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analog純文

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2015.10.07
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  『時が滲む朝』楊逸(文春文庫)

 本作は、2008年度の芥川賞受賞作品です。筆者は中国国籍の方で、日本語を母語としない方が初めて取った芥川賞作品となっています。(で、合っているのかな。)

 筆者について少し調べてみると、大人になってから日本にやってきて、あれこれ頑張って日本語で小説を書き、そして芥川賞を受賞した。(めでたしめでたし、と。)
 うーん、なかなか才能豊かそうな方であるなー、と。

 読んでいて、表現的に違和感の感じられる個所なんてほぼありません。ただこんな感じの個所は、ちらちらといくつか気がついたのですがね。

 どれだけ時間が経ったのか、湖畔に着いたときには東の空が魚の腹のように白くなって、何人かの学生たちが本を読んでいた。

 この部分は、新しい都会で生活の始まる主人公が迎えた新しい朝を描く場面ですが、「魚の腹のように白く」というのは、なかなかユニークな気がします。
 日本人的感覚にない比喩のように思うのですが、そんな例え方をする「東の空」ってどんなのでしょうね。いえ、良い悪いを言っているのではありません。新しい比喩の発見は表現の地平を広げます。新感覚派時代の川端康成を挙げるまでもなく。

 しかし、そもそも母語でも小説を書くくらいに縦横に操るのは極めて難しいのに、大人になってから学習した言語でそれをやっちゃうってのは、いかばかり難しいのだろうと考えるのですが、そういった才能のある人には、結構簡単(?)にできるものなのかなとも、そんな才能に恵まれなかったわたくしは愚考するのであります。

 というのも、21世紀になっても依然として他国文化との交流の少ない日本に住んでいるからそんな風に感じるのであって、「古今東西」と幅広く考えると、母語以外で小説を書いた方なんてきっと星の数ほどいたと思います。
 特にいっぱい国家とか言語とかのあるヨーロッパの作家は、母語に関係なくその時代に「強い」言語で小説も書かれることが多かったように聞きます。(鴎外の『舞姫』の中にそんな表現があったような。)

 しかしそうではない、閉鎖的言語空間国家に住んでいるわたくしと致しましては、つい考えちゃうのですね。なぜ外国の方が、成人後学んだ母語以外の言語である日本語で小説を書くのだろーか、と。
 ……としつこく考えたところで、そういえばと浮かんだのですが、多和田葉子という小説家は芥川賞を取った後、ドイツに行ってドイツ語でも小説を書いていらっしゃったようなと思い出しました。
 
 ふーむ、やはりそんな言語的・文学的才能の備わった人にとっては、母語以外で小説を書くなんてことは、小説によって文体をちょいちょいと変える程度の事なんでしょうか。凄いものですね。

 と考えながら今回の冒頭の小説に目を向けますと、さて、わたくしはこの方面の複雑なことは何も知らないのですが、この小説は母語で書かなかったのではなく、母語では書けなかった事情があるよーな気が、まぁ内容的に、何にもわからんなりに、やはりしますわね。

 よーするに「天安門事件」ですね。この事件は、側聞いたしますに今に至るも中国の政治的タブーであるとか。つまり、古来、国家と文学は、極めて対立的な繋がりが強いということであります。

 しかし考えるに、それが国家の政治的タブーである云々でなく、例えば現代日本(国家の政治的タブーがなさそうに見えて実はきっとありましょうが)においても、リアルタイムで正面から政治を語る小説は難しそうです。

 ちょっと考えて、一体どんな作品が挙がるでしょう。一つ二つぱっと浮かんでも、それらの作品もすでに30年、40年くらい前のもののような気がします。
 つまり3、40年も前といえば、日本における「学生運動」(「天安門」とはかなり異なるところがあるとしても)盛んなりし頃でしょうか。

 本作品は、ちょうど真ん中あたりで前後半に、時間が十年くらい飛ぶ展開になっています。全体の分量が中編小説くらいで二つの時間を描くことは、おのおのの部分について少し物足りない気もします。

 しかしこうすることが、「学生運動」のその後の姿をも踏みとどまって描こうとしているのなら、なかなか積極的に攻め込んでいると考えられそうでありますね。
 今まで日本になかったとは思いませんが、「今の時代に正面から政治を語る」と考えると、きわめて貴重・ユニークな作品と感じます。


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Last updated  2015.10.07 20:51:44
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