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2010.03.04
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カテゴリ:昭和期・後半男性

  『プレオー8の夜明け』古山高麗雄(講談社文庫)

 小説家の才能というものは、基本的に奇妙なものだとは常々思っています。
 それは僕が別に小説家を蔑視しているんじゃなくて、小説家的才能というものに、ほとんど「汎用性」がないことは、三島由紀夫も何かに書いていましたし、太宰治もそんなことを言っていたと思います。
 中島敦の『憑依』というなかなか面白い短編小説も、まー、それがテーマだといっていい作品だと思います。

 僕は何を言おうとしているかといいますと、えーっと、簡単に説明しますと以下の年表の内容です。これは、今回取り上げた文庫の巻末についていた、筆者自筆年表の一部です。

  昭和十八年 (23歳)・南方クアラルンプールに駐屯。
  昭和十九年 (24歳)・ビルマ駐屯。中国雲南省での作戦に参加。
  昭和二十年 (25歳)・ラオスにて俘虜収容所に転属。終戦。
  昭和二十一年(26歳)・俘虜収容所勤務のため戦犯容疑者になり、
              サイゴン中央刑務所に拘留。
  昭和二十二年(27歳)・禁固八ヶ月判決を受けるが未決通算により翌日釈放。
              11月復員。
    ………………
  昭和四十四年(49歳)・小説『墓地で』発表。
  昭和四十五年(50歳)・小説『白い田圃』、『プレオー8の夜明け』発表。
              『プレオー8の夜明け』にて芥川賞受賞。

 おわかりになりますよね。
 作家的才能とは、二十代中盤で経験したことを、二十年以上後の四十代終盤の年になって、現前に広がっているかのごとく、驚くほど瑞々しく書くことのできる才能であります。

 こんな才能は、普通の人にはあまりみられないし、それに普通の人には、そもそもあまり必要のないものですよね。たまに酒の席で、昔のことをやたらに詳しく覚えているヤツということで、周囲の人に、感心されるか顰蹙を買うかのどちらかくらいなものでしょう。

 さて、本書には、年表中に挙げた三つの短編小説が入っています。
 テーマは、一言でいうと「徹底的に反戦を描く」であります。

 ただ、例えばよく似た状況を書いた大岡昇平の『野火』『俘虜記』と、いかに内容、描き方が異なっているか、それは一種、驚くばかりであります。
 この違いは、筆者の資質の違いもありながら、やはり発表時期の問題でしょうね。題材を、二十年間寝かして、醗酵させた結果と考えるのが正しいと思います。

 筆者が、上記の「徹底的に反戦を描く」ための「武器」としたのは「ユーモアと性的なるもの」であります。
 本書には、戦場で、俘虜収容所で、実に頻繁にこの両者のイマジネーションが出てきます。
 考えてみれば、この両者は、人間が人間を殺害する限界的状況である「戦争」のアンチ・テーゼとして、いかにもふさわしいものでありますよね。

 私なら、もし、あの若夫婦のポンピエとミミを見ても、誰にも言わない。大事に、自分ひとりで暖める。あの女は、昼間よく縁側であぐらをかき、黒い、豊かな乳房をあらわに出して、子豚を二匹両腕に抱いて吸わせていた。赤ん坊だけでは乳が余るのだろう。夜はランプの灯を細くして、愛し合う。それは私たちにとって、魅惑的な世界でないはずはない、と思うのだ。(『白い田圃』)

 こういった「魅惑的」な「性的」な世界は、軍隊組織の中では、当然ながら居場所を持ちません。その居場所のない世界を求めて反戦のための消極的抵抗を行うというのが、本小説のテーマ(特に前二作)ではありますが、それはやはり、最終的には挫折せざるをえません。
 しかしそうであるほどに、そこに至る過程を描いた瑞々しい筆致と、極めて「知的」な抵抗のあり方が、本小説の最も魅力的な、優れた部分になっていると思います。

 そんな意味で言えば、作品舞台が終戦後の戦犯収容所である『プレオー8(ユイット)の夜明け』は、最もユーモラスな筆致と性的なエピソードに溢れながらも、既に非人間的軍隊組織が無くなって「抵抗」の対象ではないからか、ややそれらのものに食傷気味な感じがするようです。
 もっとも、この感想は、僕の極私的な好みなのかも知れませんが。


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Last updated  2010.03.04 06:38:23
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analog純文@ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03)  おや、今猿人さん、ご無沙汰しています…
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