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analog純文

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2016.05.28
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  『介護入門』モブ・ノリオ(文春文庫)

 たぶんこれは私一人だけのことじゃないと思いますが、筆者の名前について見かけ初めの頃、私は「モリ・ノブオ」さんだと思っていたんですね。だってこれが普通の日本の名前でしょう。
 カタカナであったり名字と名前の間の「・」は、まー、さらに少しは気になっていましたが、この程度のユニークさはペンネームの遊びとして十分考えられる範囲だろうと、そんな風に読み違えていたんですね。(なんか昔、大学の国語学の授業で習った「清濁転倒」、例の「舌つづみ」と「舌づつみ」ってやつに、少し似た誤読ですよね。)

 ところがその後「モブ」だと発見しまして、えっ? 「モブ」って何? どんな字を当てるの? とちょっとネットで調べると、「モブ」は「群衆」だというではありませんか。
 「群衆」の英語の「モブ」だと。だとすれば、「モリ・ノブオ」と「モブ・ノリオ」とは、イントネーションまでまるで違ってくるではありませんか。

 ……うーん、しかしこれは人を喰ったペンネームですねー。
 類似例を頭の中で近代日本文学史で「検索」してみると、「二葉亭四迷」ぐらいの感じじゃないでしょうか。
 でも、江戸から明治になってからも、この頃の小説家のペンネーム(筆名・雅号のたぐい)って、改めて考えてみるとどれもこれもけっこう人を喰った感じですよね。逍遥とか子規とか、啄木とか紅葉とか……。

 例えば、「漱石」なんて筆名も、我々はすでにこの名前を読み慣れ書き慣れ聞き慣れているからさほど違和感もありませんが、名前の故事をよく考えれば、これも大概人を喰ったペンネームであります。(「漱石」ってのは、あれは最初は正岡子規が考えた筆名だったそうですね。それを大親友漱石が貰い受けたという。)

 で、「モブ・ノリオ」に戻るのですが、とにかくこのペンネームはかなり特殊なニュアンスというか色合いというか、うーん、うまく言い切れませんが何か「クセ」を感じさせるものがあり、そんなペンネームだと先入観を持って作品のタイトルを見るとこの「カマトト」ぶったタイトルも、かえってひねり倒した挙句の無作為の作為めいて感じられ、そしてやっと作品内容に入っていくと、案に違わず、これはなかなかの異色作ではないか、と私は感じ入ったのでありました。

 本作は、現在失業中の髪の毛の真っ黄色な青年が、認知症で下半身が不自由な祖母を自宅介護するという話ですが、今から10数年前の自宅介護の現場の描写は、やや偽悪的に描かれてはいるものの、特に作品の終盤に向かっては、この二人に青年の母を加えた三人の介護の日常が、一種「聖家族」のようにも描かれ、ストーリー上の読ませどころとなっています。

 だから、主人公の青年が作品全編で吐き散らす言葉の中にあふれている呪いのような憎悪の対象は、決して介護という社会的状況が劣悪であることに対する非難とは言い切れません。
 では、主人公の青年が怒りの言葉を吐き続けるそのターゲットは何なのか。

 私は本作の描かれ方に近いものとして、中上健次の『十九歳の地図』を思い起こしたのですが、本作の主人公の姿は、『十九歳の地図』の主人公の肥大し壊れかけた自意識よりは醜くはない代わりに、一つの典型にはなりえていないように思います。

 でも本作にも、どこか創作表現として極めて真摯なもの、それは本当に優れた小説がおのずと形を浮かび上がらせる生の意味とか、自由や表現についてとか、そんな根源的なものがあるように感じます。単なる作品の題材的なものだけに寄りかかっていない何かが、読み取れるように思います。
 しかし一方で、なんといっても本作のボリゥームが中編程度のものであり、その標的に近づいていく表現に、十分な深みと迫力を持ち合わせていないことも明らかでありましょう。

 さて、筆者「モブ・ノリオ」氏は、本作で2004年度の芥川賞を受賞しましたが、ネットでちょこっと調べた範囲では、それ以降主だった文学活動はなさっていないようです。
 十数年の空白は長いようにも思えますが、流行作家ではない「純文学作家」の良いところは(「良いところ」ってのもなんとも間の抜けた表現ではありますが)、日本文学史の歴史の中に入ってしまえば、10年や20年のブランクなどほぼないに等しいとまとめられるところであります。

 20年後、いえもっと先でも構いませんが、本作を上回る存在感を持った異色作を、わたくしとしましては、大いに期待し、また予感とするところであります。


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Last updated  2016.05.28 15:18:44
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