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analog純文

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2016.08.02
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  『漱石書簡集』夏目漱石(岩波文庫)

 上記文庫本の読書報告の後半です。
 前半は何が書いてあったかと言いますと、……うーん、何が書いてあったんでしょうねー。たぶん、書簡集と書簡体小説は当たり前ながら違うのだということを私は見落としていたと書いていたと思います。

 そんなの当たり前じゃないかとお思いの貴兄、……えー、どうもすんません。
 ご指摘いただきますと、全くその通りでございます。
 ただ、その辺の微妙なニュアンスを今回、ぼちぼちと綴ろうと思っておるんですが……。

 さて、書簡集の「華」といえば(またいきなり訳の分からないことを書き出したなとお思いの諸兄、……えー、重ねてどうもすみません)、やはり「恋文=ラブレター」ですよね。

 海千山千の作家であっても、自らの恋文となると客観性もへったくれもない読んでいてこちらが恥ずかしくなってくるような書簡があったりします。有名どころで言えば、芥川龍之介が独身時代、後に結婚することになる(婚約中だったそうです)塚本文子さん(まだ18歳の女学生だったそうです)に送った恋文ですかね。

 後年『侏儒の言葉』で、

  恋愛――恋愛は唯性慾の詩的表現を受けたものである。

  女人――女人は我々男子には正に人生そのものである。即ち諸悪の根源である。


 などとシニカル書いた(毒づいた)同じ人物のものとはとても思えず、手紙中で「文ちゃん」「文ちゃん」と何度も呼びかけたぐずぐずのずぶずぶのらぶらぶのラブレターであります。

 で、この度の漱石の書簡集ですが、中に漱石の奥方「鏡夫人」に対する「ラブレター」がありました。これはなかなか珍しいと思うんですが、ちょっと載せてみますね。

 (略)眼がまわって倒れるなどは危険だ。よく養生をしなくてはいけない。全体何病なのか。具合が少しよくなったら、よくなったと郵便で知らせてくれ。御前が病気だと不愉快でいけない。(略)
 あったかになると病院が急にいやになった。早く帰りたい。帰っても御前が病気じゃつまらない。早くよく御なり。御見舞いに行ってあげようか。
 子供へ皆々へよろしく。


 ……えー、お読みになってあれっとお感じと思いますが、この手紙は明治44年(1911年)、長与病院に入院中の漱石が、自宅の鏡夫人に当てて書いた手紙であります。
 前年にいわゆる「修善寺の大患」があり、後期の漱石作品に決定的に影響を与えたと言われる「臨死体験」から約半年後の手紙ですが、……いやー、実にラブラブの手紙ではありませんか。

 本書は明治22年(漱石22歳)の正岡子規宛の手紙から始まって、大正5年11月(臨終の約一ヶ月前)に書かれた手紙までが抄録されています。
 はっきり言いまして、面白いのはやはりこの「修善寺の大患」以降の手紙です。
 すべてがそうだとは言いませんが(同様に前半の手紙にも、興味深いのはいくつかありますが)、漱石の晩年の境地である「則天去私」を描いていると言われる随筆『思ひ出すことなど』や『硝子戸の中』と、直接地続きになっているような手紙が見受けられ、何と言いますか、私信とはいいながらその粘稠度の異様に高い表現に、私は読んでいて少し息苦しくも驚いてしまいました。下記は、大正5年8月に久米正雄・芥川龍之介宛に書かれた手紙の終わりの部分ですが…。

 今日からつくつく法師が鳴き出しました。もう秋が近づいて来たのでしょう。
 私はこんな長い手紙をただ書くのです。永い日が何時までもつづいてどうしても日が暮れないという証拠に書くのです。そういう心持の中に入っている自分を君らに紹介するために書くのです。それからそういう心持でいる事を自分で味って見るために書くのです。日は長いのです。四方は蝉の声で埋っています。以上。


 どうでしょうか。こんな部分は、そのまま『こころ』の「先生の遺書」や、『行人』の終盤部「Hさんの手紙」に挿入しても全く違和感がないように思います。

 前回の私の駄文に、この書簡集を書簡体小説と勘違いしたというようなことを書きましたが、書簡体小説と書簡集の違いは一言で言えば「扇の要」に当たる部分の有り無しの差かなとも思うのですが、ひょっとしたら晩年の漱石は長編小説の一部にそのままトレースできるような日々を送っていたのではないか、……いえ、厳密には漱石は「夭折」とはいえないでしょうが、「後しばらくの命をあげたかった近代日本文学作家ナンバー1」の漱石の相対的に短かった「実働期間」への、それは私たち読者の見果てぬ夢でありましょうか。


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Last updated  2016.08.02 07:06:39
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