|
全て
| カテゴリ未分類
| 明治期・反自然漱石
| 大正期・白樺派
| 明治期・写実主義
| 昭和期・歴史小説
| 平成期・平成期作家
| 昭和期・後半男性
| 昭和期・一次戦後派
| 昭和期・三十年男性
| 昭和期・プロ文学
| 大正期・私小説
| 明治期・耽美主義
| 明治期・明治末期
| 昭和期・内向の世代
| 昭和期・昭和十年代
| 明治期・浪漫主義
| 昭和期・第三の新人
| 大正期・大正期全般
| 昭和期・新感覚派
| 昭和~・評論家
| 昭和期・新戯作派
| 昭和期・二次戦後派
| 昭和期・三十年女性
| 昭和期・後半女性
| 昭和期・中間小説
| 昭和期・新興芸術派
| 昭和期・新心理主義
| 明治期・自然主義
| 昭和期・転向文学
| 昭和期・他の芸術派
| 明治~・詩歌俳人
| 明治期・反自然鴎外
| 明治~・劇作家
| 大正期・新現実主義
| 明治期・開化過渡期
| 令和期・令和期作家
カテゴリ:昭和期・後半男性
『ららら科学の子』矢作俊彦(文春文庫) これは、私にとってはひさびさの無条件のいい小説でした。 とってもおもしろくって、すごく感心しました。それはたぶん、作品に向き合う作者の姿勢のゆえでしょうか、東京の暗部を描いて「裂帛の気迫」が感じられました。 2004年の三島賞受賞作品であります。 そもそもこの作家については、ハードボイルド小説を書いている方と言う程度の理解しか、私にはなかったんですね。 それがいつ頃でしたか、漫画家の大友克洋(あの『アキラ』を書いた天才漫画家)と組んで書かれた『気分はもう戦争』と言う作品を読みました。 でもその時は、矢作俊彦の原作というよりは、圧倒的な大友克洋の画力に魅力を感じていただけでした。ストーリーについては、失礼ながら少し中途半端な感じがしておりました。 その後誰かの文章で、この筆者のある小説が「奇書的絶賛」を受けていたのを読み、ただその小説はまだ文庫本じゃなかったこともあって(今は文庫になっているんでしょうかね)、図書館で借りて読みました。この本です。 『あ・じゃ・ぱん』(上下)矢作俊彦(新潮社) 上下2冊で1000ページを超える長編小説です。いかにも、ちょっとしんどそうですね。しかし読んでみました。 はっきりいって、やはり少ししんどかったです。 どーも、この手の本は、私はあまり合わないのだろうかとも考えてしまいました。 いろんなパロディの集合体のような小説ですが、ベースになっているのはレイモンド・チャンドラーの私立探偵フィリップ・マーロウのシリーズかなと思います。 『プレイ・バック』とか『ザ・ロング・グッバイ』とかのあのシリーズで、私もかつて一時期まとめて読んだことがありました。もうほとんど記憶に残ってないのですが、そんなにつらかった読書という印象はありませんでした。(まー、当たり前で、もしもあったらまとめて読んでいません。) とにかく文章はハード・ボイルドです。心情・心理描写がほとんどありません。 ストーリーは、太平洋戦争終了間際、日本の国が北からはソ連、南からはアメリカと攻め込まれ、そのまままっぷたつに東西が占領されて、フォッサ・マグナあたりに壁が立てられ、かつての東西ドイツのように、また朝鮮半島のように、二つの国体の違う国になってしまうという話です。 これは優れた「スパイ小説」(主人公は黒人のジャーナリストですが)だと思います。 この手の小説は、例えば沼正三の『家畜人ヤプー』のように、いかに国家を、社会を、文化を完璧に作り上げるかという、一種の全体小説であります。想像力の極北として、どこまでリアリティを保ちながら現実からテイク・オフできるかというのが眼目だと思いました。 そんな風に読んでいくと、とてもいいできの小説だと思うんですがねー。 しかしなぜか私には、上述の如くどうも文体の段階で十分に入り込むことができないで終わってしまいました。 あるいは、再読すれば、ずっと面白く読めるのかも知れませんが、うーむ、1000ページの再読は、ちとつらい。 と、いう気持ちが私の中で、なんとなく表れては消えしていたんですね。 で、この度そんな心の引っ掛かりもあって、冒頭の小説を読んでみました。 で、とっても面白かったです。 読み終えて、どこが面白かったのか、振り返ってみました。 以下に、この小説のいいところを列挙してみますね。 (1)70年安保前夜、殺人未遂罪で指名手配されかかった主人公が、中国に密出国し、30年を過ぎて帰ってくるという設定が巧妙。70年の時代の雰囲気と、20世紀末の行方知れずに肥大化しながら不気味に病んでいる東京という都市の雰囲気が対照的にとても見事に描かれています。 (2)作者が真っ向から、「国家」という物に対して取り組もうとしている姿勢が圧倒的です。これは明らかに前作『あ・じゃ・ぱん』の延長線上にあると思われますが、近年、ミニマム、トリビアルなものへの嗜好が目立つ文学界では、まことに快作といっていいと思います。 といったところですかね。ただ、気になる点もまるでないわけではありません。今度は少し気になるところを考えてみますね。 (1)後半へのストーリー上のテコとして、「顧客つき携帯電話」というものがポイントとなっているのですが、その取り扱いについて、ややリアリティに欠けるかと思われました。 (2)前作『あ・じゃ・ぱん』と違って、主人公は見事なまでにアンチ・ヒーローとなっており、そこに一種の目新しさがあると思える一方、そのような主人公に行動を起こさせる動機に「アイデンティティー探し」を設定していますが、これだけで乗り切ってしまうにはやや長丁場過ぎるかな、と。だから終盤なかばあたりの描写・説明が、やや繰り返しの上滑りになっている様な気もしました。 と考えてみましたが、でも総体としては、この小説はとっても上々だと思いました。 いやー、ひさしぶりに気持ちよかったですね。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.11.24 06:39:34
コメント(0) | コメントを書く
[昭和期・後半男性] カテゴリの最新記事
|
|