【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

近代日本文学史メジャーのマイナー

近代日本文学史メジャーのマイナー

Calendar

Archives

Recent Posts

Freepage List

Category

Profile

analog純文

analog純文

全て | カテゴリ未分類 | 明治期・反自然漱石 | 大正期・白樺派 | 明治期・写実主義 | 昭和期・歴史小説 | 平成期・平成期作家 | 昭和期・後半男性 | 昭和期・一次戦後派 | 昭和期・三十年男性 | 昭和期・プロ文学 | 大正期・私小説 | 明治期・耽美主義 | 明治期・明治末期 | 昭和期・内向の世代 | 昭和期・昭和十年代 | 明治期・浪漫主義 | 昭和期・第三の新人 | 大正期・大正期全般 | 昭和期・新感覚派 | 昭和~・評論家 | 昭和期・新戯作派 | 昭和期・二次戦後派 | 昭和期・三十年女性 | 昭和期・後半女性 | 昭和期・中間小説 | 昭和期・新興芸術派 | 昭和期・新心理主義 | 明治期・自然主義 | 昭和期・転向文学 | 昭和期・他の芸術派 | 明治~・詩歌俳人 | 明治期・反自然鴎外 | 明治~・劇作家 | 大正期・新現実主義 | 明治期・開化過渡期 | 令和期・令和期作家
2015.07.11
XML
カテゴリ:昭和~・評論家

  『漱石 母に愛されなかった子』三浦雅士(岩波新書)

 本ブログのどこかで、近代日本文学史上の作家の中で、様々な理由であまり母親から愛されることがなかった作家を挙げていったら、その数が多かったことと、挙がった作家が「大物」ばかりだったのに少し驚いたことがありました。(誰を取り上げたときの事だったのでしょーねー。自分が書いたのにいっこうに思い出せません。)

 母に愛されないことが一流作家の条件である、と言うのはもちろん冗談ですが、幼児から少年時代にかけて母の愛情を十分に得ることができないというのは、少し考えるだけで、いかに本人の自我形成過程に大きな影響を与えるかは類推できます。
 そして、おそらく創作意欲というものは、そんな内面の不如意と大きく関係していると思います。

 さて本書ですが、以前よりわたくし、文芸評論のテーマで読んでハズレがないものは源氏と漱石だと思ってきました。
 その理由は簡単で、原典の並はずれた懐の深さが、様々な角度からのテーマ設定を可能にし、同理由が様々な論証をも可能にしているということであります。
 そして、やはり本書もその例に漏れないと、基本的には考えています。

 ただ、ただねぇ、母に愛されなかった故にという「補助線」一本だけでは、いくらなんでもちょっと立論が雑駁になりすぎる気が、実はわたくし、致しました。

 本書は九章からの構成になっていまして、第一章が『坊っちゃん』を扱っており、そして最後の第九章が『明暗』を扱うという、ほぼ漱石作品の成立順に書かれています。
 特に第一章と、『吾輩は猫である』を扱う第二章において、筆者は「母に愛されなかった」テーマがいかに漱石作品全体を貫いて重要なテーマであるかを再三強調して書いているのですが、……うーん、ここの展開が、失礼ながら、一番雑駁な感じがしました。

 そもそもこんな大きな「補助線」だと、どうでも展開できるような所があります。
 例えば『坊っちゃん』には、誰が読んでも両親から(母親から)の愛情の不在は読み取れましょうし、筆者の展開による『猫』の中に再三出てくる「自殺」テーマも、成長期における大きな愛情の欠落が自己愛の成熟を阻み、そして自殺に結びつくというという論証は納得できないわけではありません。

 しかし、なんというか、……それはまぁ、母親の愛情が子どもにとって最も重要である以上、その欠落がこういった性格を形作ったといわれれば、まぁ確かにそう考えられもするわなぁとは思いつつ、でもそれって、犬が西向きゃ尾は東、……って言ったら少し言いすぎですかね。

 わたくし、読みながら、漱石が随筆で書いていた(小説内だったかしら)、探偵の話を思い出してしまいました。
 その話とは、探偵嫌いの漱石らしい、探偵とは頼みもしないのに自分の背後から付いてきて、お前は今屁をひった、またひった、これでお前はいくつ屁をひった、と言い続けるような存在だというものでありますがー、……失礼ながら。

 もちろん、読んでいて、うーんこれはなかなか鋭い指摘だなぁと思うところもたくさんあります。
 例えば後半部、『彼岸過迄』に触れて、いわゆる「修善寺の大患」体験がどのように作品に結実しているかを説明した個所であったり、『道草』『明暗』がいかに優れた作品かを説いた部分などは、わたくし大いにスリリングに感じ、納得いたしました。

 それともう一つ、これは実は「あとがき」に書いてあるのですが、「母に愛されなかった子」というのは私的な状況ではないと説き出したところが、(「あとがき」という文章の性格上十分な立証がなされているとはいえないながら)不思議な魅力と可能性を持った説明部でありました。こんな本文であります。

 むしろ、母に愛されなかった子という主題は、かつては公共のものとしてあったが、ある段階から私的なものと見なされるようになった、と考えた方がいい。たとえば、家族、親族、部族といった、ある程度、血縁を基盤とした社会においては、母に愛される、愛されないという主題はじつは公共のものとしてあった。それが、社会の基盤が別のものに移ることによって、公私の分け方が地滑り的に変わったのだと考えたほうがいい。

 わたくし、ここに至って、「ああ」と思い出したのですが、というのは、筆者三浦雅士の評論はむかーし、たぶん大学時代あたりに一冊だけ読んだ記憶があります。(本書に書かれている筆者略歴を見て分かったのですが、『メランコリーの水脈』という評論だったと思います。)
 その内容は、もう全くといって覚えていないのですが、かすかな記憶に印象だけが残っていて、それが、どこか不思議な評論だったなぁというものでありました。

 なるほど、そういうことだったんだなと、(こういう説明は、今考えると文化人類学的なアプローチのように感じますが、いかんせん無教養な私にはそれ以上の知識がありません)……いえ、だからどうだと言うことではないのですが、本の魅力というものも、当たり前ながら、様々なものがありますねぇ。


 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓

 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2015.07.11 15:08:46
コメント(0) | コメントを書く
[昭和~・評論家] カテゴリの最新記事


PR

Favorite Blog

週刊 読書案内 岸… New! シマクマ君さん

やっぱり読書 おい… ばあチャルさん

Comments

analog純文@ Re[1]:父親という苦悩(06/04)  七詩さん、コメントありがとうございま…
七詩@ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
analog純文@ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03)  おや、今猿人さん、ご無沙汰しています…
今猿人@ Re:方丈記にあまり触れない方丈記(03/03) この件は、私よく覚えておりますよ。何故…

© Rakuten Group, Inc.