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近代日本文学史メジャーのマイナー

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analog純文

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2019.06.24
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  『死んでいない者』滝口悠生(文藝春秋)

 この小説も芥川賞受賞作品ですが、一種の実験小説ですね。
 どんなところに実験性があるかといえば、まず、そのストーリーにおいて、一人の老人が死んだその通夜の晩のことだけ、そこに集まった故人の親族や友人のことだけが描かれた小説であること。設定がかなり実験小説的。
 で、そこから想像がつくように、お話としてはかなり退屈であります。

 二つ目に、「語り」の視点が分からない文体であること。
 基本的には三人称文体なのですが、時々誰の思い・感じ・考えなのか分からない記述が出てくることです。
 それに合わせるように、せりふと地の文を区切る印(多くはひとえかぎ。これ「  」)が用いられておらず、わざと視点の分からない記述と混乱させているように書かれています。

 実は私は読み始めたとき、この文体がかなり気になりました。読んでいて、いいいいーーー、という感じで、とても気持ち悪い思いをしました。
 話が進んで少し読み慣れるまで本当に気持ちが悪くて、何度か読むのを放り出そうと思いました。

 そして三つ目の実験性。これは、実験というのかちょっとよく分からないのですが、こんな風に書いてあるところがいくつかあるんですね。

​ しかし寛の記憶は混濁している。弟の出産でこの家に預けられ、夜布団の中でべそをかきはじめた日、横でなぐさめていたのは祖母ではなく祖父だったはずだ。​

 実はこの表現の数ページ前に、祖母に慰められる幼い少年寛の描写がかなり丁寧に書かれてあるんですね。だから、ああそうなんだと思って読者は読んでいくわけです。ところがその後で、それは嘘だったよと書かれる。そんな箇所が数カ所あります。
 これは少しあっけに取られますね。

 しかしこの仕掛けは、考えようによれば出来事(記憶)の二重イメージのようで、それなりに悪くない広がりを作り、それにこの「嘘つき」の描写は、なんとないユーモアを産んでいます。

 という風に3つの実験性に整理してみましたが、ではこれらによって筆者は何を描こうとしているのかと考えますと、作中ところどころに「種明かし」があるように私は思いました。例えばこんな部分。

​ どれくらい歩いたか、そこに時間の感覚はもうなくなってしまっているのでわからない。十分ほどだったようにも、何時間もかかったようにも、想像ができる。地図を見ればおおよその見当がつくかもしれないが、結局そこにあるのは距離であってあの日の道のりや時間ではない。あの日立ち止まったり、遠回りをしたり、道に迷ったりしたことまでは地図に書かれていない。しかし重要なのは絶対にそちらの方で、だから地図を見るのは記憶を殺すことになりかねない。だから俺はもう絶対地図は見ない。​

 こういうのは、いかにも純文学的だなと思いますね。
 そう思ってあれこれ考えてみると、芥川賞には、このような感じ方に対する「嗜好」とも言うべきものが、かなり以前から連綿と続いているような気がします。
 とりあえず私が思い浮かべたのは保坂和志の芥川賞受賞作「この人の閾」。

 これはくっきりとしたストーリーライン(起伏のある物語)をほぼ持たない小説でした。保坂和志の小説は他にも何冊か読みましたが、どれも本当に「事件」が起こりません。
 冒頭にも書きましたが、退屈といえば本作以上にとても退屈な小説です。

 そのことについてはもちろん賛否はあるでしょうが(純文学小説とは退屈な小説のことだと思われる等)、しかし、あ、そんな流れの小説なんだなと思って読むと、小さなエピソードの一つ一つが、とても静かに優しく丁寧に書かれていることに気がつきます。

 大きな起伏はないのだと思いながら読むと、実は細かい「仕掛け」は、作品中にかなりいろいろ書き込まれていることに気がつきます。

 例えば本書には、やたらと未成年が飲酒する場面が出てきます。小説の内容を倫理的に断罪するつもりはありませんが、これだけ未成年(十代前半の未成年)の飲酒シーンが出てくると、私としてはリアリティに違和感を感じるのですが、読み進めていくと、あ、そういうことかと思ったりします。

 また、保坂和志の小説のように、描かれていることに「裂け目」の様なものがないと書きましたが、本作は、保坂和志よりはもう少しくっきりとした「裂け目」があります。
 特に私が興味深く感じたのは、「引きこもり」の人物が、中盤以降俄然魅力的な人物として描かれているところです。

 例えば小説『コンビニ人間』等のように、自己肯定感がきわめて低くコミュニケーション障害の様な女性が主人公の話が、芥川賞でもここ数年五月雨的に取り上げられていますが、本書に至って、いよいよ「引きこもり小説」が現れたような気がしました。
 しかしこの「引きこもり」の姿は、興味深く魅力にあふれています。

 本書には、そんな「裂け目」もあります。
 読み始めてしばらくはあれほど気持ち悪かったのに、読み終えると割とさわやかです。
 うーん、筆者はなかなか手練れな書き手だな、と私は強く感じたのでありました。


 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ 





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Last updated  2019.06.24 20:53:21
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