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analog純文

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2018.09.30
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  『九十八歳になった私』橋本治(講談社)

 以前同筆者が老いについて書いていた本を読みましたが、基本的にはあそこで展開された思考を虚構にスライドした感じの小説であります。例えばこんな風に書いてありました。

​ 人間は、自分中心の天動説で生きてるもんですから、「自分は年寄りだ」と思ってそれを認めようとしても、「自分以外の年寄り」は、やっぱりいやで、「他人と同じ年寄り」のカテゴリーに入れられるのがいやなんですね。(『いつまでも若いと思うなよ』新潮新書)​

 ここに盛られた意見が、本書ではこんな感じで描かれます。

 (困ったもんだ。すぐ年寄りは「俺は違うんだぞ」という自慢をする)
 (でも、それ取ったら生きてる理由もないな。人間は、自慢することによって自分を立たせる生き物だからな)
 (困ったもんだ、寝っ転がったままでも自慢する)

 どうですか。……ふーん、こんな感じで小説になるのかぁと、ちょっと興味深いところですね。

 さて、本書のあとがきに、筆者自身がこの小説は三十年後を描いた「近未来空想科学私小説」だと書いています。純文学雑誌『群像』の近未来特集に短編を一つ書いたら、面白いから連載にしようという依頼があってこうなった、とあります。

 昨今の純文学雑誌の動向については、まるで私は無知でありますゆえ、はー、そんなものなんですかとしか感想の書きようがないのですが、なんといいますか、「タルイ」といえば大いに「タルイ」感じのお話しであります。

 それは100歳直前の主人公私小説一人称展開ですから、冗漫さもリアリズムだというところではありましょうが、でも、例えば私は寡聞にして読んでいないのですが、野上弥生子が九十九才で書いた『森』という小説もそんな冗漫さを持っているんですかね。(もっとも野上の『森』は別格中の別格だという評価はどこかで読んだ気はしますが。)

 ともあれ極端にダラダラした展開の中で、もしも読解のポイントがあるなら、私は2つだと思います。

 1つ目は「ディストピア」。この言葉は筆者のあとがきにも出てきますが、今の日本に住んでいて、三十年後をふと思った時、そこに今より住み良い社会が広がっていると考えられる人はかなりの楽天家であろうということで、同感せざるを得ない気はします。

 本書は、東京大震災が起こって東京神奈川千葉崩壊、国内の原発も二個が壊れ火力発電もだめで電気供給も不十分、被害地域と被災者の数が多すぎて、主人公は栃木県の日光のあたりの仮設にひとりで住んでいるという設定です。

 さらにその日光の仮設近くの森に、プテラノドンが現れるという展開もあるのですが、まぁ、プテラノドンはともかく、そしてそれが30年後なのかはともかく(例えば南海トラフ大地震が今後30年の内に発生する確率は実際70%以上もあるんですよね)、大いにリアリティを刺激する日本の姿であります。

 そして2つ目の読解ポイントは、100歳前の作家の一人称という設定ですから、究極の生きる意味でしょうかね、やはり。例えばこんな部分。

 「今日の自分は昨日の自分とおんなじように生きてる」という状態で漂っているということなんだろうなと思った。それで、「明日も同じように自分は生きているだろう」になると、別に不安にはならなくなるなと思った。「不安になる」というのは、体力を必要とすることだから、ボーッとしてりゃ不安にならぬ。過去、現在、未来が区別のつかないようになってしまえば、不安なしに永遠の雲の上を動く静かなホバークラフトに乗っかかったみたいに
 (あ、また指が固まった)

 突然目を覚まして「行かなきゃ」と飛んで行くのはいいが、どこへ飛んで行くのだろう? いいな。目的がなくて、まず行動があるだけですむ人生というのは。人間はなんだって脳味噌などという余分なものを持っているのだろうか。私だって、朝起きて「あ、そうだ」と思ってそのままどっかに飛んで行けちゃう人生だったら幸福だと思う。
 カナブンはどこへ行くのだろうか?

 ……。いかがでしょう。
 なるほどこんな事を堂々と書くためには、確かに、100歳直前小説家一人称私小説くらいの設定は、必要な気がしますね。


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Last updated  2018.09.30 08:12:33
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