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カテゴリ:大正期・大正期全般
『幼年時代・あにいもうと』室生犀星(新潮文庫) ふーむ、と思って次々考えていったら、これはなかなかのメンバーの名が挙がったなと自分で驚きました。 何の話かと言いますと、「幼少年期、母親からの愛情を充分に受けられなかったと思われる作家達」であります。僕がざっと考えただけでもこれくらいの名で指折ることができました。 夏目漱石・芥川龍之介・志賀直哉・川端康成・太宰治・三島由紀夫 どうですか、このメンバーは。 数が多いと言うよりも、その「質」です。日本近代文学史上の各主義・流派の第一人者ばかり、まさに「文豪」の集まりではないですか。 漱石は、産まれてすぐに里子に。その後一時は実家に戻るものの、すぐまた里子に出されました。芥川は、母親の精神の病のために、母親の実家に引き取られます。「芥川」という名は、母親の実家の名字ですね。 志賀直哉と三島由紀夫は、お婆ちゃんにほとんど育てられたような幼年時代。 川端康成は、二歳で父、三歳で母、更に祖母、姉、祖父と失い続け、人生のかなり早い時期に天涯孤独になりました。 太宰も、旧家の兄弟の多い末っ子でほとんど親から相手にされず、子守りの「たけ」に育てられたことは名作『津軽』で有名な話。 そこに、今回取り上げました室生犀星ですが、この方も又複雑な幼年時代を送っております。 詳しく述べていると大変なのでやめますが、上記の「文豪」メンバーの幼年期に輪をかけて、とにかくほとんど実母に育てられることのなかった方です。 犀星の有名な詩である『小景異情』ですが、「その二」はこんなのですね。 ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの よしや うらぶれて異土の乞食となるとても 帰るところにあるまじや この表現は、黎明期の近代日本の国民にとって、故郷や人生に対する「公約数」的な感慨であったのかも知れませんが、犀星の場合はさらにこう続いていきます。 ひとり都のゆふぐれに ふるさとおもひ涙ぐむ そのこころもて 遠きみやこにかへらばや 遠きみやこにかへらばや 情景としては、一度「ふるさと」に戻ったものの、戻るべきではなかった、もう二度と戻るまいと思い、今から都会に向かうその寸前、という少しややこしげな状態です。 「ふるさと」そのものより、「ふるさと」に戻ってしまった事に対する強い後悔です。 これはかなり、屈折した歌いぶりですね。この屈折した重層性には、何かニヒリスティクな「孤独感」と「怨念」のようなものを感じます。「ふるさと」の地で、戻ってきたものの何か強烈な「不如意」があったのでしょうね。 さて今回取り上げた犀星の作品集(七つの短編小説が入っています)ですが、総題となっている二作が、他に比べて遙かに良かったと思いました。 『あにいもうと』は、終盤の、何というか「言葉の惜しみ方」がとても良いと思いました。 こんな話しは、ともすれば書き込みすぎて俗に流れるものですが、兄と妹の修羅場の後を、父親の赤銅色の肉体と労働の姿にすっと振り替えるあたり、とても「拡がり」の感じられる終わり方だと思いました。 そして『幼年時代』であります。 モデルとしての「犀川」畔の自然を背景に、養子に行った後、父は死に母は行方不明になった少年が生活をひどく荒ませながらも、義姉への愛情や、河で拾ってきた地蔵への信仰心などを育んでいく様子が、しっとりと描かれ、とても心打たれます。 しかしその静謐な描写の中に通奏低音のように流れている色調は、やはり「母の愛への強い飢餓感」でありましょう。 そしてふたたび、冒頭に挙げました「文豪」の件であります。 やはり、当人としては不幸な母を巡る「トラブル」が、「文豪」を生み出す土壌の一つとなっていると僕は思うのですが、それは安易な関連付けでありましょうか。 いかがでしょう。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 にほんブログ村 /font> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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