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近代日本文学史メジャーのマイナー

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2011.02.26
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  『陰獣』江戸川乱歩(春陽文庫)

 以前にも一度、本ブログでも触れたことのある文庫本ですが、この本。

  『文学全集を立ちあげる』丸谷才一・鹿島茂・三浦雅士(文春文庫)

 奥付を見ますと、2010年2月発行となっています。去年発行の比較的新しい本です。
 架空の文学全集を作ると言うことで、そこにどの作家を収録するべきかについて、三人の筆者達が侃々諤々の鼎談をするという本です。
 これが、結構おもしろいんですね。

 例えば、芥川龍之介の巻は本当に必要か、なんて事まで話し合っています。
 普通の近代日本文学史的常識で考えると、芥川なんて入って当然の作家についても、そんなところから話し合っているんですね。
 ちょっとおもしろいので、その部分を抜き出してみます。

 三浦 僕は極端に言うなら、中島敦入れるなら、芥川はいらないと思う。
 鹿島 えっ。それはできないでしょう。
 三浦 じゃあ、一巻じゃなくて、二分の一巻。
    たとえば佐藤春夫と抱き合わせ。
 丸谷 僕もそんなもんだと思うな。


 と、こんな感じです。
 こんな話のどこがおもしろいかというと、どの作家の作品をどのくらいの分量で取り上げるかということは、つまりその作家・作品の「評価付け」をすることになるからです。
 この本のテーマでいうと、「まったく新しい文学観・いま読んで面白いもの」という大原則で、歴史上のあらゆる作家を縦横無尽・言ったもん勝ちにぶった切って再評価するってのが、おもしろいんですね。

 で、僕はこの本を読む前に、密かに二人の作家の再評価について、果たしてどんなものになるかと興味を持っていました。
 そのひとりは、山田風太郎であります。

 本ブログでも、取り上げたのは一回だけですが、彼に触れたり彼の作品の部分を取り上げたのは再三でありますし、何よりも私が大好きな作家なんですね。
 そこで注意して読んでいたのですが、うーん、評価、余り高くありません。
 ほとんど触れられていません。こんな感じで少しだけ。

 鹿島 僕は山田風太郎と司馬遼太郎を比較して、『警視庁草紙』のほうが上だ!
    ということを密かに言いたかったんだけど。
 (略)
 丸谷 風太郎は、最初からこれは嘘っぱちですよ、というので、ケツを
    まくってやっているでしょう。だから、その嘘っぱちな世界に同
    調してしまえば面白いわけね。それが同調できないときには、別
    にどうってことないんだね。


 そしてもう一人の作家が、江戸川乱歩であります。
 ところがこちらは、結構高い評価です。
 乱歩を取り上げるかどうかなんて話は一切なしです。収録が前提でこんな感じで話し合っています。

 丸谷 江戸川乱歩。これを一巻にするか二分の一巻にするか。
 三浦 一巻は無理。三分の一か四分の一。
 鹿島 僕は、乱歩はもうちょっと再評価していいと思うよ。確かに小説
    としての出来ははなはだ悪いよ。だけど、それとは別の次元で、
    江戸川乱歩の評価は一巻入れてもいいような気がする。『一寸法師』
    とか、『芋虫』とか、エログロ系のへんてこりんな作品があるで
    しょう。その変ちくりんぶり、つまり「変態」というものをつく
    り出したことは評価したい。それに、後の推理小説に与えた影響
    を考えると、入れないわけにはいかないでしょう。


 とまぁ、こんな評価で、この後も谷崎潤一郎と比較しながら、三人はもうしばらく話し合っています。(天下の谷崎との比較!)さらにその後も、安部公房との比較(!)でまたちらっと名前が出てきたりもしています。

 さて、冒頭の作品の読書報告ですが、私がこの小説(『陰獣』)を初めて読んだのは、今でもはっきり覚えています。高校一年生の時でした。
 クラスメイトに推理小説ファンのK本君がいて、彼が貸してくれたのです。
 しかしなぜこの小説が選ばれたのか迄は忘れてしまいました。なぜ乱歩で、なぜ『陰獣』だったんでしょうね。
 とにかく、私の読後感としては、すっごく気持ちの悪い話だったというのがずっと(それこそ今回再読するまで)残っていました。

 ところが今回読んでみて、はて、あの頃の私はどこを気持ち悪いと感じていたのか、まるで見当が付きません。
 この小説は、きわめて「乱歩的常識」に従った、いかにも「乱歩的本道」の小説ではありませんか。
 うーん、きっとあの頃の私は「ウブな紅顔の(美)少年」だったんでしょーねー。

 ということで、この短編集中には(『陰獣』が全体の四分の三くらいの長さで、後は三つの短編小説が入っています)、鹿島茂が発言した『一寸法師』も「変態」性欲(サディズム・マゾヒズム)も入っています。

 私としては、『芋虫』や『人間椅子』や『押絵と旅する男』などに比べると、「変ちくりんぶり」がすこし物足りない感じもしますが、十分「エログロ系のへんてこりんな」乱歩的「健康優良」小説であります。
 とても面白かったです。


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Last updated  2011.02.26 06:53:14
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