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2010.05.18
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カテゴリ:大正期・白樺派

  『カインの末裔・クララの出家』有島武郎(岩波文庫)

 先日久しぶりにビートルズの『サージェントペパーズロンリーハーツクラブバンド』(カタカナで書くととても長いですね)のCDを聴きました。
 久しぶりに聴くととってもいいですね。
 そしてついでに、ネットであれこれ探していたら、いろんな画像が溢れていることを改めて知りました。

 何の曲を中心に探していたか、そしてなぜこんな話題を書いているかと言いますと、冒頭の二つの短編小説のうちの最初に読んだ方、『クララの出家』に触発されたんですね。

 「あ、これは、ビートルズの『She's Leaving Home』だな」と。

 これもネットで拾ってきたんですが、こんな歌詞ですね。

  Wednesday morning at five o'clock as the day begins
  Silently closing her bedroom door
  Leaving the note that she hoped would say more
  She goes downstairs to the kitchen
  Clutching her handkerchief
  Quietly turning the backdoor key
  Stepping outside she is free


  She (We gave her most of our lives)
  Is leaving (Sacrificed most of our lives)
  Home (We gave her everything money could buy)
  She's leaving home after living alone (Bye, bye)
  For so many years


 同様にネットでこの曲に関するコメントを見ていたら、いろんな事が書かれてありました。
 例えばレナード・バーンスタインが、この曲はシューベルトのどの歌曲よりも美しいと言ったとか、この曲の元になっている家出少女のエピソードは、ポールが新聞紙から見つけたとか、なかなか興味深いお話があれこれあって面白かったです。

 というイメージを抱きつつ、そして頭の中にはビートルズの曲を流しつつ、僕はこの短編を読んでいったんですが、途中からもう一つ、別の物をまた思いつきました。

 「あ、これは、三島由紀夫の『憂国』だな」と。

 僕はこの有島と三島の二作品に、単純に考えて二つの共通点があると感じました。

 (1)完璧に一つのエピソードのみで作品を作り上げていること。
 (2)主人公の行動の裏にはかなり官能的なものがあるということ。

 『憂国』は(背後の設定は幾つかありますが)、単純に切腹をするというだけの話です。
 そしてこの作品内の血に溢れた描写には、とても強い官能性があります。
 (これは後に知ったのですが、そもそも「切腹マニア」なる方々も世間にはいらっしゃって、切腹に関する事柄で性的興奮を覚えるという、なかなかストライク・ゾーンのシビアな嗜好の方々ですね。)

 一方『クララの出家』も、タイトル通り、「出家する」というだけの話です。
 そしてこの中にある、彼女の持つ宗教に関するイメージには、やはり強い官能性があります。

 そして僕が面白いと思うのは、このどちらもの作者が、その官能性に対して「確信犯」であることですね。
 しかし三島由紀夫はともかく(彼ならいかにもやりかねませんよね)、有島武郎が出家しようとする少女の内面に強い官能性を描くというのは、もちろん「リアリズム」(あの『或る女』を描いた恐るべきリアリズム!)としてはわからないわけではありませんが、彼自身がキリスト教信者であることを考えると、少し「背徳的」な感じがあるような気がします。

 もう一作の『カインの末裔』においては、あれほど野卑と粗暴の塊のような主人公を造型しながらも、「背徳的」なものはほぼ感じられないという、一種不思議な純粋性を描いているというのに……。
 なかなか面白いものですね。

 さて本短篇集には、そんな見事にイメージの異なる二作品が収録されています。
 最後に、この二作品に作り上げられたイメージの遙かな隔たりを思うと、僕は筆者の小説家としての懐の深さに、改めて大いに感心致す次第でありました。


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Last updated  2010.05.18 06:33:57
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