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2012.12.31
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カテゴリ:明治期・明治末期

  『千鳥』鈴木三重吉(岩波文庫)

 世間にはいろいろな趣味があるもので、と書いている私も、人から見たら変な趣味だと思われるであろう事は、何となく薄々と感じております。
 何のことをまた書き出したのかと言いますと、いえ、本ブログのことなんですがね。

 本ブログも、もうすぐ450回になんなんとし、わたくし、やっと最近自分のやっていることの意味が少しだけ分かりつつあるのですが、よーするに、私の趣味は、ははーん、読書感想文を書くことであるのだな、と。

 で、自分でも思うんですが、たぶんほとんどの方がそうであったろうと思うのですが、小学校の頃、夏休みの宿題でもっとも嫌だったものベスト3(「ワースト3」?)をアンケートしたら、その中に入ってくるであろう宿題が、読書感想文ではなかったか、と。
 (残りの嫌だった宿題ベスト3の候補としては、おそらく「夏休み絵日記」とか、あと、「自由研究」! あれも大概大変でしたよねー。そんなに毎年毎年、夏のたびに研究したいことのテーマなんてありませんて。)

 とにかく、わたくしもみなさまの例に漏れず、夏休みの読書感想文には大いに頭を痛めていたはずなのですが、しかし偉いモンですねー、あの頃から時は移り時代は流れ、今では誰に強制されるわけでもないのに、自分で勝手に読書感想文を書いているではありませんか。
 ……うーん、……何といいますか、我が事ながら実に奇々怪々であります。

 その上、読んでいる本がこれまた、例えば、正宗白鳥とか徳田秋声とか田山花袋とか、たぶん今年一年間にこれらの作家の本を読んだ人、日本中から集合! と募っても、どこか商工会議所の50人規模の小会議室に充分入っちゃう数じゃないでしょうか、きっと。
 そんな、ピンポイントな読書感想文が趣味ですというのは、やはり客観的に見て、少し変人(ヘンタイでは、ありませんよねぇ、なんとか)であるでしょーなー。はは。

 さらにその読書感想文につきましてですが、内容がないので、読みやすいんではないかと常々思ってはいたのですが、今回、はたと、読みやすいとは何か、いえ、正確に言えば、読みにくいとは何か、ということを考えた次第であります。
 というのも、冒頭の本書でありますが、これが実に読みにくい小説であったのですが、何で私はこんなに読みにくく思うのだろうかと、読みながらとても不思議に感じたのでありました。

 わたくし、鈴木三重吉の小説というのは以前に『桑の実』と言うのを読み、本ブログでも報告しています。その記事は、さほど感動したというものではないがそれなりのものだったかなという書きぶりであります。

 ただ、これも不思議なんですが、確かに時々こんな本って、ありますよね。
 どんな本かというと、読み終えた直後は感動したわけでもなく、さほど高評価を下したわけでもないのに、その後内容もどんどん忘れていった後になって、へんに好印象の残る本なんですが、そんな本って、ありませんか。

 そんな本として、今ふっと浮かぶのが、これまた我ながらきわめて変なチョイスなんですが、古山高麗雄の『プレオー8の夜明け』なんてタイトルが、本当に脈絡なく浮かんできます。(なんでこの小説が浮かんできたんでしょうかね? この小説についても、一応本ブログで報告していますが。)

 ともあれ、そんな後日悪くない印象を持った『桑の実』と同様なものかと、今回冒頭短編集を読んだのですが、これが読むのにとても時間が懸かりました。
 総タイトルにもなっている「千鳥」は、漱石の絶賛を受けたんですね。
 漱石という人は、新しい才能を発見するのが好きな人で、事実何人もの「本物」の新しい才能を発見しています。

 例えば芥川龍之介とか中勘助とかが有名どころでしょうが、一方でご存じのように名だたる「漱石山脈」には、実作者として大成したと言える作家はいません。見事に、いません。敢えて言えば芥川がそうでしょうが、彼にしても実働10年で終わってしまいました。(近年、芥川の高評価については見直されつつあるとも漏れ聞きます。)

 そんな漱石発見の「千鳥」でありますが、うーん、私としてはやはりとても読みにくかったですねぇ。
 これはたぶん、描写の「息」が短いせいではないかと、私はまず思いました。
 描写の「息」が短いと、読者が頭の中でそのイメージを作った時には、実際の文はもう次の対象の描写に移行しており、その結果読者は次々と頭の中で新しいイメージを追っかけていかねばなりません(それも、短いので十分に形作れずに)。それが、けっこう大変。

 頭の中の一つのイメージから次のイメージへの移行に、心地よいジャンプ感覚のある文章もあるでしょうが、どうも本書はそんな感じのものではないように思いました。
 そこで、とても、読みにくい、と。

 かなり雑駁な推論で何とも情けないのですが、いくら私の大好きな漱石が褒めていても、やはり本作は、筆者の若書きではないかと思うのであります。
 本文庫には最後に筆者の解題がありますが、24歳の作と触れられています。
 24歳にもなっていりゃとんでもないような素晴らしい作品を書く人もいるでしょうが、まぁ、筆者の師匠の漱石は、その年にはまだ「坊っちゃん」もしていなかったんですから(漱石が松山に行くのは29歳ですね)、これはこれで、まずまずなものであるのでしょうかね。


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Last updated  2012.12.31 11:58:59
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