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analog純文

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2019.07.08
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  『ジニのパズル』崔実(講談社)

 やー、なかなか元気な小説が出て来たぞと思いました。
 主人公の中学一年生の女の子が、そこいらじゅうを走り回って飛び回っているような小説です。
 といっても、もちろん能天気な話ではなくて、後述しますように、たくさんの困難を抱えた女の子の話です。

 あるいは、私がなかなか元気な小説と思ったのは、ひょっとしたら、やたらにたくさんのエピソードが詰め込まれているせいかも知れません。
 この小説は、筆者にとってデビュー作であるようで(例の『コンビニ人間』が芥川賞を受賞したときに同時にその候補になり、残念ながら受賞を逃した作品です。『コンビニ人間』がなければ、受賞していたかもしれない作品です)、そんな作品に往々にして見られますが、とにかくぶち込むという感じが、本作にもありそうです。

 ただ、そんなたくさんのエピソードに、ちょっと出来の良し悪しの幅があるように思いました。
 例えば、北朝鮮に行った(帰った?)主人公ジニの祖父の手紙とか、ジニがほのかな思いを寄せようとする同級生の男の子の話とか、分かりはするが段取りっぽい書き込みだと私は感じました。
 書くならもう少ししっかり書き込んでほしいかな、と思いました。

 ついでですから、先に少し気になったところを挙げておきますね。
 在日三世韓国人のジニが小学校6年生の時に、今までそれなりに友達関係のあった同じクラスの女子から、彼女が朝鮮人だとわかったとたんにひどい侮辱を受けるという場面があります。
 でも彼女は苗字を韓国名で名乗っていたようだし、そもそもこの話の舞台(ジニが小学6年生の時)は1997年の東京で、その時代にこういう状況って、リアリティがあるのでしょうか。(……いや、あるのかな。)

 また、この話のきっかけになった授業をしていた先生について、その事件直後のこんな描写があります。

​ 仲間たちは、転校先の朝鮮学校のことを訊かなくなった。距離を置くように、私を遠ざけるようになった。歴史の先生は、まるで罪人でも見るかのような目付きで私を見た。私の席を通り過ぎる時や、階段ですれちがう時には、横目でじろりと、どこか憎悪さえ感じるような視線を私に送った。​

 もちろんこの描写は一人称のもので、先生に対して主人公がこう感じているのだと、その主観を描いていると読めないわけではないでしょうが、ちょっと違和感を覚える所です。

 「ゲームセンターの悪魔」の章でも、ジニに許しがたい悪意と行為をなす黒いスーツ姿の男たちについて(このエピソードは展開上とても大事なポイントではありますが)、どうも今一つリアリティに欠ける感じがするのは、私の読みそこないでしょうか。

 ……というように、まず私が気になった個所を先に挙げたのですが、そんな「違和感」にもかかわらず、本書は、全体としてとてもパワフルさの感じられる、そしてそれなりに大きな流れと見通しのある作品だと思いました。

 読後私は、しばらくじっと内容を思い出しながら考えてみたのですが、この「パワフルさ」「大きさ」は、主人公ジニが4つの困難に立ち向かっている、いわば四重苦を描いている作品だからじゃないかと気づきました。
 四重苦とは、このようなものです。

 1、若さ(未熟さ)という困難。
 2、本文に「不思議ちゃん」という表現がありますが、
   強烈な自意識と周囲への不適応という困難。
 3、今の日本に女性として生きていることの困難。
 4、そして、在日韓国人三世という困難。

 改めて指摘してみると、これはなかなか、なかなかな作品ですね。一つ一つを取り上げても、それだけでお話ができそうなテーマ=困難を、4つも一挙に取り上げているのはすごいですね。
 しかし、それはパワフルさを生みもしましたが、ちょっと「自爆」気味に終わってしまったきらいもあります。

 というのも、主人公はこの4つの「困難」に対して立ち向かおうと決意しますが、最終的に独りで「革命」を起こそうとしたのは、結果論で言えば一番対抗しやすそうな4番の「困難」に対する行動でありました。

 では、残りの3つの「困難」に対しては、どう立ち向かうべきであったか。
 それを考えた時、私は、最後の「違和感」にたどり着きました。
 つまり、……

  例えば、『ライ麦畑で捕まえて』の主人公、高校生のホールデンは、
  未熟であることで断罪されるか、

 という私の中の問い掛けでした。
 本書の主人公ジニは、私の中では、『ライ麦畑』の「ホールデン」の隣に位置していても、まずおかしくない主人公だと思います。
 でも、彼女はやはり、何といってもまだ中学一年生にすぎません。

 上記の残りの「困難」に対しては、私は学ぶことで立ち向かえる力をつける以外にないと感じます。
 その時この作品は、パワフルではあるが、そのパワフルさの根源を主人公が幼いこと(未熟であること)に負っているのなら、やはり不満が少し残りはしないかと思いました。

 でも、いい作品だと思います。
 心がゾクゾクしました。
 それは、感動したという事でありましょう。


 よろしければ、こちらでお休み下さい。↓ 





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Last updated  2019.07.08 21:15:54
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