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カテゴリ:大正期・白樺派
『青銅の基督』長与善郎(新潮文庫) 白樺派の作家です。 短いお話しで、新潮文庫で125ページでした。しかし、短いわりにストーリーとしてはアプローチが長く、最後の20ページほどで、大きく動いていくというお話しでした。 こういうテンポと構成は、いかにも戯曲的ですね。この筆者は『項羽と劉邦』なんて戯曲も書いていらっしゃいます。 しかし、こんな言い方は何と言いますか、まー、失礼といえば失礼なんですが、文章は余り上手だという感じは受けませんでした。 白樺派の中に、そんな方が他にもいそうな感じがしますが(かぼちゃとかジャガイモが好きそうな方です)、要するに、「拙い」という感じのする文章ですね。(でもそれは、作者の「戦略」なのかも知れませんが。) それは、文章だけではありません。こういうのも「戦略」なんでしょうか、例えば、時代は、徳川第四代将軍の頃です。タイトルからも分かるように「切支丹物」なんですね。「踏み絵」に関わるエピソードのお話しなんですね。 だから、宗教論議なんかも文中に出て来るんですが、これが全く時代を無視した議論なんですね。例えばこんなの。 「自由な宇宙的精神がすなおに共鳴してうけ入れ、愛する事の出来るものでなくては生命がないと僕は思うんです。僕も一時は親兄弟に叛いて教義を捨てようかと本当に煩悶した者です。僕はこの宗門に深い疑いと反感を持っていました。殊に肉体に対しての解釈に於て。」 「貴方は宇宙の精神的中心、--何といったらいいか、--つまりそれがちゃんと儼存している事で宇宙の大体の平衡と秩序が保たれて、無事に進んで行き、それが少しでも傾ぐと世界の運命が狂い出すと云ったような無形の核心を貴方が感じられないなんて、人類や個人は無論の事、万物の幸福と安穏とが一つにそれに係っており、それに従えば平安を得、離叛すれば絶望に陥る一つの宇宙的意識--良心がある事を。」 取り上げていくと切りがないんですが、これが江戸時代初期の南蛮鋳物師と一町人の会話でしょうか。これは完全に本作発表時の大正十二年の「白樺派青年」の議論じゃないですか。 もちろん、そんな事は分かっていながら書いているのだ、という理解は出来ないわけではありません。 しかし更に言えば、上記の引用箇所のすぐ後に、切支丹の虐殺シーンがあるんですが、火あぶりとか、鋸引きの場面が書かれています。 宗教論議は現代理論で、切支丹の弾圧はその時代の「リアリズム」であるというのはどうなんでしょう、こういうのを、「ご都合主義」って言うんじゃないんでしょうか。 宗教論議以外にも、こんな場面があって、僕はここはひょっとしたら、「楽屋おち」の爆笑をねらった場面なのかと一瞬戸惑ったのですが、主人公の若い南蛮鋳物師が、遊女に送った手紙であります。 新年お目出とう。お変わりはないか。俺が久しく君の処に御無沙汰しているのは君が想像するように、君の揶揄いに憤慨しての事じゃない。たしかに俺は「坊ちゃん」だが、巨人の坊ちゃんだ。だからあんな事など気にしてはいない。(後略) こんな調子でまだまだ続くんですが、江戸時代の遊女と職人は、いつの間にこんなに自由に言文一致の文章が操れるようになったんでしょうか。 明治初期の、二葉亭四迷などの言文一致運動のあの苦労は何だったんでしょうか、とはちょっと意地悪な冗談ですが、うーん、困りましたね。 まー、そんな小説、そんな世界の話なんだからってのは、究極の小説擁護理論ではありますが、僕としてはやはり、少しシラケてしまいました。 というふうに、いきなり「悪口」から入ってしまったんですが(そしてこの後も、僕の本作品への不審点がさらに挙がっていくんですが)、にもかかわらず、このちょっと「とっぽい」感じで進んでいくお話しは、決してそんなに感じの悪いものではありませんでした。 しかしこの小説のよく分からない点は、(あくまで、無知な僕にとっての、ということではありますが)更に指摘されていきます。 以下、次回に。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 にほんブログ村 /font> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.04.03 01:31:33
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