芸評論書」の読書報告の後半であります。

 筆者の斉藤美奈子氏の本は、私はさほど読んでいないながら、読んだ三冊についてはことごとく面白かったという感想を、前回に述べました。

 この度報告の上記本は、その三冊目の面白かった本であります。

 そういえば、確か出版されたての頃、小説家の高橋源一郎氏が本書を褒めていたと思い出しました。(高橋氏はわりと新しい作品に甘いという気もしますが、それでも高橋氏の評価は、現代の「権威者によるお墨付き」の一つでありますよね。)
 
 そしてこの度私も読んでみて、なるほどと感心もし、これはもはや堂々たる文芸評論ではないかと思うに至りました。

 実際なかなか良くできた本でしたが、内容を一言で言えば、多くの人が我こそはと名乗りを上げたがるようなジャンルには、必ずやそこに人間らしい姑息さと旨味があるものだということを、イキのいい分析で暴露した本といえましょうか。
 いかにもこの筆者らしい、同時に軽快さのあふれる本でもありました。

 さて筆者は、百鬼夜行・侃々諤々・喧々囂々たる文章読本の世界を解読するに当たって、そもそも「文章」とはなんぞやと言う、基本的すぎて、思いがけず誰も気づかなかった視点を持ち出してきます。

 ここでいう文章とはなんぞやというのは、文学的な視点や概念ではなく、何種類かある『文章読本』の作者が、あれこれ指示と教えをなすのは、そもそも何のために書かれる文章に対してなのか、という極めて基本的な問いかけです。

 それは、もちろんメモとか日記なんかはその中には入らないという、あたりまえだけれど、よく考えれば、そこからまたいろんな事が見えてくる設問の仕方であります。

 そして、「ちょっと気取って書け」「名文を読め」「文は人なり」(このキャッチフレーズ=殺し文句は丸谷才一)という、ほとんど権威になりかかっている「お教え」を手がかりに、さらに読み解いてゆきます。

 するとそこに見えるのは、思いがけない文章世界のヒエラルキー(階層性)なんですね。
 そして更にそこには、事大主義と差別意識(あの本多勝一や井上ひさしにしてからも!)が大きく横たわっているという事実に、いきなりたどり着いちゃうんですね。
 この辺の展開は、なかなかみごとなものであります。

 例えば、「名文を読め」の「名文」とは、実はことごとくがヒエラルキーの頂点に位置する小説家・文筆家の文章であり、「文は人なり」という魅力的な言い回しについても、少し以前の例ですが、「酒鬼薔薇少年」の犯行声明を例に挙げて、この言い回し=常套句が、いかに嘘っぱちの虚仮威しの精神主義であるかなど、ほとんど「定説」を木っ端みじんに打ち砕いてしまいます。
 いやー、実に痛快でありますね。

 中でも出色が、井上ひさしが「猪苗代湖ほども深く広い」と絶賛した、野口英世の母親・野口シカの手紙文についての個所であります。
 これは、確かに僕もかつて井上ひさしの『文章読本』を読んだ時に、大いに感心し、思わず「痺れた」個所でありました。
 
 しかし筆者は、この「絶賛」を、「珍獣を愛でるのと同じ発想」であり「差別の裏返し」であるという、「あっ」と驚く切り口で、すっぱりと切って捨ててしまいます。
 まさに、思わず息をのむような「圧巻」であります。

 こういった、言語感覚における「反射神経・運動神経」の良さは、『妊娠小説』以来一貫して読み取ることのできる、いかにもこの筆者らしい「気っぷの良さ」の持ち味であります。
 そしてこの本においても、それは隅々にまで十分発揮されていました。
 カタルシスを覚えるような、本当に心地よい読後感でありました。

 この本は、現代の「文章論=文芸評論」として、まさに必読だと思います。


 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓

 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村

/font>





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.12.31 09:04:24
コメント(2) | コメントを書く
[昭和~・評論家] カテゴリの最新記事


PR

Favorite Blog

森井勇佑「ルート29… New! シマクマ君さん

やっぱり読書 おい… ばあチャルさん

Comments

analog純文@ Re[1]:父親という苦悩(06/04)  七詩さん、コメントありがとうございま…
七詩@ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
analog純文@ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03)  おや、今猿人さん、ご無沙汰しています…
今猿人@ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03) この件は、私よく覚えておりますよ。何故…

© Rakuten Group, Inc.