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カテゴリ:大正期・大正期全般
『大阪の宿』水上滝太郎(岩波文庫) この筆者の名前は以前より知っていました。 少し前に元西武・セゾングループ社長の辻井喬の小説を読みましたが、そもそも辻井喬に興味を持ったのは、辻井氏がこの水上滝太郎と同タイプの作家だからです。 つまり、文学者であると同時に、第一級の経済人である方々であります。 現代では、小説を書きつつ、それ以外の仕事もなさっているという方は結構いらっしゃるようですが、その別の仕事の多くはやはり、一種の芸術や芸能といった関係であるように思います。 例えば、今一番に浮かんだのは、僕がわりと好きな現代作家の町田康氏。この方はロックシンガーですね。 尾辻克彦氏は、画家の赤瀬川原平氏ですね。この方の小説も僕は好きです。 その他にも様々いらっしゃいそうですが、「二足の草鞋」とはいうものの、どちらもやはりクリエィティブな方面の御職業ですね。 そのマルチな才能には、とてもうらやましさを感じますが、今回の読書報告の水上滝太郎とは、ちょっと感じが違います。 小説家で経済人。 これは僕の感覚では、小説家で別の芸術・芸能人という以上に、すごくすごくかっこいいですね。 水上滝太郎の最後の肩書きは、明治生命保険株式会社専務取締役であります。(ついでに、水上氏は、この役職での勤務中に脳溢血の発作で亡くなっています。) さてそのかっこいい先入観を持ちつつ、実は初めてこの筆者の小説を読みました。 明治の終わり頃に処女作を書き、主な活躍の中心が大正時代であった筆者の本は、現在では残念ながら、個人全集や文学全集以外では、「売れ筋外し」の岩波文庫に、この一冊があるだけであります。 作者自身がモデルであろうと思われる東京の会社員「三田」は、大阪支社勤務となり最初は下宿生活をしていましたが、下宿主人と喧嘩をして飛び出し、以降、旅館「酔月」の月極の長期滞在客となります。 そんな少し「ぼやぼや」した感じで話が始まります。 少し「ダル」目のお話は、その後進んでいってもなかなか目鼻立ちがはっきりせず、これといった事件も起きず、これは一体何なのかと思いながら読んでいましたら、昔こんな感じの小説を読んだことのあることに気が付きました。 谷崎潤一郎『細雪』 もちろん華やかさにおいては比べものになりませんが(かたや蒔岡シスターズ、こちらは場末の旅館の女中達)、主人公と、宿屋の女主人、三人の女中、うわばみ芸者、その他近隣の幾人かの若い女性達との交流が、大阪の猥雑な街を背景に描かれていくという構成は、やはり間違いなく『細雪』に重なると思われます。 各章の冒頭には、そんな猥雑な大阪の四季がさりげなく描かれます。こんな感じです。 お花見の計画も、懐中の乏しさにずるずるに延びて居るうちに、花は遠慮なく散つてしまつた。水の流も深くなつて、またたくひまに貸端艇が、中之島附近から土佐堀へかけ、又道頓堀のどぶ泥のやうな水面にも、無数に浮ぶ時節となつた。三田が酔月へ来てから、早くも一年になつたのである。 やはりこの小説は、一種の「年中絵巻」小説であると思われますが、こういった小説には、どんな意味あいがあるのだろうかと考えますに、うん、そうだと浮かんだのが、以前に読んだ、保坂和志の一連の小説であります。 保坂和志の小説も、極端に事件の起こらない小説でありますが、僕はこのタイプの小説を「お知り合いになる小説」と考えています。(あるいは「ご近所付き合い小説」。詳細は本ブログの保坂和志の項をご覧下さい。) しかし、だとすれば、このゆったりとしかしややぼんやりと進んでいく小説にも、これはこれでファンは付くと思われます。 いえ、実際、この話も連続テレビドラマのように、癖になる面白さが感じられました。 就中最終回、大団円の章は、東京へ転勤になる三田が大阪駅を離れていくシーンで終わりますが、読後感すっきり、まるで日本晴れの富士山のようで、とても、よかったです。 これが、最後の一文。 うす汚く曇つた空の下に、無秩序に無反省に無道徳に活動し発展しつつある大阪よ、さらばさらばといふ様に、煙突から煤煙を吐き出しながら、東へ東へと急走した。 どうです、呵々大笑せざるを得ないではありませんか。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 にほんブログ村 /font> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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