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カテゴリ:昭和~平成・評論家
『江戸川乱歩と横溝正史』中川右介(集英社) この両名の日本推理小説界における功績は、なるほど、誠に偉大なものがあるように思いますね。 本書はこの両名についての作家伝ですが、なかなかの力作でした。 全く個人的な感想ですが、私はこのお二方について描かれているうち、江戸川乱歩の部分の方がおもしろかったように思いました。その理由は、例えば筆者がこんな風に書いているあたり……。 (江戸川乱歩の)最初期の純粋理論の探偵小説の完璧さと小説への純粋な思いと、量産していった通俗長編との間の矛盾は、この作家の最大の謎であり、そこが魅力でもある。 この「矛盾=謎」に比べると、横溝正史の推理小説作家としての歩みは、堂々と見事ではありますが、虚構的面白さはあまりありません(たぶん)。 横溝正史の晩年(1970年代)の角川書店のメディアミックス戦略による横溝大ブームは、氏の抜きん出た推理小説作家としての才能を証明しましたが、そこには「謎」はありません(たぶん)。 ということで、私は乱歩の「謎」を考えたいのですが、乱歩の「謎」を考えるということは、結局乱歩の「功績」を考えることだと思います。 乱歩の一番の文学的功績といえば、ここも本文を少し引用しますと… 一般論として、「乱歩作品で真に名作と呼ばれるのは初期の短編だけ」…… という、例えば『屋根裏の散歩者』とか『人間椅子』とか『芋虫』とか『押絵と旅する男』とか(えらいものですねー、本当にどんどん名作が出てきます)になりましょうが、今回本書を読んで私がなるほどと納得したのは、もう一方の乱歩の功績つまり、少年小説作家としての乱歩の部分でありました。本文にはこんな風に書いてあります。 (略)こうして、江戸川乱歩は日本史上、最も多くの読者を得た少年小説作家となった。それはどんな高名な文学者も敵わない。 なるほどねー。言われてみればそんな感じですねー。 例えばいくら宮沢賢治の童話が昔から変わらぬ人気と評価を誇っているといっても、たぶん「明智小五郎」には敵わないような気がします。 そして、そうなるに至った原因を、本書は二つあると書いています。 一つは乱歩のオリジナルですが、もう一つは、乱歩の実力というよりは巡り合わせである、と。 まず一つめの原因説明の急所を引用してみます。 これまでの子供向け探偵小説は、子供を主人公にすると日常的な事件しか扱えず、大人の探偵を主人公にすると子供からの人気が得られないという矛盾を抱えていたが、大人の名探偵と、それを助ける少年探偵という師弟を考えだしたことで、乱歩は空前の成功を得る。 これも言われればその通りですが、このコンビとはそういう意味のコンビで、そしてそれは乱歩が嚆矢だったんですかー。 確かに、漫画のコナン君なんかも、コナン君一人だけではどうしようもなく、毛利小五郎なんて大人が側にどうしてもいりますもんね。 というわけで、これは乱歩のオリジナリティーの勝利。 で、もう一つの原因ですが、上記の引用部に「最も多くの読者を得た少年小説作家」とありましたが、「最も多くの読者」の意味するのはこういう事です。 「少年探偵」シリーズの読者数は、売上部数の数十倍だろう。乱歩没後、ポプラ社版が小中学校の図書室に置かれるようになるからだ。一冊の本を数十年の間に、数十人、数百人、学校によっては数千人が手にしただろう。 これもその通り、たぶん私も学校の図書室で「小林少年」と初めて出会った気がします。 そして、学校の図書室に燎原の火のように(この語法は少しヘンですか)「怪人二十面相」が姿を現した原因こそが、乱歩の「巡り合わせ=幸運」であります。これも、引用。 ポプラ社が乱歩に接触した一九五二年は、ポプラ社にとっては、初めて図書館向けの本として『少年博物館』全十二巻を刊行した年だった。学校図書館法が国会で成立するのは一九五三年で、翌五四年四月に施行される。学校に図書館を設置する義務を課したこの法律により、全国の小中学校に図書館が設置されるようになり、児童書マーケットは飛躍的に拡大した。 学校図書館という巨大マーケットこそが、江戸川乱歩と明智小五郎と小林少年と怪人二十面相を不朽のものにさせるのである。 ……どうですか。「成功」の秘訣として人々がしばしば口にする「実力と運」という言い回しは、まさにこういう状況を指しているんですよねー。 そんな、「実力と運」を絵に描いたような江戸川乱歩の半生が、本書にはたっぷり書かれてあります。 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.02.17 14:26:04
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