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2011.11.16
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カテゴリ:昭和期・後半

  『不安の周辺』辻井喬(新潮文庫)

 この作家を読むたびに(といっても、そんなに読んだことはないのですか)いつも考えるのですが、第一級の企業人と文学者との関係であります。

 企業人で文学者というのは近代日本文学史で探す限りではほとんどいないですね。
 以前に本ブログでも触れたことのある水上滝太郎くらいではないでしょうか。この人は、明治生命保険株式会社専務取締役でありました。

 ついでの話ながら、医者は、結構いますよね。
 森鴎外を初めとして、木下杢太郎や加賀乙彦や北杜夫や安部公房など(ただし加賀乙彦・北杜夫は程なく文筆に専念しましたし、安部公房はそもそも医者にならないという条件で医学部を卒業したと聞きますが)、まー、その他にも多分数多くいらっしゃるんじゃないでしょうか。
 でも、医者というのは、基本的に一匹狼的な側面があると思いません?
 そんな側面は、やはり文学者に相通じるように思います。

 ただ、鴎外はやはり別格でしょうねー。でも今考えれば、それも時代の差が、現在と比較するとかなりあるような気がします。

 では、政治家はどうでしょうか。これも過去に一度書きましたが、まーやはり近代文学史ということで言えば石原慎太郎は外せませんね。
 あと、宮本顕治というのはどうなんでしょうね。
 しかし、この方とか、田中康夫なんて方の場合は、文学者的部分は段々無くなっていったんではないですかね。
 村上龍が『13歳のハローワーク』という本の中でこんな風に書いています。

 医者から作家になった人、教師から作家になった人、新聞記者から作家になった人、(中略)ギャンブラーから作家になった人、風俗嬢から作家になった人など、「作家への道」は作家の数だけバラエティがあるが、作家から政治家になった人がわずかにいるだけで、その逆はほとんどない。(中略)それは、作家が「一度なったらやめられないおいしい仕事」だからではなくて、ほかに転身できない「最後の仕事」だからだ。

 そういえば村上龍も一時期映画監督をしたりしていましたが、やはり作家に戻っていますよね。

 ともあれ、辻井喬の事を考えると、ついそんなことを考えつつ、しかも、例えば水上滝太郎の「明治生命保険株式会社専務取締役」は確かに凄いとは思いますが、辻井喬=堤清二の企業人としての実績は飛び抜けて凄くありませんか。

 そんな方が、企業人が主人公の小説を書いています。
 これはやはりその独特の視点には納得せずにはいられないものがありますよね。例えば、
 
 たとえ倒産の通知を見ても、決してその会社に働いていた人々の困惑や経営者の懊悩、その家族が持ったであろう暗い夕餉の模様などを考えたりはしません。情緒の世界にかかずらっていたら事務処理が遅れてしまいますから。これは意志の強さと慣れ、それに経営に対する責任感があればできるのです。このような私の態度に、豪放磊落な経営者であったあなたは全面的に同意されるに違いないと思います。

 しかし、誰だって自分の素直な気持とは別のところで仕事しているのだから、あまり生真面目に生活と職業の関係などを考えてはいけない。そんなふうでは競争相手に敗けてしまう。企業の勝敗は、経営者の感覚の切れ味や鮮度ではなく、精神的耐久力なのだと、私は不安を押し殺すようにして頑張ってきたのです。

「軽く付合うぶんには刺激になるがね、考え方の基本が違うんだから何処かで必ず衝突する。まあ、深入りしなければプラスになる。芸人、政治家、女、みんなそうだ。」


 挙げて行けばきりがないのですが、こんななかなか面白いフレーズがたくさん散りばめられています。
 そして、その中心には何があるかといえば、この作家・この小説の場合は、異常に強いと言えそうな父親の存在感であります。
 それは、憎しみと理解と、そして自らの血の中に流れているのが分かる骨絡みの肉親意識でありましょうか。

 堤清二という企業人についてネットでちょっと調べてみたのですが、その父親の存在感というのは、なるほどと納得する強烈さでありますね。
 ネットという安易な検索でも、さもあらんと納得してしまう強烈な個性が、堤清二の父親の説明について山のように出てきます。
 そんな強烈な個性の人物が父親であって、一方文学的資質が自らに備わっていたならば、これは全く汲めども尽きぬ鉱脈だという気がします。

 さて冒頭で触れましたが、優れた企業人で文学者という存在が極めて少ないと思われるこの世界であるならば、この筆者は、今後も優れた人間研究事例として、大いに文学作品を世の中に問い続けて欲しいものであります。

 本作内容に十分触れきれていません。
 かなり技巧的、意欲的作品であります。芥川的でもありますが、安定しています。


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Last updated  2011.11.16 06:28:37
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