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カテゴリ:明治期・開化過渡期
『かくれんぼ』斉藤緑雨(岩波文庫) そもそも日本文学史についての本を読むのが結構好きなので、拙ブログの「副読本」になっている高校国語「日本文学史」教科書(古書大量販売店で105円也)を、なんということなくぼーーっと見ていたりします。 以前にも触れたことがありますが、その「日本文学史」のうち明治以降の近代文学に絞っての話ですが、割とよく読んでいる部分とそうじゃない部分とがまばらになってあります。 そんなあまり読めていない部分=時代のひとつ、明治初期・文明開化頃の作家の一人が、今回報告の斉藤緑雨であります。 少し前にこんな本を読みました。 『慶応三年生まれの七人の旋毛曲り』坪内祐三 なかなか面白そうな本だと、初めは勇んで読んでいたのですが、読後の感触としては、どうも「尻すぼみ」であったような印象が強いのですが、それはさておき、坪内祐三氏の着眼の鋭いところは、この慶応三年生まれのメンバーの何と「旋毛曲がり」な独創的な面々であることかという発見ですね。こんなメンバーです。 夏目漱石・宮武外骨・南方熊楠・幸田露伴・正岡子規・尾崎紅葉・斉藤緑雨 まったく、錚々たるメンバーですが、これは時代が人物を生むという現象、例えば幕末にいきなりわっと傑出した人物が沢山現れた、というのと一緒ですね。 その中で、特に何が言いたいのか絞り込んでいきますと(そろそろ絞り込まねば纏まりそうもありません)、一番に注目するのは緑雨と漱石が同じ年ということであります。 さらに、僕がうーんと唸ったのは、この事実の発見でした。 1904年(明治37年) 緑雨、死去。36歳 1905年(明治38年) 漱石、『吾輩は猫である』発表。 これはどういったことを語っているんですかね。 現在緑雨は、一般的にはほぼ「無名」と言っていいと思いますが、もしも漱石にも、緑雨と同じだけの長さの人生しかなかったならば、彼も一文学研究者としてと、一部の人には知られつつあった新進の俳人という、やはり現在となればほぼ「無名」の人物でしかなかったということでしょうかね。 さて今回報告する短編集には三つの作品が収録されていますが、そのうち二作品は未完です。 完結している『かくれんぼ』という作品についても、今となっては歴史的な価値以外のものがあるとは思えません。 近代小説が人間を描くものであるとするならば、この作品は人間を描く以前の段階で作品を展開させ、そして終わらせています。 タイトルは『かくれんぼ』ですが、僕はまるで「双六」のような小説と読みました。 純情だった青年が、郭遊び・女遊びのあげく「色悪」に成り果てるまでを、八人の女性との関係を絡めて描いていますが、その描き方が、まさに「双六」のようです。 主人公自身の内面、女性との人間関係、共に深まりというものを持たず、サイコロの目によってコマを進めていき「あがり」に至る双六と、まるでそっくりでした。 やや長い『門三味線』という作品も、樋口一葉の『たけくらべ』と瓜二つの設定を取りながら(発表年も同じ明治二十八年)、未完であるという点を差し引いても、残念ながら『たけくらべ』とは較べるべくもありません。(少年少女を主人公にした純朴さや情緒は持ちながらも。) これは結局の所、例えば文章力や構成力の差などということでは、たぶんないんでしょうね。 なんというか、もっと大きな、「時代の把握力」とでもいうものの差のように思います。 もっとも、有名なアフォリズム、「按ずるに筆は一本也、箸は二本也。衆寡敵せずと知るべし。」などと述べた緑雨にとって、そんな時代のヤスリの中を生き延びる才能と、それを持つ者の人生や幸福との間にまるで相関などないことは、十分承知であったことと思われますが…。 緑雨36歳、「僕本月本日を以て目出度死去致候間此段広告仕候也」という人を喰った死亡広告を自らで書き、東京本所横網町の自宅で病死したということであります。 もって瞑すべし、なのでしょうか……。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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