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カテゴリ:昭和期・後半男性
『羊をめぐる冒険』村上春樹(講談社) 村上春樹の初期作品「鼠三部作」の3作目であります。 このあと『ダンス・ダンス・ダンス』という作品があり、その「後書き」に筆者が、主人公の「僕」は基本的にこの「鼠三部作」の「僕」と同じであると書いていますから、「四部作」と考えてももちろんいいんでしょうが、あまりそうは言われません。 それは、作品の中での「鼠」の重要度が、前3作と後1作とで違うからでしょうね。 一方、本作の「耳の彼女」は、次の『ダンス…』に直接繋がっており、ストーリーを展開していく大切なキー・パーソンにはなっていますが(しかしその「彼女=キキ」についても作品内での存在感は全然違っています。何より「彼女」の魅力が全く違います)、そもそも「鼠三部作」の全編に通奏低音のように流れていた「直子」の話が、『ダンス…』にはほぼありません。(一般的な「喪失感」のひとつとして位の重みですかね。) 今回本作を(幾度目でしょうか)読み直して、私は、長い間ずっと本作について変な思いこみを持っていたことに気が付きました。 どんな思いこみかと言いますと、そもそも村上作品について、私はデビュー作よりとても大好きで、特にこの三部作は何度も読み直しをしたのですが、しかし何時までも初期作品ばかり読んでもいられず(次々と新作が発表され、その意味では村上春樹は極めて勤勉な小説家でいらっしゃいます)、さすがのフェイヴァレットな「鼠三部作」も、考えればかなり長い間読んでいませんでした。 この度、久しぶりに三作まとめてじっくり読み直してみましたが、それまで私は、この三作には、「自殺した彼女=直子」に対する激しい後悔と喪失感が、具体的な描写やエピソードを伴って全編に溢れていると、そう思いこんでいたんですね。 ところが、違っていました。 「直子」に対する思いは、『風の歌を聴け』にはさすがにほぼ全編に亘って描かれていますが、二作目の『ピンボール』以降には(『ピンボール』で初めて「直子」という固有名詞が出てきたのに)「直子」話は全面展開していません。 (いえ、これは間違っていますかね。ピンボールとは「直子」であると読むと、「直子」話は全面展開しています。) 落ち着いてよく思い出せば分かることだったんですが、「直子」話が(設定を変えながら)全面展開するのは、実は『ノルウェイの森』だったんですよねー。 村上春樹はごくおおざっぱな言い方をすれば、現時点での最新作『1Q84』に至るまで、「純愛系」(というより「失恋・喪失系」)と「冒険系」の、二系統の小説群を次々と紡ぎ出していらっしゃるのであります。 さて、『羊』であります。 発行からすでに三十年が過ぎ、『1Q84』に至るまでの主立った作品を一応読み、そして改めて『羊』を読み直すと、本当にいろんな事が頭に浮かぶのですが、そのひとつとして私は、しみじみこんな感想を持ちました。 「ちょうどこの『羊』の終盤からなんだよねー。三島由紀夫が言うところの『炭取り』が廻ってしまうのは。」 「炭取り」というのは、少し有名な話であります。(いえ昔はわりと有名な話だったんですが、今では「なんだそれ」って話になっちゃっているんでしょうか。) 三島由紀夫が、絶筆のひとつである『小説とは何か』という文学的随想の中で語った話で、柳田国男の『遠野物語』のひとつの話を取り上げて、「ここに小説がある」といったというエピソードです。 大雑派に(かつ私のバイアスをかけて)説明しますと、ある家のお祖母さんが亡くなり、その通夜の席に彼女の亡霊が現れるという話です。 参列していた何人かも亡霊の出現には気が付くのですが、三島が注目したのは、亡霊が部屋の中を移動していく時に、囲炉裏のそばに置いてあった「炭取り」に着物の裾が触れて、その丸い炭取りがくるくると廻るという描写、その部分であります。 「ここに小説があった」と、三島は言うわけです。 ……うーん、賢い人というのは、言っていることがよく分かりませんねー。困ったモンです。(別に困りませんか。) 私のように、頭の作りが遙かに雑にできているモンにも分かるように、噛んで含めて説明して欲しいのですがー。 しかし普段はそんなことには知らん顔の三島由紀夫が、この件については比較的丁寧に説明をしてくれています。 珍しいことです。(自殺の年の随筆で、この世へのいろんなお土産のひとつだったのかも知れませんね。) こんな説明なんですが、……えーっと、次回に続きます。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.07.16 08:19:50
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