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2013.01.06
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  『駅前旅館』井伏鱒二(新潮文庫)

 むかーし、私が幼くって愚かだった頃(今は老いさらばえて愚かであるという一段とたちの悪いものになっていますがー)、いろんな職業に就きたかったんですね。
 以前書きましたのが、まず漫画家。でもこれは子ども達にとってかなりポピュラリティのある職業希望ですよね。だって漫画を読むのはとっても楽しい。ただいかんせん、読むことと描くこととは全く別のものであることに、愚かな私は気が付かなかったんですね。(しかしまぁ、大抵の漫画少年少女はそうでありましょう。)

 そこで、漫画家はあっさり諦めて、次になりたかったのが大工さん。
 小学校の頃、我が家に内風呂を増築しました。今でも覚えていますが初老頃の大工さんが、何日くらい懸かったのでしょうか、ひとりでこつこつと風呂場とその手前二畳くらいの脱衣場を作ってくれました。
 母親が言うには、この内風呂ができあがるまで、私は毎日学校から帰ってきてその作業の様子をずっと見ていたということでありますが、なるほど私も覚えています。大工さんが木を切ったり釘を打ったり組み立てていくのがとても面白かったのを。

 ところが、なりたく思った仕事は次に変わりまして(だって、風呂場の増築以降私と大工さんの接点がなくなってしまったものですから)、これが板前さんなんですね。
 本当の板前さんなんて、それこそ私に接点はまるでありませんでしたが、なぜ板前になりたいと思ったのかははっきり分かります。
 倉本聡と萩原健一であります。

 そうですね。私は『前略おふくろ様』の大ファンだったんですね。
 再放送まで頑張って見ました。その後出版された理論社刊のシナリオ『前略おふくろ様・全四巻』は何度も読みました。今でも気が向けば本棚から取り出して、適当なページから読んでいったりします。今でも大ファンであります。

 さてやっとここで、冒頭の文庫本の読書報告に繋がるんですが、旅館と料亭はかなり異なってはいますが、共に板前さんがいらっしゃいます。本書においても板前さんの事に触れられています。なんかとっても、懐かしい気がします。
 そして板前さんだけでなく、旅館業、特に番頭業について、実に、微に入り細を穿つが如くに描かれているのが本書であります。

 そういえば、これはどこから聞いた(たぶん読んだ)話でありましょうか、あいかわらず出所不明瞭な話をしますが、司馬遼太郎が『龍馬が行く』を書こうとしたその前後、神田の古本街から幕末関係の書籍がみんな消えたとか。
 ……ちょっとマユツバですね。要は、それだけ司馬氏が参考文献を読破して作品に入ったと言うことでしょうが。

 同じような表現として(同じじゃないかも知れませんが)、井伏鱒二が描いた後はぺんぺん草も残っていない、と。
 『本日休診』で町医者を描き、『多甚古村』で駐在さんを描き、そして本書は駅前旅館の番頭ですが、なるほどそう言われるだけのことはあって、さすがに書き込んでありますねー。そんな個所は山ほどあるのですが、例えばこんな具合。

 これが学生の団体でも、各地方によっていろいろの風儀がございます。長野、山梨になりますと、自由外出するとき引率の先生が生徒の小遣を預かって、二百円以下しか持たせないというのがある。なかには厳重に身体検査までして、小遣銭の全部を預かってしまう先生もある。長野県というのは頭のいいところだと言うが、長野のお客さんで勝股さんという珍しく気前のいい旦那に伺った話では、あそこの信州では山のなかの馬子でも馬を曳きながら、中央公論とか文藝春秋というような雑誌を読んでいるそうだ。

 最後のところ思わず笑ってしまいますが、全編こんな感じのその業界の内実めいたたたずまいが非常に手練れた描きぶりで表現されています。
 主人公の番頭による一人称語りという形を取っていますが(またこの書きぶりがとってもうまい)、しかし最後のほうになって、この「語り」が読者に向かっての語りではなくて、実は作家らしい者に頼まれた番頭が、身の上話を長々と彼に(「彼女に」?)語っているという「種明かし」まで出てきます。そんな部分も含め、作品の隅々にまで神経を張り巡らせたような、まさに職人芸的な小説となっています。

 ……が、そんな小説をどう考えるのか、と言うことが最後に残ってくるんですね。
 この辺が、文学のとてもやっかいなところで、上記の「職人芸」という言い方は、一概に小説の最上級の褒め言葉ではないのですね。

 全く私見ながら、弟子筋に当たる太宰治が今でも大いに読まれているのは(井伏氏はどうなんでしょう。それなりに読まれている気はするのですが)、本当は太宰も充分職人芸的技術は持ちながら、それを作品としては隠したところあるのではないか、と。
 さらに言えば、職人芸的技術とは円熟味のことであり、円熟味とは若さとは相容れず、そして小説とは、ひょっとしたら「若い」ということを最大の魅力とする芸術ではないのかと、私はこっそりと考えるのでありました。


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Last updated  2013.01.06 13:52:10
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