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近代日本文学史メジャーのマイナー

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analog純文

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2015.09.23
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  『高く手を振る日』黒井千次(新潮文庫)

 老人文学であります。
 どうなんでしょ、ね。現代日本老人文学も、そろそろ煮詰まってきたんですかね。
 かつて、日本の老人文学の嚆矢と言われた谷崎潤一郎の『鍵』からほぼ60年(やー、すごいもんですねー。『鍵』が書かれた年に生まれた赤ん坊がもう還暦なんですから)、日本の老人文学も十分に醗酵してきたのではないでしょうか。そしていよいよ老人文学が時代の「メジャー」に。

 ……いや、どうなんでしょ。
 実際の所、最前線の文学状況についてはほぼ無知なわたくしでありまして、どーもその辺はよくわかりません。
 とにかく、平成22年に発行された老人文学小説をこの度読んでみました。

 上記に触れた『鍵』は、現在の「性」についてのコモンセンスにおいてはともかく、書かれた時代ではかなりセンセーショナルなものでありました。
 どんな分野の文学においてもそうでしょうが、時代を画するような名作の出現は、その時代においては激しく刺激的でスキャンダラスであります。

 しかしそんな天才的作品が、まず知の領土を革命的に一気に広げていきます。
 その次に、その領土内に大枠の土木的事業とでもいうべき不可欠な諸整備をなす作品が生まれ、そして最後にソフィスティケートされた日常生活の襞を描くような作品群が誕生する、と。

 ……と、ここまで書いて私ははたと詰まりました。
 最初の印象では、本作は上記の「知的領土開拓」例でいえば、第3期作品にあたるかと考えていたのですが、どーも、それではしっくりいきません。

 で、あれこれ気になったものだから、ネットで調べてみました(こんな時ネットは本当に便利ですね)。何を調べたかというと、日本人の平均寿命の推移についてであります。

 以前『鍵』を読んだ時、主人公の男性の年齢設定が50代中盤であったことにかなり違和感を持ったことを思い出したんですね。
 で、調べてみると、……うーん、なるほどー。
 『鍵』が書かれた1956年の日本人の男性の平均寿命は、63歳と少しであります。そして『鍵』の設定は、56歳の夫と45歳の妻となっています。

 これを2015年の男性の平均寿命80.5歳(ちなみに女性は86.83歳)にアバウトにあてはめますと、主人公男性は73~74歳くらいとなり、おや、この年齢設定は、今回報告している冒頭の小説の主人公の年齢とちょうど重なるではないか、と私は気づいたのでありました。

 いえ、私が何を言いたいのかと申しますと、本書に描かれた70代中盤の男女の物語(大学の同期生で、大学時代微かに相手を異性として意識するエピソードを持ち、その後どちらも結婚と連れ合いとの死別を経験し、そして偶然のきっかけから再び会うに至るという男女の物語)は、どこにでもいそうな市井の老人男女のようであり、また表向きは静謐で日常的で上品そうな展開のようにも見えながら、実はかなり「過激」である、と。
 いえ、「過激」がピント外れな用語なら、かなりリアリティというものを脇に置いた「夢物語」的な作品である、と。
 それは少なくとも精神的には、思う以上に『鍵』の世界と親近性を持っているといえそうであります。

 私は冒頭に、老人文学も一定の時を過ごし作品も多岐に及ぶようになり、いよいよ洗練されていく時期になってきたのではないかと書きましたが、考えればそれはあまりに浅はかな思考でありました。

 だって世間では、少し前まではそれでもまだ想定の範囲内的に多量の老人介護の問題が発生するなんていっていたのに、そういった介護にかかわる金銭的・人的な圧倒的不足状態(それを指を咥えて見ていた政治の無策無能力状態)はもはや明確な前提条件に変わってしまい、いよいよサバイバルな「争い」に、その結果については個人責任をほのめかす「下流老人」とか「貧乏老後」とか「老後崩壊」みたいなスキャンダラスな言葉が出てくる昨今です。まさに本当の「混乱」はこれからであります。

 もしも文学が、個人的なものから人類全体に及ぶものまで、とにかく様々な「憂い」を糧に生じるものであるならば、時代が要求する老人文学のありようは、まだその端緒についた所といったあたりでしょうか。
 本作もそんな一つの、まだまだ荒野を鉈を使って大きく切り開いていくような作品なのかもしれません。

 今老人文学は「揺籃期」にあります。
 そしてそれゆえに、ますます時代は老人文学の過激なる出現と、そして徐々の成熟を期待しているといえそうです。


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Last updated  2015.09.23 13:14:27
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